第玖話 暗闇に消失
一緒に退院した牛呂さんに話があると言われ自分の家に案内する。家に着く頃には辺りは暗くなっていた。客室に案内し待っててもらう。俺は自分の部屋に入り部屋着に着替えお茶を持って再び客室に入る。
「おまたせ、それで話って?」
「私も混ぜて欲しいのだ」
「な、!?」「きゃっ!?」
突然俺と牛呂さんの間に現れたトトさんに驚いて声をあげてしまった。ん?トトさんが居ると言う事は…
「よ、凪!心配したぜ」
「お邪魔します…」
「颯、八城さん!いらっしゃい」
一週間も連絡無しじゃそりゃ心配させるか…反省反省。
客室の机を4人で囲んで座り、颯の膝の上にトトさんがあぐらをかく。いつの間に仲良くなったんだ…?
「牛呂さん2人を紹介するね。俺の親友の颯」
「ども!」
「八城さんとトトさん」
「は、はじめまして」「よろしくの」
「俺の友達の牛呂さん」
ペコッとお辞儀をして牛呂さんは話し出す。
「牛呂瑠璃です。鼠入くんはともかく八城さんの事は知ってはいましたが話すのは初めてですね。トトさんもこれからよろしくお願いします」
颯と牛呂さん顔見知りだったんだ。知らなかったし、世間って狭いなと改めて感じた。
「自己紹介も済んだし、一週間も保留にされてた事聞いてもいいか?」
「うん」
一週間前にあった出来事を隠さず話す。牛呂さんの所に妖怪が来たて、その妖怪は妹さんを人質にして牛呂さんを動かしていたこと。俺は妖力を吸い取られた為動けずにいたこと。その妖怪を何とか祓うことができても怪我をしたため一週間連絡できなかったことを話した。
「巳津さんの所で療養してたんだ」
「あ〜巳津さんの所か…あの人療養中はケータイも触らせてくれないし、外出もさせてくれないもんな。そりゃ一週間外部との連絡遮断も頷けるな」
相当な勘違いだが、余計な心配をかけたくないので目のことは黙っておこう…
「次は私の話を聞いてもらっていいかしら?」
牛呂さんが話したい事があるって言ってたやつか。でも2人と1匹居るけど話して大丈夫な事なのかな?そう思い牛呂さんを見るが牛呂さんは大丈夫と言い話だした。
「3人は十二支の話って知ってる?」
「細かくは知らないけど、みんなが知ってるような常識的な話なら分かるぜ」
颯が少し「?」になっている俺の為に説明してくれる。
楽しい事が好きな神様が山の上に住んでいて、“元日に集まった12匹の動物を1年ずつ王様にする”と言うアイデアを思いつく。動物達は思い思いに出発して十二支は決まった。
「でも嘘の日付を教えられた猫がいたって話を聞いた事があります」
「そう。その十二支の力を持った人が12人居るんだけどその中に私も含まれてる。私は丑の力を持って生まれたわ。これ見てくれたら分かると思う」
牛呂さんは目を閉じる。すると牛呂さんの頭部から白い角が2本生えてきた。あの時見た牛呂さんの姿は見間違いでは無かった。
十二支の力を持つ12人。俺はそのうちの1人に心当たりがある。2年前に助けた少女、元気に暮らしているだろうか…?でも一つ疑問が生じる。
「そんな大事なことなんで今教えてくれたの?」
多分だけど大勢に話して良い内容ではない筈。それを一気に俺たち3人と1匹に話して大丈夫だったのかと心配になる。
「と、友達に隠し事は無しと聞きまして。それと凪くんの友達なら話しても良いと思いまして…」
そう照れながら話し頭を掻く。自分達の事を信頼して話してくれたことを嬉しく思う。
「友達だから何でも話すって言うのは違うと思う」
「え?」
そう言う颯の表情は暗く、何かを堪えているそんな風に読み取れた。でも何かが分からない。
「ごめん、暗くした。俺ちょっと夜風に当たってくる」
そう言い颯は部屋を出ていった。颯と一緒にトトさんも出ていったことに後から気づく。
「えっと、いいの?」
「追いかけなくていいのかって意味?」
そう聞くと八城さんはコクッと頷く。うーんと唸った後、答える。
「1人がいいんだと思う。颯が何か言えない隠し事をしてるのは分かってるんだ。話してほしいって言うのは俺のエゴだから颯が話してくれるまで待つよ。よし、遅くなっちゃったけど夜ご飯にしたいな。八城さんと牛呂さん食べてく?」
「うん」「お邪魔するわね」
俺は八城さん達と夜ご飯の支度に取り掛かった。
その頃中庭では鼠入とトトが夜風に吹かれていた。少しの無言があり、トトが溜息混じりに問うた。
「お主あれは言い過ぎではないか?」
「だよな〜でも言葉に出てたんだよな…」
理由は分かっている。
「お主が一人で抱えている事を凪坊が知らぬとも思えぬ。知っていても尚、問わず話してくれるのを待っておる」
自分の事を何も話さないのに、相手の事を知っていく申し訳なさ。話したい。自分の内にある物を全て。凪なら受け止めてくれる。でもそれができない。怖いんだ。もしかしたら凪も“あいつら”みたいになるんじゃないかって…未だに俺の中に“残っているかも分からない物”に縛られている。
「話せるわけないじゃないか…」ボソッ
「そうか…場所が悪いの少し移動するか。乗せてやるから背に跨れ」
トトさんはそう言い庭に出て体を大きくする。俺は言われた通り背に跨る。彼女の背は大きく、柔らかく自分の事を優しく包み込んでくれる優しさを感じた。
夜風を感じながら向かった先は山の中。もう日が見えないほど暗い森の中で一体何をするつもりなのだろう…
「よし、この辺りでいいだろう。鼠構えろ」
背中を降り彼女の前に立つとそう言い渡される。
(あぁ、そう言う事…)
理解する。彼女は無理矢理にでも俺から事情を聞くつもりなのだろう。無理矢理というのは本当に無理矢理の戦いで…
彼女の尻尾が振り抜かれる。間一髪で回避するが周りの木々が一閃され倒れる。
(本気で殺しにきてるじゃん…)
「“鼠分け(ねずみわけ)”」
多数の黒い小さな鼠を生み出しトトさんに向かわせる。彼女の足止めをしてもらいたい所。先の一撃でトトさんの力量は分かった。あとは時間との勝負。
足止めのつもりで放った黒鼠達はすぐに尾で払われた。
「その程度か!?」
「“鼠分け・泥影(でいえい)”」
「!?」
黒鼠がトトの影から姿を表し、各々の尾を噛み一本の紐状になりトトを地面に押さえつける。
「ぐがっ…」
身動きが取れないよう念入りに押さえつける。
「これで終わりでいいよね、トトさん…」
「争わずしてその場を収めようとするとはな。それほどまでの覚悟だったと言うことかの…」
「!?」
トトを押さえつけていた黒鼠達が一斉に飛び散る。
嫌な予感、寒気がした。背中を冷たい汗が伝う。咄嗟にトトさんから距離を取る。
「お主ほどの覚悟を私はしていなかった。私も腹を括るとしよう。いいか?ここからは本気でいく」
「“臨界解ー”」
「“伏せ”」
トトさんがいきなり地面に倒れ、頭上から九つの尾をもつ美人が舞い降りてきた。
「鼠、目を見るなッ!!」
「え?」
トトさんの忠告虚しく目を見てしまった。目が合った直後、意識が遠のいた。
「九尾貴様、鼠をどうする気だ…?」
(くそ…呪縛か)
相手を数刻動けなくする呪いの類。
狐が好きそうな技だ。
「それは勿論、能力を奪うのよ?」
「ハッ馬鹿馬鹿しい。他人の能力なぞそう易々と奪えるものではないこと、お前が知らぬとは思えぬが?」
「無理矢理奪うに決まっているではないか」
「無理矢理…?」
相手の能力を無理矢理奪うという事は…
ハッとする。こいつに鼠を渡してはならぬ。
体を動かそうとするが先の臨界解放を無理に止められた反動と呪縛で動けない。
「ご明察じゃ。無理に能力者の持っている能力を奪うとその能力者は死んでしまう。でも奪うには少し準備が必要だからすぐには奪えないわ」
「分からぬ。何故それを教える?」
「だって〜妾は頼まれただけじゃ。十二支の能力者を捕らえよと。大人しく“彼奴”の言いなりになどなりとうない」
ではの。そう言い意識を失い倒れている鼠入を抱え姿を消す。
暗い森の中に取り残された黒猫は何もできない歯痒さを噛み締める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます