第八章 生まれた場所以外のために(4)

 翌日の朝、リスとヘルプセルフは船で大陸へ向かった。

 古代芸術都市まで足を伸ばす可能性も考慮して、一週間は帰らないかもしれないという。

「ま、基本的に石鹸を仕入れてから戻るから」

 船からおれたちに放たれたリスの最後の台詞がそれだった。

 ふたりとも、船の操作はビットから既に教わっていた。けれど、迷わず櫂を握ったのはヘルプセルフだった。

 見送りは、また島のみんなでやった。見送りは、ホーキングとフリントを送り出したときのように、なんだか島の特別は催しごとのようになっている。

 ふたりが乗った船は、遠ざかると、あのときみたいに朝の混じる夜のなかに消えていった。

 石鹸を手に入れため、一度大陸へ渡る。

 実際、それは建前だった。

 それも、ひどく雑な建前だった。



 昨日の夕食のとき、こどもたちがいるから言わなかっただけで、リスたちが大陸へ渡るのは補給の他に、もうひとつ大きな理由があった。竜の骨を売る。リスの彼女の本業を達成させる目的もあった。こどもたちが眠ったあとで、リスはもう一度、みんなを集めた。その場には、もちろん、トーコもいた。

 乏しい油の明りのなかでリスは話した。

 この島で仕留めた竜は二匹。どちらも解体した。骨の状態にしてある。それを売ろうとリスは言った。

「島に復興にはこれからもお金がかかる。竜の骨を売れば大きなお金が入る」

 その話は島の住民である、ビットとトーコへ向けてなされたものだった。リスはその提案の許諾をふたりへ求めた。あの二匹の竜は、この島に、むかしからいたという。倒したからといって、おれたちが勝手に骨を売るのはどうなんだろういうのは、たしかにそうだった。

 この場からこどもたちを外したのは、彼女たちに何か負荷をかけてはいけないと想像したからだった。石鹸を買いにゆくと伝えてそこに留めておいた。

 ビットは「ぼくは、かまいません」といった。出会ったときに比べと、堂々とした口調だった。彼の成長を感じた瞬間だった。

 トーコは、はじめ、どう答えていいのか、わからない様子だった。しばらくして「売れたら、お金はみなさんに受け取っていただけませんか」といった。

「まあ、多少は、ふんだくるよ、かね」

 リスはあっけらかんと即答した。それでも、口調のせいか、えぐく感じなかった。

「でも、そっちもお金を受け取って、みんなで幸せになろうよ」

 そう続け、リスは、にひひ、っとまるで少年みたいに笑った。

 少しして、トーコは「はい、わかりました。ありがとう、お願いします」と答えた。

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