第伍話 焦り、戸惑い
次の日、彼女は何事も無かったかのように登校していた。その冷ややかな視線は何かを決意した人のそれだった。
「今日、放課後時間ある?」
「う、うん。予定はないよ」
「そう。なら学校が終わり次第中央公園に集合しましょ」
そう言い彼女は俺に目もくれず席に着く。まるで“何も聞くな”と言っているように感じた。
(公園はこの町に一つしかないから迷わないけど…)
彼女が抱えている物が何なのか分からないが少しでも力になれたらとそう思った。
1、2、3、4、5、6時間目と着々と時間は進み、あっという間に放課後になった。
(やばい、考え事のせいで授業全く身に入らなかった…)
「凪〜帰ろうぜ」
「あ、私も」
「トトも〜♪」
いきなりの割り込みで吹きそうになるがなんとか堪える…
(やめてトトさん…ここで吹いたらみんなに変な目で見られちゃう)
笑いを堪えふと右隣の席を見る。牛呂さんはもう居らず、もう向かったのかと焦る。
「ごめん、今日俺用事あるから」
そう言い残し急いで教室を出る。階段を降り、昇降口で靴に履き替え校門まで全力ダッシュ。
校門に着く頃には息が上がっていた。
(ここまで牛呂さん見なかったけどもう着いてるのかな…?)
待ち合わせに遅刻なんて絶対にしてはいけない。再び全力ダッシュ。
周りの生徒からは好奇の目で見られているかもしれないがそれすら分からぬほど凪は焦っていた。
公園に着くが彼女の姿は無かった。荒い息を整えながら辺りを再度見回す。やはり彼女の姿は無かった。
(良かった…ひとまず遅刻では無いと…)
公園のベンチに腰掛け彼女を待つ。数分と経たず、制服に上からパーカーを羽織り、大きなギターケースを持った彼女が現れた。
「あれ?そのまま来たんだ」
「牛呂さん俺が学校出る時もう居なかったからもしかしたら待たせてるのかもって思って、急いで…」
「そう…」
彼女も一緒のベンチに腰掛ける。少しの沈黙の後、牛呂さんは語り出した。
「私の両親は小さい時に2人とも他界したって聞いててお婆ちゃんの家に妹と一緒に引き取られてさ。妹は小さい時から病気で長い間外に出れない状況だったんだけど私が高校あがる頃に回復してきて、その時にお婆ちゃんが亡くなってそれでも元気に自由に、出歩けるくらいになったんだ。でも」
牛呂さんの顔が急に険しくなった。
「昨日、ある妖怪が私の所に来た。妹を預かったって…」
背筋が凍る。妖怪…
「私にとって妹はたった1人の姉妹(きょうだい)なんだ。絶対に助けたい。でも私1人の力じゃどうしようもできない」
彼女(牛呂さん)と自分を重ねてしまう。
「お前祓い屋なんだろ?!だからー」
「待って、何で俺が祓い屋だって知ってるの…?」
警戒が遅かった。俺の一言が言い終わると同時に俺のみぞおちに強烈な一発がめり込む。そのまま倒れ込む。薄れゆく意識の中で唯一聴き取れた言葉は“ごめん”だった。
どれくらい時間が経ったのか分からない。辺りは暗く人通りもない。動くのは手だけという悲惨な状況。
(これって妖力ぎれと同じ症状!?)
何の為か分からないが俺の妖力が無くなってしまったようだ。右ポケットに入っているスマホを取り出し颯に連絡を取る。
「どうした、こんな時間に?」
「妖力ぎれ起きたみたいで動けないからトトさん連れて中央公園まで来てくれない?」
「分かった。後で詳しく聴かせろよ」
状況を察してくれたのか何も聞かず電話をきる。さあどうしようか…
10分後…
「わり、遅くなった。大丈夫か?」
「妖力錬ってるけどごっそり取られ過ぎて期待できない」
「真季波くん!」
「八城さん!?」
何で八城さんまで…あ、トトさん呼んでくるんだからそうだよね。
「全く少しは警戒したらどうかな凪坊」
「おっしゃる通りです…」
本当のことすぎて反論できない。
トトさんが自分の妖力を少し分けてくれる事で俺は自力で動けるくらい回復した。
「妖力の譲渡なんぞ久しくしておらんから疲れるの」
「ごめんねトトさん、でも助かった。ありがとう」
トトさんは八代さんの肩に乗りぐでぇと休む。
「颯に八城さん、全部終わったら話すから今は何も聞かないで」
「おう」「うん」
2人に背を向け走る。場所は分かっている。元は俺の妖力だ。抜き取って行ったのが牛呂さんならそこに居るはず。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます