第肆拾伍話 “南”
辰川、閻魔side
並み居る妖怪は次々に消失していく。
「勿論最短で行くんじゃろ?」
「うん。他の者が着く前に私たちが先に着いていなければならない」
「この感じ…もうあちこちで戦闘が始まっているようじゃな」
大きな妖力の衝突。地響き、至る所で戦闘の余波を感じる。
頂上へと後一歩の下、一人の妖怪が立ちはだかる。前髪が目元を覆い尽くし、夜ということも相まって顔は見えない。
「ここからは行かせない」
「ワシらはぬらりひょんに用があるんじゃがな」
「そこを通してもらおうかな?」
“部分竜化・龍鱗”
“無垢・式”
(2人の身長が異なり過ぎて受け流し辛いな)
体格差の違う二人の息の合ったラッシュ。防戦一方、だが閻魔と辰川は違和感に気づく。
(間一髪…いや、二人の攻撃を全て受け流している!?“無垢・式”で能力を使えないはず…)
(こやつ、竜化時の攻撃力と瞬発力を簡単に防ぎよるか…妙じゃな)
ラッシュ時に妖怪の髪が揺れ動き顔が閻魔達の目に映る。
その顔には人間と同じように左右対象の目の他、無数の目があり、対象の目には全てを見透かすような不快感を感じた。
二人は瞬時に距離を取る。
「お主は百々目鬼(とどめき)か!?」
「ご名答、私の名前は百々目鬼。父上(ぬらりひょん)に作られた妖怪だ。父上の為にここは通さん」
「君の持っているその目…それは“神眼”だね。私たちの攻撃が躱された訳だ」
「父上から頂いたこの目を使って私は父上に報いるんだ」
百々目鬼が地面に手で触れると周りの地面、木々、葉、至る所に目が出現する。
“一ノ眼・硬直(かなしばり)”
辰川は一歩も動けなくなる。身体が固まってしまったように。
「“消失”!」
「“部分竜化・龍頭”」
動かなくなった身体は閻魔の能力により解除される。瞬時に辰川は頭を竜の姿へと変化させ、炎を吐く。
“息吹”
身体を巡る妖力の流れを見ることができる百々目鬼はその攻撃を避ける。
「すまぬ。助かる」
(あの目が厄介だな…)
「時間稼ぎされてるね…」
(私は効かなかったが恐らく目が相手を捉えることにより発動する能力…近寄らないと私の能力範囲内ではないし、“神眼”持ちである以上安易に近寄れないね…)
(チャイナ服が厄介だな…私の能力も掻き消される。紙野郎は警戒しなくていいな)
百々目鬼は閻魔に攻撃対象を絞る。
“ニノ眼・眼衝(がんしょう)”
至る所にある目から閻魔に向かって衝撃波が飛ぶ。
閻魔の能力上、自身の能力の及ぶ範囲は自動で削除される為、閻魔に攻撃は届かない。が、閻魔は動けない。
ズンッ…
攻撃の最中、百々目鬼、辰川、閻魔をプレッシャーが襲う。
「「「!?」」」
そのプレッシャーは山頂から届いていた。
(これは凪の妖力!?まさか!?)
先を急ぐ閻魔を百々目鬼が足止めする。
「そこを退いてくれるかな!」
「父上の邪魔はさせない!」
“部分竜化・龍尾(りゅうび)”
龍の尾が百々目鬼の足首に巻きつき引っ張る。
「なっ!?」
「閻魔!こいつはワシが留める!早くゆけ!」
「頼む」
閻魔は山頂へと向かい、この場所には百々目鬼と辰川の2人だけが残る。
「弱いクセになんで私の邪魔をする!」
“ニノ眼・眼衝”
四方にある目から放たれる衝撃波は辰川を包み込む。その衝撃により巻き付いていた尾が離れる。
「始末は済んだしあいつを追わないと…」
「ふぅ…誰が終わったじゃと?」
「!?」
いや、こいつはもう耐えられるほどの力を持っていないはず…
衝撃波により巻き起こった土煙が晴れ、百々目鬼は驚く。
「なんだその姿は…?」
(こいつは子供の姿をしていたはず!?)
目の前にいる者は先の矮小な子供の姿では無かった。成人男性ほどの身長、だが神眼に映る妖力量は今まで出会った中で一番と言っていいほどの量であった。
「ここからは加減などせん」
“竜化・振”
天翔ける竜は天まで届き、こちらを見下ろす。
(あいつに動かれると父上まで危うい)
「動くなッ!」
“一ノ眼・硬直”
能力を使用した後、神眼を携えた二つの目が裂け、弾け飛ぶ。
「ぐぁ…」
(どう言う事だ!?どう言う事だ!?)
「わしを止めるにはそれ相応の妖力がいる。お前さんはそれを持たなんだな…」
“四気・龍ノ巣”
降り注ぐ雨の一粒一粒は銃弾のような威力、迸る雷は身を焦がし、凍えるような冷たい氷塊は一面を銀世界に、その全てを一つに閉じ込める竜巻は異常なほどの質力を見せていた。
雷雨、吹雪、竜巻、天候を操る力、それが十二支の辰が持つ能力の正体である。
形をかろうじて留めた百々目鬼は竜巻の影響で頂上へと飛び上がった。
「あ、やってしもうたのう…」
(手応えは有ったのじゃがな、仕留めきれなんだしかし久しぶりに使うと疲労感が凄いのう…)
力を使った辰川は竜の姿から人型に戻り、山頂へと向かう。
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