第拾捌話 助言のように。


吸血鬼のウルさん、盲目の少女雨ちゃんが家に来て早一週間が経った。ここに来て雨ちゃんの表情は随分と明るくなった。名前を呼ぶと期待の表情で顔を輝かせた。

最初の頃は怖がってウルさんの後ろに隠れていたが成長を見れて嬉しい。

そんな事を思っていると九尾が「其方はあれか、親か何かか?」と言ってくる。確かにこの感情は親心なのかもしれない。


午前、学校では総練習と呼ばれる体育祭を模した練習があり、少し種目を省くものの、本番に備えて一通り通す。


「人間たちは暑い中よくやるのう…」


「そういう行事なの。暑いけど楽しいよ?」


「そうじゃな。人間がする行事は面白くて好きじゃ。無論一番好きなのはお祭りじゃがな?」


でもまさか九尾が学校に来るなんて思わなかった。最初は家で寛ぐのかなと思っていたのだが体育祭の予行練習をするという話になったら急に行くと言い出したのだ。勿論周りに見えてはいない。


一通りの通しを終え、昼休憩に入る。颯は応援団の人と、八城さんと牛呂さんはパネル組の人達とお昼を食べるらしく珍しく1人になってしまった。少し寂しい。

今日は暑いが良い天気なので屋上で食べることにした。


「おい、そこのお前!憑かれているぞ」


「?」


屋上へ上がる階段の下の段から声がして振り返る。


「お前は確か、図書室に居た…」


図書室…?あ、鳥居先輩を匿った時に来た猿飛先輩か!


「えっと…何かようですか?」


さっき“つかれてる”とか言ってたけど何のことだろう…


「ほぅ…そこの人間も妾が見えるのか?」


「え!?」


猿飛先輩も“見える”人なんだ…


「見たところ狐の妖怪の様だな…祓わせてもらう」


そう言い、猿飛先輩は内ポケットから黒い拳銃を二挺取り出しこちらに向ける。


「ふふ、妾を楽しませてくれるのか?」


「ち、ちょっと九尾!?ここではダメだって一先ず屋上に行くよ!」


校内で騒ぎを起こしたらまずい。他の人の目もある。猿飛先輩に背を向け、急いで屋上へと向かう。


「九尾だと!?あ、おい待て!!」


屋上の扉を開け奥まで走る。幸いな事に人は誰も居らず扉から猿飛先輩が入ってきた事によりここにいるのは3人だけとなった。


「お前そいつが大妖怪だと知って接しているのか!?」


「はい」


「馬鹿か!?妖怪なんぞ全て同じ。自分の私利私欲の為に俺たち人間を利用し、無実の人々をも苦しめる」


「それは…」


俺の両親も妖怪に殺された…でも、九尾は違う気がする。無意味に人を傷つけたりしない。


二挺の拳銃を九尾に向ける。俺は九尾の前に出る。

普通の拳銃は妖怪には通用しない。なら猿飛先輩が持っているあの拳銃は普通では無く対妖怪用に作られたものなのだろう…


「何故庇う?何度も言うが妖怪は皆同じだ。お前のその自分本位な行動で苦しむ人が増えるかもしれない。それなのに何故?」


「俺が後悔しない為」


断言する。ここで九尾を助けないと俺は一生後悔する。あの時のように。だからこれは俺の自分勝手な理由。俺が後悔しない為の選択だ。 


「…そうか。考えは変わらないのだな」


猿飛先輩の指が引き金にかけられそのまま…


「何してやがんだ猿ッ!!」


「痛ッ!?」


屋上の扉が勢いよく開き、出てきた人物に猿飛先輩は打たれる。しかも竹刀で…

ギリギリでガードしたが後ろに後退する。


「戌乖先輩!?」


「私も居るよ?」


「鳥居先輩まで、どうして…?」


「どうしてって…“見えたから”」


「えぇ…?」


「犬これはどういうつもりだ?」


「お前が俺の大事な後輩を虐めてたからだろうが!」


「はあ…」


ため息を吐き、拳銃の弾からゴム弾を取り出す。


「ご、ゴム弾…?」


「光ちゃん何も聞かずに行っちゃうんだもん」


さ、最初から打つ気無かったんだ…良かったぁ〜…

安心したからか足の力が抜けそのまま地面に座り込む。


「あんまり怖がらせちゃダメだよ?凌ちゃん」


「不敬な真似をした、詫びる。すまなかった。九尾殿も…す、すまなかった」


「妾は別に大丈夫じゃ。凪に何か有ったら只では置かなかったがのぅ」


「ごめんね、凌ちゃん昔見逃した妖怪のせいで私が怪我しちゃって」ヒソッ


「それは注意深くなるのも納得です」ヒソッ


鳥居先輩が言っていたように律儀な性格でちゃんと謝ってくれたし、優しい人なんだろう。


「早とちり犬!」


「頭の固い猿!!」


戌乖先輩と猿飛先輩はお互いに言い合い睨み合っている。仲が悪いのかな?


「さぁ、真季波くんは早く食べないと午後の授業が始まるよ?ついでに私たちも一緒に食べても良い?」


「はい!」


一悶着有ったものの、俺と九尾、3人の先輩は一緒にお昼を食べた。戌乖先輩と猿飛先輩は言い合ってばかりだったがたまにはこういう少し賑やかな昼食も悪くないなと思う。


「そういえば先輩達って妖怪見えたんですね」


「言ってなかったっけ?」


「言ってなかったかもしれねぇ…」


「言ってなかったのか?」


三者三様の反応。それから先輩達は自分たちの秘密を俺に話してくれた。


「私たちは十二支の力を持った人でね、私が鳥の力を持っていて能力は“極眼(きょくがん)”、感情、匂い、遠くのもの。色々見えるよ」


「俺が犬な?能力は“超嗅覚(ちょうきゅうかく)”つって鼻が利くってのはそう言う事な」


前に言っていた意味がようやく分かる。


「俺は猿だが能力は教えない。こっちの手札をわざわざ相手に見せたりはしない」


「猿のくせに」


「猿のくせにぃ〜♪」


ガヤガヤ言われだし折れたのは猿飛先輩。


「はぁ…俺は猿で能力“弾生成(たませいせい)”さっきの拳銃は俺の専用武器でそれに能力で生成した弾を込めて打つ。普通の拳銃で妖怪は祓えないがこの拳銃なら祓える。お前は?」


「俺は祓い屋をしてて…」


そこから俺も自分の事を話した。俺は小さい時から妖怪が見えた事。両親が妖怪に殺され祖父母に引き取られた事。祖父母が祓い屋をしていてその仕事を引き継いだ事。俺の今まで辿ってきた道の全て。


「俺の様に悲しむ人を少しでも無くしたいって思って…すみません、長くなっちゃって」


お昼休みももう終わりが近づきだしていた。お弁当を片付けようと動く。


「お前すげぇな…」ズビッ


「犬、何泣いてんだよ」ズズズッ


「光ちゃんも凌ちゃんも泣いてるじゃん」ズッ


「えぇ!?」


「人間は面白いのぅ」


3人とも泣いてる。どうしたのだろう?


「大丈夫ですか、あの…お腹でも痛いんですか?」


「「「違う!!!」」」


「!?」


びっくりした。


「これから楽しい思い出作っていこうよ?」


「そうだな。塗り替えられるよな」ニカッ


「困った時いつでも呼んでくれ、力になる」


俺の連絡先に3人の名前が刻まれた。颯達以外に友達が居ない俺はそれだけで嬉しくなる。

俺はこの時気づかなかった。いや、目を向けていなかったのかもしれないし、忘れていたのかもしれない。巳津さんの言葉を。

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