第2話

2.

渡り鳥が北に向かって飛ぶころ、クジラが北極星に向かって悲しく泣くころ、ある日の夕方のころのことです。

「一つ南の島に行ってみないかい?なにか珍しいものがみつかるかも」

シモンが気持ちのいい風の匂いを嗅ぎながら言いました。

「お前にしてはマシな考えだね。どうせベルヒアーを満足させることはできないだろうけどさ」

フランがいつものように陰気に言い返しました。


そういうわけで、二人の少年たちはききゅうを南に向かわせました。

何日か飛ぶと、緑に包まれた南の島々が見えてきます。

青く透き通った海の中で、宝石のように輝いていました。

「僕はこの島々こそ世界でいちばん美しいものなんじゃないかと思う。

どうだいこれを記録してベルヒアーに送ってあげれば、彼女の陰鬱な心も少しは慰められるんじゃないかな」

「ベルヒアーは世界のどこにでもすぐに飛んでいけるんだぜ。この島々を見たことがないわけがない。やれやれ、これほど美しいものを見ても、彼女の陰鬱な心は少しもやわらがなかったようだ」


二人は島々のうち一番大きい島に、立派な宮殿が建ち、たくさんの人々が住んでいるのをみつけました。

そこでその島に降りて、珍しいものを見つけることにしました。

ききゅうを森に隠し、望遠鏡や図鑑を持って、帽子もしっかりかぶって街に向かいます。


島の人々は青い肌と尖った耳をしていました。

言葉はなんとか通じました。

なぜって、二人は今までたくさんのくにぐにを旅して来たので、たくさんの言葉をおぼえていたからです。

そして残念なことに、図鑑にこの島の人々のことものっていたからです。


二人は大通りにくりだしました。

色とりどりで形も様々な、図鑑にのっている珍しくない果物が並べられて売られていました。

人々は宝石をたくさんつけた、図鑑にのっている珍しくない衣装を身に着けていました。

レモンの食べすぎで黄色くなった象が歩いていましたが、これも図鑑にのっていました。


「この島へ来たのが間違いだったようだね。

ここでは珍しいものはみつからないようだよ」

「そうだお前は間違ってばかりだ。それこそ珍しいことではないね」

「そろそろお腹が減ってきた。何か食べようよ」

「ちょっと待って。何が僕たちでも食べられるか調べるから」

フランは大切な図鑑をめくりました。

それによるとこの国の王様は、異国からの大切な旅人にごちそうをすると書いてありました。


「それはいいや。じゃあ一つ王様のところに行ってこう言うんだ。

僕たちは竜のベルヒアーに雇われた、あわれな少年たちです。世界で一番あわれな少年たちです。だって竜のベルヒアーに雇われているんですから。

そうすると王様はでっぶりとしたお腹を揺らしておっしゃられるんだ。

なんででっぷりしてるかって言うと、こんなに豊かな国の王様は、太ってなくちゃいけないからね。王様が痩せていたら、他の国に舐められてしまうってものさ。

とにかく王様がおっしゃられるんだ。

おおこの世界一あわれで利口な少年たちよ、古くからのしきたりに従って君たちにごちそうをしよう。たあんと食べてくれ。肉も穀物も魚も果物も豊富にある。

もしこの国の王様が、旅人に十分にごちそうをしなかったなら、客をもてなすこともできない弱い王様だと、周りの国のずる賢い王様に思われてしまうだろうからね」

「お前にしてはマシな考えだね。どれ一つ宮殿に行ってみようじゃないか。

あのたくさんの瑠璃で飾られた無駄に大きな建物が宮殿だろう。行ってみよう」


二人は宮殿に向かいました。

宮殿はそれは立派で、たくさんの円蓋つきの建物、祈りのために使われるたくさんの塔、いけにえを捧げるためのたくさんの祭壇、たくさんのじゃあくな神様の像、すべてが深い空のような瑠璃で飾られていました。

宮殿の前にはするどい槍を構えた衛兵が立っていました。

その槍はとてもとてもするどい槍で、一突きされたらシモンもフランも串刺しになってしまうに違いありませんでした。

衛兵はぴかぴかの鎧も着ていました。頭のてっぺんから爪先までぴかぴかでした。

毎日仕事が終わりになると、衛兵たちはがんばって鎧を磨いているのです。

宮殿の衛兵は鎧に少しでもくもりがあると、くびになってしまうのです。

ですから彼らは一晩中かけて、鎧を磨きます。

なので見張りに立っている日中は、居眠りしていることが多いのです。

でもこの時はシモンとフランにとって運の悪いことに、たまたま目を覚ましていました。


シモンが話しかけました。

「やあ、衛兵さん。この国の王様は旅人をたいそう歓迎すると聞いたので、こうした訪ねてきたのだけど、間違いはないだろうね。

僕たちは本当に遠くから旅をしてきて、いったいどこから来たのか忘れてしまったほどだし、お腹もぺこぺこだし、御馳走される資格は十分にあると思うのだけど。

もし話と違って、この国の王様がたいそうケチで旅人を歓迎しないなら、なにか大道芸でもやって稼がなきゃならないところさ」


衛兵はあくびしながら言いました。

「もちろん歓迎されるとも、旅の少年たちよ。

君たちが本当に遠くから来た、ただの旅人ならね。

もしかしたら君たちはどこかの国に雇われた密偵かもしれないし、

だとしたらここを通せば、私の首はちょん切られることになる。

なぜって密偵を王様のところに通さないのが私たちの仕事だからさ。

さあ君たちが怪しい密偵じゃないかどうか、謎かけで確かめてみよう」


フランが言いました。

「謎かけだって?まぁ大道芸を見せるよりはましか。なにしろ僕らの芸はひどいものだからね。いぜん北の山の王様の前で披露した時は、あまりのひどさに王様が寝込んでしまって、そのまま亡くなってしまったほどだ。

とにかく、謎かけに答えようじゃないか」 


衛兵が指を三本立てました。

「この世界で最もじゃあくはものとは?」

シモンが答えました。

「竜のベルヒアーです」


衛兵が指を二本立てました。

「この世界で最も強大はものとは?」

フランが答えました。

「竜のベルヒアーです」


衛兵が指を一本立てました。

「ではそのベルヒアーより強大はものとは?」

二人はひそひそと話し合ってから、なるべく衛兵にだけ聞こえるように、

小さな声で答えました。

「この国の王様です」


「なるほど確かに君たちは歓迎されるべき旅人のようだ。

さあ中に入りたまえ。国王陛下が君たちを待っているよ」

シモンとフランは、いたずらな風が今の答えをベルヒアーの耳に運ばないことを、

珍しく神様にお祈りしました。

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