第3話
3.
二人は宮殿の中に案内されました。中もすべてが瑠璃で飾られていました。
廊下も瑠璃でした。柱も瑠璃でした。壺も瑠璃でした。
壺に活けてある花も瑠璃色でした。花が浸かっている水も瑠璃色でした。
これではきっと、ごちそうも瑠璃色をしているかもしれないと二人は不安に思いました。
シモンは言いました。
「なぁ、これほど見事な宮殿なら、ベルヒアーも見たことがないんじゃないか?」
フランが言い返しました。
「馬鹿を言え。瑠璃王の瑠璃宮殿のことなら、図鑑にしっかりとのっている。
ベルヒアーはこの宮殿のことなんか、もう飽き飽きしているさ」
二人は王の謁見の間に案内されました。
世界一大きな瑠璃の玉座があり、瑠璃色のじゅうたんが敷かれています。
瑠璃色の鎧で身を固めた強そうな兵士たちが並んでいて、王様が座っていました。
王様は瑠璃色のターバンをした、でっぷりと太った男の人でした。
シモンは頭を下げて言いました。
「僕たちは竜のベルヒアーに雇われた、あわれな少年たちです。
とんでもなくあわれです。だって竜のベルヒアーに雇われているんですから。
それにとてもお腹をすかせていますし、喉だってかわいています。
王様にもしそのでっぷりとした体に見合った広い心がおありなら、僕たちに評判のごちそうをお恵みください」
王様は言いました。
「おおこの世界一あわれで利口な少年たちよ。
さっそく古くからのしきたりに従ってごちそうにするとしよう。
さあこの少年たちを風呂場に連れて行って、身を清めさせなさい。
なぜって、ごちそうの前に旅の垢がたまっていてはいけないからね。
それが終わったら楽しい料理をはじめるとしよう。
さあ少年たちよ、その召使についていきなさい」
こうして少年たちは風呂場に案内されました。
二人はまず熱いお湯で体を清めました。
それからぬるいお湯で体をほぐしました。二人はこんなにくつろぐのはしばらくぶりでした。
最後に冷めたお湯で体の熱をとりました。二人はすっかり元気になりました。
そしていっそうお腹がすいたのを感じました。
さて二人は湯から出た後に、小さな部屋に案内されました。
そこも天井から壁から床まで瑠璃で飾られて豪奢な部屋です。
隣の部屋から、包丁がまな板を叩く音が聞こえます。スープの匂いも漂ってきました。どうやら調理場のようです。
「やあ僕たちへのごちそうが作られているようだよ」
「ああ、そのようだ」
二人はすっかりいい気分です。
そうしていると部屋の扉が開き、二人と同じくらいの齢の髪の長い少女が入ってきました。シモンはこの島々を世界で一番美しいものだと思っていたのが、誤りであったと悟りました。
フランはベルヒアーに報告するものを、はじめてみつけたかもしれないと思いました。それほどに美しい少女でした。
彼女は口に指をあてて、しーっという仕草をしました。
二人は言葉を尽くして彼女を称賛したいのを我慢しました。
「わたしはこの国の姫。あなた達、すぐに服を着て逃げなさい」
二人はたいそう驚きました。
「どうして逃げるんだい?これから僕たちは、ごちそうを食べるのに」
「この国の王は、異国からの大切な旅人にごちそうをするんだろう?」
姫は声を抑えて言いました。
「それは図鑑が間違ってるの。この国の王は、異国からの大切な旅人をごちそうにするの」
二人は真っ青になりました。
食べられてしまえば、仕事を果たすことができなくなります。
そうなればどれだけベルヒアーが怒るか、わかったものではありません。
大急ぎで服を着ました。それから姫の後に続いて逃げ出しました。
姫はどの通路に衛兵がいるか良く知っていました。
その衛兵がどの時間に居眠りをするかも知り尽くしていました。
少年たちと姫が宮殿の門を飛び出した時、門の衛兵も眠っていました。
なぜなら彼らは一晩中かけて、ぴかぴかの鎧を磨いているからです。
でもそのころには、でっぷり太った王様が、ごちそうが運ばれてくるのが遅いと気が付いてしまいました。
たくさんの兵隊が少年たちと姫を追ってきました。
三人はがんばって走って、森に隠したききゅうのところまでたどりつきました。
兵隊たちが追いつけなかったのは、三人がとてもすばしっこかったのと、ぴかぴかの鎧が汚れないかおっかなびっくりだったからです。
少年たちと姫を乗せたききゅうは、緑の島々の夜空へと舞い上がりました。
ふう、これで一安心です。
「これってすごい発明品ね?空を飛べるだなんて!」
姫はききゅうに感心しきりです。
シモンが言いました。
「ふう、とんでもない大冒険だったよ。しかし無事でよかった」
フランが言い返しました。
「僕は腹ペコだ」
その時、不意にジリリンジリリンと、ベルが鳴りました。
ききゅうに備え付けられた電話機です。二人は恐怖に凍り付きました。
これなぁに?と、姫が首をかしげています。
今回電話に出るのは、フランの番です。
恐る恐る、受話器を手に取りました。
『姫を投げ落としてください』
録音は郵便でベルヒアーに送られました。
しかし二人は録音記録が無くても、その悲鳴をずっと忘れることができませんでした。
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