竜のベルヒアーと雇われ少年シモンとフランのお話
レモンの食べすぎ
第1話
1.
二人の少年の話をしましょう。
ここは今より少し昔。
まだ世界が緑の木々で覆われ、お城には騎士とお姫様がいて、魔法の力がこの世に残っていた時代の話です。
少年たちは二人とも帽子をかぶっています。この時代、帽子をかぶるのは男の子のたしなみでしたからね。
眼鏡をかけていない方がシモンです。かけている方がフランです。
いつも望遠鏡をのぞいている方がシモンです。いつも図鑑を見ている方がフランです。
健康的で美味しそうな方がシモンです。青い肌で不味そうな方がフランです。
二人は竜のベルヒアーに雇われています。
ベルヒアーのために世界を旅してまわるのが仕事です。仕事で旅行ができるだなんて、夢のようですね。
でも、ただ旅をするだけではいけません。
"珍しいもの"を見つけなくてはならないのです。
ベルヒアーはとても齢を取っていて、世界に飽きてしまっていました。
なので少年たちに、自分がまだ見ていない知らないものを探させているのです。
二人はききゅうという乗り物で旅をしています。
人を乗せて空を飛ぶ乗り物です。ええ、とても信じられないでしょう。
それがどんな乗り物なのか、あなたは不思議に思うはずです。
でもこれ以上、ききゅうのことを教えてあげるわけにはいきません。
ベルヒアーは人が空を飛ぶ方法を知ることを嫌がっていますし、それが自分の発明品となればなおさらです。
さらに彼女は、あなたにばくだいな特許料を請求することだってできますし、あなたが地球上のどこにいてもすぐに飛んで行って、頭からがぶりと食べてしまうことだってできるのです。
ベルヒアーはとても賢く強くじゃあくな竜なのです。
だから、ききゅうのことはここでは秘密にしておきますね。
今日も二人はききゅうの上から地上を見下ろします。
シモンが望遠鏡をのぞきながら言います。
「あの肌の赤い人々の踊りはどうだい?とても珍しいよ?」
でもフランは首を横に振ります。
「あんな踊りは図鑑にのっているよ。ベルヒアーが図鑑にのっているようなことを知らないわけがない」
シモンが耳に手を当てながら言います。
「あの肌の黒い人々の歌はどうだい?とても珍しいよ?」
でもフランは首を横に振ります。
「あんな歌は図鑑にのっていない。この辺りではごくありふれた歌だということだ。ベルヒアーが知らないわけがない」
さて、どれだけ"珍しいもの"を見つけるのが難しいが、わかっていただけたでしょうか。
あまりのんびりとはしていられません。
ずっとのあいだ"珍しいもの"が見つからないと、
ききゅうに据え付けられた無線電話機(これもベルヒアーの発明品です)が、ジリリンジリリンとかかってくるからです。
シモンとフランは電話が鳴ると、恐る恐る受話器をとります。
電話に出る役は交代です。二人とも出たがりません。なぜならベルヒアーはじゃあくな竜だからです。
ベルヒアーは二人に罰を与えたりはしません。
意外ですか?
彼女はじゃあくな竜ですが、シモンとフランに罰を与えたことは一度もありません。
それでも二人は電話のたびに震え上がります。
ベルヒアーは老いた腰の低い声で、ただ仕事の指示を出すだけです。
例えばある日に出た指示はこんな風でした。
『なぜ人は限られた時間を浪費して過ごすのでしょうか?
それは私の頭をわずかながら楽しませ続ける未解決問題の一つです。
この問題を解く手がかりとして、人がその時間を極限までに限られた時に、どのような振る舞いを見せるかを観察することは、大いに意義があるように思われます。
10人の成人していない若者の手足を鎖につないで海に放り込み、その命が消えるまでの行動を観察してください。
偏りがないように、貧しい者も、高貴な者も、男も女も均等に混ぜてください』
その晩二人は街にでかけ、若者たちをお金やナイフや危険なまやくやピストルを使って鎖につなぎ、泣き叫ぶ彼ら彼女らを、船から次々に海に放り込みました。
その様を記録して、郵便でベルヒアーに届けました。
これが竜の尊大な心を満足させるのかどうか、二人にはわかりません。
少年たちはただ仕事をするだけだからです。
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