第拾話 見えない眼
出掛けていたらしいトトさんが帰ってきたのは時計の針が22時を過ぎた頃で、埃まみれの体から何か良くないものを感じた。
「トトさんどうしたの!?」
「凪坊、鼠…いや、颯が連れて行かれた」
颯が連れていかれた…?頭で言葉を整理しようにも理解できない。
「トトさん帰ってらしたのですか?」
「騒いでたから心配になって…どうしたの?」
まだ家に残ってくれていた2人がリビングから顔を出す。
「颯がどこに連れていかれたか分かる?」
首を横に振る。今まで何が合ったのかことの経緯を話してもらった。
「すまぬ。私としたことが遅れをとった…」
「いや、トトさんのせいじゃない」
痺れを切らして颯の心情を知ろうと連れ出したトトさんのどこが悪い?本当は俺が聞くべき事なのに…
手を上げる八城さんはおずおずと話し出す。
「九尾さんは悪い人なのでしょうか?話を聞く限り悪い妖怪という感じがしなくて…」
「確かにわざわざこちらに情報を開示しなくてもいいのに…」
「九尾とは昔、何度か話をする機会があったが、奴の根底に“自分が楽しければそれでいい”というものがある。それが指針なのだ」
今回もそのような事だろうとトトさんが話してくれる。俺はまだ自分のするべき事が分からない。でもこれだけは確かだ。颯を助けたい。
「手分けして探そう。九尾の言っていた事が本当ならすぐには取られないと思うけど早く見つけないと手遅れになる」
「「うん」」「うむ」
トトさんは八城さんとペアで探してもらう。八城さん1人だと危ない。俺と牛呂さんは別々に町の怪しい箇所を探す。この件が妖怪の類による物だとしたら人目につかない場所に違いない。
「いない…」
閉鎖された工場、廃校、林、廃病院。探し回るが颯の気配すら感じないどころか妖怪や怪異の気配も感じない。いや、見えない…?
「やはり見えない事に気づいていなかったようじゃの」
塀の上から声をかけられ見上げると九本の尾を持った女性が優雅に座っていた。
「妾の名は九尾の狐。何度か馳せ参じたが気づいておらぬよな」
九尾の狐…妖怪の中でも知る人ぞ知る大妖怪。そんな大物がなんでこんな所に…いや、それよりも
「颯のこと何か知らないか?」
(ほう、自分のことよりも友達の心配か…)
「知っておるが、その目では何もできまい」
さっきから妖怪や怪異が見えないことに関係があるのか…何も心当たりがない。
「其方、周りに妖怪が漂っていても気づかないではないか。それでは助けに行っても足手まといになるのがおちじゃ」
見えない俺は足手まといにしかならないかもしれない。それでも…
「それでも俺は親友を助けに行きたい」
「んふ。其方ならそう言うと思っておった。私とゲームをして勝ったら目を治し、親友の場所を教えると約束しよう」
「ゲーム…?」
「ただし、妾が勝ったら」
「勝ったら…?」
「妾と添い遂げてくれぬか…?」
!?え、は?…え?
顔を赤らめ茹で蛸になっている九尾に不覚にもドキッとしてしまう。
(ドキッてなんだ?相手は妖怪だぞ!?)
「なんで恥ずかしがってるんだよ」
「だって!妾…こ、告白なんて初めてなんだもん!!」
手をブンブン振って今にも泣き出しそうな勢いの九尾…
(これで1000年以上生きてる大妖怪なんだもんな…)
「分かった。ゲームの内容は?」
「そう来なくては。ゲームの内容は妾が今から町の“何か”に化ける。それを見つけ出す事ができれば其方の勝ちじゃ。制限時間は日が上るまでじゃ」
日が上るまで!?まさか時間稼ぎが目的って事は!?待ってと言おうとするももうそこに九尾の姿は無かった。
(妖怪も見えないし、気配すら感じない俺にどうしろと…)
これはもしかしたら負け確定のゲームなのでは…?いや、諦めてはダメだ。勝って呪いを解いてもらい颯を助けないと。
相手は九尾の狐。神社やお寺など神聖が高い場所に居るかもそう思い、町にある全ての神社やお寺を探す。神社やお寺にはそれぞれ距離があり全てを回る頃には午前3時を回っていた。
ケータイが左右に揺れる。誰かからメールが来たんだ。確認のためメールを読む。
『鼠入くんの場所、分かったかもしれません』
読み終わったすぐ後、後ろから声がかかる。牛呂さんが息を切らしながら走ってきた。
「ここに居たんですね、凪くん。颯くんの居場所が分かったので伝えにきー」
「えっと…捕まえた」
「え、凪くん?何を…?」
まさか…こんなドジ踏んでくれるとは思わなかったけど
「九尾でしょ?」
「なんで、分かったのじゃ?人に化けるのは得意中の得意なのじゃが…?」
不思議そうにこちらを見る。
「理由は二つ。一つ目はさっき俺のケータイに牛呂さんから連絡が合ったこと。会いに来てるのに連絡なんてしないよね。二つ目は颯のこと颯くんって呼んでた事かな。牛呂さん颯のこと鼠入くんって呼んでたから」
「これは妾の完敗じゃな。約束通り目の呪いを解くの」
九尾の両手が俺の両の目を覆う。少しした後、唇に違和感を感じる。
「!?」
両方の目を覆っていた手が無くなる。
「これくらい許してほしいのじゃ」
何が合ったのか理解するのにそう時間は掛からなかった。
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