宝さがし
「まだ見つからないのですか?」
魔法省。
冷酷な統率者エグモントが、姿勢を低くし青ざめている家来たちに淡々と問いかける。
家来たちはその声音に冷や汗を流していた。
「申し訳ございません!ただ、本当に、国中どこを探しても
「僕がミスをしているとでも?」
「ヒッ!!い、いえ、まさか、そんな!!エグモント様ほどの魔法使いが……!」
「僕のミスでないなら……侵入者を未だ殺せていないのは、誰の問題でしょうね。無能な者を雇用してしまったこの魔法省と、これまでその無能さに気付かず殺してこなかった僕でしょうか?」
氷のように冷たい瞳で家来たちを見下ろしたエグモントは、ドアの近くに立つ護衛の騎士に短く命令する。
「こいつらを始末しろ」
家来たちが絶望したように目を見張った。しかしその命令は撤回されることなく、彼らはずるずると引き摺られるように別室へと連れて行かれる。
部屋に残ったエグモントは、トントンと指でデスクの表面を叩いてた。
(……うちの捜索部隊が国中を探しても見当たらないということは)
深く考えるように、一定の場所を見つめて。
(もしかすると侵入者が身を潜めているのは――この国において、魔法省の次に強い結界が張られている、あそこか?)
デスクの上には、レヒトの国の地図が貼られている。
その地図の上をゆっくりとなぞったエグモントの視線の先にあるのは――――
国内最高峰の魔法学校、フィンゼル魔法学校だった。
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「カトリナカトリナー!」
「……っ!!」
魔法の靴事件も落ち着いた頃、今日も《知の部屋》は二人の女生徒のせいで騒がしかった。
二人の女生徒とは、ミアとカトリナである。
あのお礼の手紙と見舞いの花束をもらって以降、ミアはカトリナを見ると小動物を可愛がるかのようにすぐ抱きつくようになった。
「あなた……!毎度毎度暑苦しいですのよ!」
「ごめん、カトリナ良い匂いがするからつい……」
「言い訳が変態……!」
あれだけミアに対してチクチクと針を刺すような嫌味ばかり言っていたカトリナも今では大人しくなり、《知の部屋》の生徒たちは全体的に仲が良くなった。
元からカトリナと仲良くなりたがっていたミアと、
「宝探し大会がもうすぐ始まりますのよ。気を引き締めてくださいまし」
ごほん、と一つ咳払いをしてカトリナが言う。
――宝探し大会。
全学年合同で行われる、クラス対抗のイベントだ。
ルールは、学園の敷地内のあちこちに隠されたカラフルな玉――手毬サイズのそれを多く獲得したクラスの勝ち、という単純なもの。
1年生にとっては初めての学校全体イベントなので、楽しみにしている生徒も多い。
「闇の魔法が得意で、狡賢い手段を使ってきそうな《占の部屋》の連中には警戒しなければなりませんね。攻撃魔法を得意とする者が多く下手したら争いになりそうな《体の部屋》の連中とは戦いたくありませんし、膨大な魔力を扱う者の多い《北の部屋》の生徒は大胆な魔法を使いそうで恐ろしいです……」
「まあ、変に怖がらずに楽しもうよ。とにかく玉を多く取れば勝ちなんだし」
ミアが体操着に着替えながら、不安がる生徒にそう言った。
既に体操着に着替えているカトリナはミアをぎろりと睨む。
「そんな甘っちょろい考えでどうしますの。やるとなったら勝ちますわ」
カトリナがぱちんっと指を鳴らすと、ハヤブサの大群が窓から教室内に入ってきた。
「この日のために訓練を受けたハヤブサを用意しましたわ。魔法を使えば会話もできるはずです。一人一羽持っていきなさい」
「まあ……!イーゼンブルク家の庭で飼っていらっしゃるハヤブサたちではありませんか!ありがとうございます、カトリナ様!」
庭でハヤブサ飼ってんだ……とミアは格の違いに震えた。
「これは玉を素早く取るためだけでなく、玉を持つ生徒を見つけたらわたくしかミアに連絡するためのハヤブサですの」
「え?何で私たちに連絡?」
「もちろん、玉を奪い取るためですわ!このクラスで戦闘慣れしているのはわたくしとあなたでしょう」
カトリナの手荒すぎる提案にミアは内心(いいのかなそれ……)と思ったが、他の生徒たちは何故か目をキラキラさせているので反論を飲み込んだ。
ハヤブサが生徒一人に一羽つき、ミアのところにも大きな子が一羽やってきた。ミアの手の上に止まったハヤブサは、じっとミアの瞳を見つめている。
「ちなみに餌はこちらですわ」とカトリナが餌の袋も一人一人に配る。
「あと5分ほどで大会の始まりです。皆様、お手洗いや水分補給などは済ませてますわよね?」
カトリナの問いに、生徒たちがコクコクと頷いた。カトリナが声をかければこのクラスの生徒たちの心は一つになる。見事な統率力だ。
ミアはもう一度ハヤブサを見た。ハヤブサもミアの方を見ている。
(……やばい。動物と会話する魔法勉強してないや……)
ミアが内心焦っているうちに大会開始のゴングが鳴り、ミア以外のクラスメイトたちが一斉に走って教室から出ていった。
――重たい。
ハヤブサを肩に乗せて廊下を歩いていたミアだが、およそ十歩ほどでその事実に気付いた。
地面を歩くか飛んで付いてきてほしいが、そう伝える手段がない。
体重軽減の魔法をかけてもいいのだが、そうすると飛行に何らかの影響が出ることが予想される。
ミアはハヤブサを抱っこして図書館まで向かうことにした。
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