第肆拾肆話 “中央山道”
「妲己にはある所に行ってほしいんだけど…」
「嫌じゃ。妾は其方を守りたい」
「妲己…俺の願い聞いてくれない?」
「そ、その言い方はずるいのじゃ…相分かった。其方の願い聞き届けよう」
「ありがとう」
(おかしい…これまで妖怪に遭わないなんて)
あちこちで激しい妖力のぶつかり合いが起こっている。この中央の山道まるで“通ってください”と言っているようだ…
(でも進むしかない)
数分後、山頂へと至った。山頂着くまでやはり妖怪の姿は確認できなかった。
「よく来たな、凪よ」
「ぬらりひょん…」
山頂、洞窟の目の前に立つはぬらりひょん。洞窟から出てきたのか、はたまた分裂体が出てきたのかは分からないが、討つべき敵は目前。
「今度こそ、祓うぞぬらりひょん」
「主にできるかな?」
ぬらりひょんは凪の頭上へと何かを投げる。
(指!?)
凪は瞬時に理解し、避ける。それは前回目の当たりにした物だから。
“部位爆破”
頭上に爆炎が巻き起こる。この気を逃すまいとぬらりひょんは凪に近づく。
“だから君が開けてあげるんだ”
そんな状況の中で俺は閻魔さんに言われた言葉を思い出す。
ぬらりひょんが“地獄の門”を使って妖怪をこの世界に連れて来たいと思っている…でも妖怪を連れて来て何をしたいのかが分からない…
今は戦いに集中しないと…
(扉を開ける…)
“獄門・臨界対殺領”
向かってくるぬらりひょんの眼前に突如として“門”が出現する。その門の端には嘆く亡者があしらわれており、門には二対の牙が描かれていた。
「これは!?」
(これはなんじゃ!?今まで見た祓い屋がこのような技を使った所を見た事がない…)
門が開き中は黒く何もない、虚無の空間が広がっていた。囚われたが最後と言う事まで理解できる。そしてその門から数百数千と言う亡者の手が伸び、ぬらりひょんを掴み引きづり込む。
(これなら戦える!)
“門”を使用できる回数は1日2回までそれは“門”自身が無理矢理力を解放していた為妖力の消費量上、2回までとなっていた。それを凪自身の力で使用できるように修練をした。その結果、1日2回という制限は無くなっていた。
「まあ、分裂体じゃがな」
「!?」
分かっていた。恐らくは分裂体なのだろうと。本体は洞窟の内部。今のぬらりひょん自身は疲弊している。
「息が上がってるんじゃないのか、ぬらりひょん…?」
「ぬかせ…」
(妖力と精神力を削られたか。あの“門”のダメージは大きいのぅ…)
(やっぱり分裂体を通して効果が合った)
凪の“獄門・臨界対殺領”は妖怪を地獄へと連れて行く。分裂体であれ、ぬらりひょんは一度祓われた(・・・・)ことになる。
(この好機を逃さない!)
俺は慢心していた。
ぬらりひょんにダメージが有ったこと、ぬらりひょんが疲弊していること、その現状が重なり、凪自身を慢心させたのかもしれない。
凪は考えなくてはならなかった。
ぬらりひょんが何故、分裂体では無く本体の姿を現したのか。
“私メリー、今貴方の背後にいるの”
「しまっー」
消えたぬらりひょんは一瞬で凪の背後に周り肩にそっと手を置く。
「この技は私自身で行わなければならなくてのぅ。では、絶望してくれ」
“悪夢再来”
その能力が発動した直後、凪の視界は暗闇に包まれる。
「なー、ーぎ、凪?」
「え…?」
頭がおかしくなったのかもしれない。
凪の目の前にはあの家での懐かしい光景が広がっていたから。
「どうしたの凪?」
「具合でも悪いのか?」
「い、いや平気…」
目の前に並ぶ朝食。自信が身に纏う中学高の制服。懐かしく、それでいて暖かい物だった。
その懐かしい光景は一瞬にして変化する。
鼻の奥を突く血の匂い。自分が立っている場所は玄関先。俺は知っている。この後の出来事を。全身が泡立つほどの不快感を…
無惨な姿の両親、抱き寄せるがその身体は冷たく硬くなっていた。その感覚に気が狂いそうになる。
「あ…」
その光景から場面はさらに変化する。
次々に倒れていく仲間。午谷先輩、寅尾さん、猿飛先輩、戌乖先輩、牛呂さん、颯、閻魔さん、辰川さん、未継さん、響也さん、トトさん、妲己、そして八城さん…
「あぁぁ…」
パキンッ…
その音は凪の心の折れた音。凪の体から漏れ出た妖力は一つの大きな扉を作る。それは異界への扉、そうぬらりひょんが求めていた“地獄の門”の姿であった…
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