第陸話 責任とけじめ

小さい頃に両親が亡くなった。私が5歳妹が3歳の時だ。妹は小さかったからまだ分からなかったかもしれない。でも両親を殺したのは人ではないという事を私は知っている。


祖母の家に預けられてから私の体に異変が起こり始める。襖を開けようと手を伸ばす。開けるが、襖は横に飛んでいく。コップを手に持つとコップにヒビが入り割れる。人間の少女の力では無い。かと言って人間とも言えない。人間ならざる者の力。その症状が発現した時、決まって私の頭には“2本の角”が生えていた。


「お婆ちゃん…私鬼なの?」


「いや、鬼なもんか。こんなに可愛いのに。その角はね牛さんの角だよ」


人を守る為にある力、祖母はそう教えてくれた。私は毎日力の訓練をした。妹やお婆ちゃんを守れるようにと…

その甲斐あって小学生に上がる頃には力のコントロールができるようになっていた。

私が元気に小学校へ通う中、妹は病気になり入院した。心臓の病気らしく絶対安静。病室には立ち入れない事が多かった。

憂鬱に学校に行く毎日が続く。そんな中、ある男子に言われた。


「お前父ちゃんと母ちゃん居ねぇのか?」


「え…」


「参観日見に来てくれる人いないんじゃな〜」


「え…」


突然のこと過ぎて分からない。でも今思えばドッチボールの後だったから圧勝したのを根に持っていたのかもしれない。


「妹は入院してるらしいじゃん」


「何でそのこと…」


「お前が入院させたのか?ゴリラ女」


聞きたくなかった。もしかしたら私のせいかもしれないのに…私がこの力を持ったから妹が病気になったんじゃないかって…


「両親を殺したのももしかしたらお前なんじゃないの?」


「ちがう…」


「何だって?」


「違うッ!!!」


両親が亡くなったあの日から溜まっていた不満、悩み、恐れが一気に押し寄せた。


小さな体には入りきらない感情。今まで堰き止め切れていた事が不思議なくらいとても大きなものだった。


「お、鬼だ…鬼だぁぁぁぁ!!!」


爆発した感情は無意識に能力を使っていた。その結果、頭に2本の角が生えたのだ。当然、少年は驚き逃げる。

騒ぎを聞きつけ先生たちが集まってくるがその頃には彼女の角は消えていた。


その頃から彼女に対する虐めが後を立たない状態だった。

幼い子供が自分たちの平穏のため、時には大人が考えつかないような酷(むご)い事をする。


それでも彼女が学校に通えたのはお婆ちゃんの存在も有ったのだがそれ以上に唯一味方をしてくれたある少年が居たからだ。


「酷(ひど)いこと言われたのに殴らないなんて凄いね!僕だったら手、出しちゃうかも」


そう言う少年は手のひらを太陽に掲げ眩しそうに空を見上げた。そう言ってくれる少年は私には眩しい存在になった。


中学に上がりその子とは別々の学校になってしまったが今でも忘れないくらい自分にとってかけがえのない人になっていた。


中学2年の時、能力の影響か見えるようになった妖怪を退治する“妖怪退治”を始めた。

少しは周りの人達の助けになれたらと…

中学3年の時、お婆ちゃんが亡くなった。今まで育ててくれたお婆ちゃんの死は私たちにとって簡単に解決できる問題でも無く、私は妹に付き添うため妖怪退治を辞めた。

妹は強く、お婆ちゃんが亡くなって悲しい気持ちを押し殺し私が高校に入学する頃には自由に出歩けるくらいまで回復した。お医者さんからも奇跡だと言わしめた妹は私に向かってピースサインをだした。


妹の容態も回復してきている中、私の所にある一匹の妖怪の使い魔が姿を表した。昼時だが活動できると言うことはそれなりに力のある妖怪なのだろう。


「妹は預かりました。返して欲しければ大量の妖力とあなたの持っている“力”を貰いましょう。本当に妹が大事ならば容易いでしょう?」


妹にもしものことがあってはいけない慎重に答える。


「大量の妖力ってそんなに妖力もっているのって妖怪ぐらいじゃないの?」


「1人心当たりがあります。あなたと同じ学校という所に通っている“真季波凪”と言う男が居るはずです。その男は祓い屋です。妖力は人並み以上いや、並みの妖怪以上に持っている…」


「真季波…どうやって妖力を抜き取るの?」


「簡単なことです。その男にこの球を押し付けたらよろしい。対象に押し付け“奪い取れ”と唱えると妖力を吸い取るようになっています。まあせいぜい上手くできるといいですね、ケヒヒヒヒヒ…」


そう言い残し、消えた。

私に残されたたった1人の家族の為、私は真季波くんを巻き込んだ。私の身勝手な理由で…

私は自分のした選択の結果に対して最後まで責任を持つ必要がある。


薄暗い閉鎖された工場跡地。何年前に閉鎖されたのか分からないが未だに骨組みや屋根が残されている。


「持ってきた」


「ケヒヒヒヒヒ…流石は牛呂さん。行動がお早い」


初めて見る妖怪の姿は狐の顔で人間のように二足歩行をし着物を身に待とっていた。


「あ、申し遅れました。私の名前は白蔵主(はくぞうす)。狐の妖怪です。今はあるお方に支えております」


「狐ね…どうりで卑怯な手を使う奴だと思った」


「卑怯?いえいえ、とても賢いんです。ケヒヒヒヒヒ…」


「妹は?」


「はい、こちらに」


床に放置された妹を発見し、安堵する。良かったまだ発作も起こってない。まだ間に合う。


「おっと、先にあなたが集めた妖力と力を」


「約束したっけ?」


「!?」


能力を発動し、自身の足の筋力を上げる。地面を蹴り狐の横を通り過ぎ、妹を抱える事に成功する。


「ほう…まあ奪還されてしまいましたがあなたをここで仕留めれば良い話ではないですか」


“多勢混殺結界(たぜいこんさつけっかい)”そう唱えると工場跡地全域が気味の悪い空間に包まれた。

結界、出る事ができない…


「ようこそ私の結界へ。使うのは些か久しくありますが、まあ大丈夫でしょう」


白蔵主の周りに8体同じ白蔵主が現れた。狐類がよく使う幻術だろうか…?


ギターケースに見せかけた収納ケース。その中から戦斧を取り出す。両手斧にしては短い柄、それは私専用に作られた斧だから。私の“力”でないと扱えない武器。


「さっさとあなたを倒して妹と一緒に帰るわ」


「それは叶わないかもしれません。私の分身を幻術だと思っていると痛い目を見るかもしれませんよ、小娘」


四方八方からの爪での攻撃。戦斧を華麗に使い攻撃を去なす。順当に攻撃を去なしてはいたが、それは今までの話。彼女(うしろ)は誰かを守りながら戦う闘い方をしてこなかった。

結果…


彼女は妹に対する攻撃を全て防ぎ、自分自身への攻撃は去なすことも、防ぐこともしなかった。いや、出来なかった。

白蔵主の猛攻に耐えられず膝をつく。


「おや、おやおやおや?もうお終いですか?」


「はぁ…はぁ…」


「では妹もろとも地獄へ送って差し上げましょう!!」


もうダメだと、もう自分に戦える気力が残っていない。ならせめて妹だけは守ろう。身を挺して妹の前に立つ。


「地獄へ堕ちるのはお前だ!」


「何故私の“結界”に入ってこれー」


結界は内からの攻撃も外からの攻撃も防げる。それなのにこの男は入ってきた。白蔵主は別の事でも驚いていた。妖吸玉(ようきゅうぎょく)で極限まで妖力を吸い取ったはずの彼が動けている事に。

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