第拾玖話 体育祭 前編


体育祭前日。学校も早く終わりウルさんの手伝いの為早々に帰宅して現在。


町中で“目が良さそうな人物”を手探りで探しながら歩く。何の情報も無し、何万といる人の中から特定の1人を見つけるのは難しい。


「凪、お前の知り合いに目がいい奴は居ないのか?」


「えーと…」


少しの間考える。1人、思い当たる人物を連想する。


「鳥居先輩…?」


「そいつは目が良いのか?」


「はい。十二支の酉の能力で目が良いそうです。普段は特殊な眼鏡をかけて視力を一定に抑えているそうなんですが…」


でも、雨ちゃんの視力を鳥居先輩が奪った?とは考え難い。


「少しはヒントになるかもしれん。会わせてもらえないか?」


「連絡してみますね」


鳥居先輩に連絡を取り、この後すぐ会う事になる。近くの公園に着く。数分後、走ってきたのか鳥居先輩は肩を揺らしながら公園に入ってきた。


「おまたせ〜。待った?」


「いえ、急に連絡してすみません」


「大丈夫だよ。後輩の頼みだからね。それでその人がウルさん?」


「失礼、紹介が遅れた。私の名前はウル、吸血鬼だ」


「私の名前は鳥居珠。真季波くんから聞いてると思うからその辺りの紹介は省くね」


早速本題で悪いのだがとウルさんは続ける。


「君のその“眼”を使って目が良い人物を探す事はできるか?」


「んー、できると思うよ」


そう言い鳥居先輩はかけていた眼鏡を外し目を見開く。極限まで開かれた目の色が黄色く変わり淡く光る。

数分後、目を閉じて鳥居先輩は話し出す。


「この町で普通の人より目が良い人は居ないわ」


「そうか、なら決まりだな」


「え?」


ウルさんは自身の右親指を噛み血を出す。その血は地面に垂れる事なく形を成す。西洋の剣のように形作られその刃を鳥居先輩に向ける。


「凪、悪いがこいつが雨の|目(しりょく)を奪った犯人だ」


「どういう事!?分からないよ!」


鳥居先輩の前に立ちウルさんを静止させる。


「そこを退け、凪!」


「まず、どうしてそんな考えに至ったのか説明してくれ!鳥居先輩はそんな事をする人じゃない!」


「先、そいつが能力を使った時、雨と同じ匂いがした」


「何かの間違いだよ…」


「間違いではない。私は吸血鬼だ。普通の人間以上に匂いが分かる」


「俺は何かの間違いだと思う。だから、“注連縄”!」


「なッ!?」


「鳥居先輩逃げて!」


鳥居先輩が走って逃げるのを確認した後、ウルさんに向き直る。


「凪、正気か?」


「うん、でも鳥居先輩は絶対違うと思う。あの人は小さい時から苦労してるんだ。だから」


「ふん。お前とあの女はたかだか数週間の付き合いだろう。なぜそう言い切れる?」


「俺が信じたいからじゃ理由にならないよね。ごめん」


少しの間の後、ウルさんは剣を地に戻し体内に取り込んだ。


「ふん、今回は引こう。お前のその実直さは美徳だ。だが!あまり信用しすぎるなよ。手痛い目にあったりもするからな」


そう言い注連縄を軽く千切る。やはり掛かってくれていたらしい。

その日の夜、鳥居先輩には謝罪文を送り心当たりが無いか聞いてみるが分からないと言う返事だけ返ってきた。


不安も残りながら体育祭当日となった。

体育祭は各学年が色別に分かれ、種目を行い点数を競う。最終的に合計点が高かった色のチームの優勝という普通の体育祭。

俺と八城さん、颯に牛呂さんは同じクラスで同じ学年。必然的に同じ色のチームだ。


「やるからには勝つわよ」


「瑠璃ちゃん燃えてるね。私も頑張らないと」


「牛呂はこういう行事は全力でやるタイプだからなー」


各々が各種目にでて得点を獲得していく。接戦。その言葉が似合うほど両チームの実力は拮抗していた。


障害物リレーでは牛呂さんと八城さんが出場していた。色は同じチームでもリレー内でのチームが違う、2人の対決が見れる。


「2人とも頑張れー!!」


運動神経の良い牛呂さんがリードしていた。が、最後の障害物のネット潜りで苦戦してしまう。


「くっ…」


その隙に八城さんが安易にクリアし、ゴール。


「デカい事が仇になったな。何がとは言わないが」キリッ


「確かに八城さんより牛呂さんの方が身長高いもんね」


颯に何か言いたげな顔をしたがため息を吐き次の競技に目を向ける。何か間違ってたかな?


午前最後の競技は部活対抗競走。部活動ごとで選ばれた人が走る競技だ。リレーで無いのは人数が多いための短縮目的らしい。


競技に出る部活動は運動部から陸上部、弓道部、剣道部、野球部、サッカー部、バレー部。

文化部は出ないようだ。


「あ、戌乖先輩と鳥居先輩!?」


そう言えば剣道部主将って言ってたっけ?それにしても鳥居先輩まででてるの驚きなんだが…


「凪は知らなかったか?鳥居先輩、弓道部の主将で賞をいくつも獲ってるらしいぞ」


「凄い…」


各部活動がスタート位置に並びスタートする。が、鳥居先輩は最後尾を走っていた。いや、鳥居先輩が遅いんじゃなく前列がものすごく速いんだ…


「あの一番前の先輩誰か分かる?」


隣の颯に聞く。


「あぁ、午谷(うまだに)先輩。陸上部のエースだったけど怪我して最近走ってないって聞いてたけど…」


(怪我しているのにこの速さってこと!?)


戌乖先輩を後方にどんどん引き離し一着でゴールしてしまった…


お昼休憩に入り俺は屋上へと向かう。九尾も着いてきてたはずなのに何処かへ居なくなってしまった。まあ、お弁当を開くと現れるかな。


この時の俺は知らなかった。九尾が校内である妖怪と、校舎裏では鳥居先輩とウルさんがそれぞれ鉢合わせていたことに…

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