第五章 いまを奪い続けるもの(4)

 洞穴は想像していたよりも大きく、深さはなく、森の開けた場所にあった。かなりまえに暖をとったのか、薪の灰が残っている。

「ここを、わたしの別荘にしよう」

 フリントが何かを言い出した。

「いいや、あたしがここに本社を構えるんだ」

 疲れているのだろう、リスが対抗するつもりで放った発言は異様な様相を呈していた。ふたりの品質の低い戯言は無視して、洞穴を明りで照らす。大人が二十人は横たわってもだいじょうぶそうな広さだった。熊もいない。天井に蝙蝠もいなかった。

「薪を拾って来る、火を起すだろう」荷物を洞穴へ降ろすとセロヒキが率先してその役を宣言し、森の中へ入って行った。すると、ビットも「あ、ぼくもいきます」そういって、セロヒキと一緒に薪を拾いにいった。

「よぉーし、じゃ、あたしは花ぁ、摘んでくるわ!」リスが誇張した言い方で宣言すると、フリントが「では、わたしは伝説の海を探しにゆく」と、言い出し、ヘルプセルフが「生理現象を処理してくる、保守機能が限界に近い」業務報告めいたことをいい、めいめい、森の別々の闇に消えていった。

 みんな、調子にのったあげく遭難とかしなければいいんだが。

 なぜか親みたいな気持ちに不安げに見送った。

 そしてホーキングとふたりっきりになった。勝手知らぬ遠くの土地で、ふたりでいる。

 一週間ぐらい前までは、よくあるふたりきりだった。竜を払いに出掛け、夜通し竜の出没を待って野宿する。

「はは」

 ホーキングは三人の挙動を見て小さく笑った。

「どうしようもねえな、インチキ野郎ども」

 たのしそうにいって、大きく息を吸って吐く。つぎに、おれの方を見ないままいった。

「俺が片目になったって時、の話だがな」

 脈絡のないことを言い出し、戸惑った。

「みんなが戻って来たら、いっちょ、してもようと思うんだ。この目の話だ。いままで誰にも話してないし、話す気にはならなかった、話したくなかった。どうにも、なかなかきつくてな。けど、みんなにしてみようと思う」

 後半は、自身に決定を言い聞かせているようだった。

「こいつは、白い竜の話だしな」

 まるでようやく誰かに話せる理由をみつけることが、こぼした言葉から、そんな印象を受けた。

 やがてセロヒキとビットが薪を拾って戻って来た。リスもフリントも、ヘルプセルフも戻って来た。

 火が始まり、みんなでそれを囲って、簡素な食事をとった。セロヒキが湯もわかし、温かい飲物も口に出来た。

 食実が終わると、みんなで火を眺めたまま、黙る時間が訪れた。おれはだけはホーキングを見ていた。彼は残された片目だけでじっと炎を見ていた。

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