第捌話 地獄の底から君を


俺はただ目の前にある光景に唖然とした。

そこは赤い炎がカーテンの様に何重にも重なり空は黒く星は無く、歩く足下は赤く石でできている為歩きにくい。


(ここは…地獄!?また来ちゃったか…)


凪は地獄に来るのが2回目なのだ。1回目はお爺ちゃんと妖怪を祓っていて女の子を助けた時。


(あの時の女の子元気にしてるかな…?)


そのまままっすぐ歩いていると地獄の三途の川に着く。三途の川の水は赤色に見えるがこれは地獄が赤い為で本来は透明なのだ。←豆知識


「ん?あ、凪!?」


「赤鬼さん!久しぶりです」


赤鬼は三途の川に架かる橋の橋番をしている鬼で1回目の時からの顔見知りだ。


「おめぇなんでまた…その左目はどうした!?」


「あ〜ちょっと今回無茶し過ぎたみたい」


「やめてけれよ〜。お前が本当にここに来ちまったらおら悲しいべ。あと数百年後にしてけれ」


「反省しております…」


赤鬼さんは見た目は凄くゴツい鬼なのだが心優しい鬼で俺が来た時、人一倍いや鬼一倍心配してくれた。


「赤鬼さん、閻魔さんいる?」


「あぁ、今回も仕事サボって河原に来てるだ」


赤鬼さんにお礼を言い、教えてくれた方向に足を進める。河原は石が大きく歩きにくい。数分歩いた所で遠方に川を見ながら黄昏ている青年を見つける。

駆け寄るとこちらに気づき優しい笑みを浮かべる。


「やあ凪、よく来たね」


「お久しぶりです。閻魔さん」


まるで来ることが分かっていた、そんな口調だった。


「元気そうで…とは言い難いね。今回も人を助ける為、無茶したんだね」


「俺は昔の俺みたいな悲しむ人を少しでも救いたいから」


閻魔は呆れ気味にふぅと溜息を零し、凪の顔を両手で挟み左目を見る。


「それで自分が犠牲になっても良いって?」


「…」


「無茶をするのは良くないが、今回は許してあげよう。君が地獄へ来るのはもう少し後でいい」


そう言い閻魔は凪の額を指で突く。そうすると凪の意識は次第に薄れていく。


「“門”の代償に使った左目は返しておくよ。次くる時は君が老衰した頃がいいな」


その言葉を最後に俺の意識は闇に溶け込み沈む。


凪の居なくなった河原に佇む閻魔の元に赤鬼が駆け寄る。


「閻魔様、凪は帰りましたか?」


「あぁ、私が思った事なんだが聴いてくれるか?」


「はい、なんなりと」


「もしかしたら凪は無意識のうちに両親の後を追っているのかもしれないな」


「は、はぁ…」


「凪は少々自己犠牲が過ぎる。行き過ぎた“俺みたいに悲しむ人を救いたい”と言う感情は次第に自分を飲み込みかねない。私は心配なのだ。個人として友として凪の将来が。凪には幸せになってほしいと思っている」


「私も同じ気持ちです…」


空を見上げる地獄の王の瞳は慈愛、憂いに満ちていた。



次第に意識が呼び起こされ目を開く。


知らない白い天井。周りは白いカーテンで仕切られており、カーテンの隙間から仄かに白い光が差し込む。

辺りを見回すと横で眠っている牛呂さんに気づく。

地獄の門を呼んだ後の記憶が無い為、その後どうなったのか分からないが少なくとも牛呂さんがここに居ると言う事は助けれていたのだろう。

体を起こそうとするとカーテンを開けて白衣の女性が入ってきた。


「起きたな、もう少し寝ていろ。言う事を聞かなければ腕を切り落とす」


そう言い残しカーテンの外に出て行った。


「はい…」


強引だが心配してくれてのことだろう…多分。


「凪くん…?」


「あ、起こしちゃった?ごめん」


牛呂さんは俺の顔を見て瞳を潤わせる。そのまま抱きつき離してくれなくなった。


「!?う、牛呂さん!?」


「一週間は眠り過ぎだよ…馬鹿。心配したんだから」


「ごめん…心配かけて」


一週間も眠っていたと聴いて驚いたがそれ以上に心配をかけたことに対して申し訳なさが出てきた。


私と私の妹、助けてくれてありがとう。そう涙混じりに応えた彼女の言葉が胸を突く。あぁ、助けられたんだって。数分の間ずっと抱きついて離れてはくれなかった。痺れを切らし言葉を発す。


「牛呂さん…?あのぅそろそろ離れて?」


「あ!?ご、ごめんなさい。嬉しくてつい…」


「抱擁は済んだか?」


「わぁ!?」「きゃっ!?」


いきなり出てこないでよ、びっくりした…


「少し診察する。牛呂、席を外せるか?」


牛呂さんはまた後でと言葉を残しカーテンを開け退席した。


「あ〜そういえば自己紹介がまだだったな。私の名前は|巳津(みと)|沙霧(さぎり)。この診療所の医者だ。朝は普通の診療所で夜は妖怪や怪異専門の診療所になる。勿論夜の診療所は普通の人には見えない様にしてある」


とこんなもんかな?と言う彼女は早速俺の左目の包帯を除け始める。左目が光を感じる。眩しい。


「さぁどうなってるかな〜♪あれ?君、ほんとに人間?」


「人間ですよ?」


「普通の人間の潰れた目が自然に治るわけないでしょ、馬鹿じゃないの?」


馬鹿って言われた…でも幽霊や妖怪や怪異が見えるだけで他は普通の人間と大差ないんだけどな…あ、そう言えば地獄に行って意識が途切れる直前に“門の代償に使った左目は返しておくよ”って言ってたっけ?記憶が曖昧だ。


「でも治ってるからな…療養する必要もないし退院する?牛呂も見た目ほど酷い傷じゃないから退院できるけど」


家に居た方が余計な事考えなくて済むしそうしようかな…

こうして俺は入院する間も無くすぐに退院する事ができた。

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