第五章 いまを奪い続けるもの(3)
リスが手に入れた地図というのは古いもので、じつは正確さには欠き、そんなに役には立たなかった。けっきょくビットの記憶を最も頼りにすることになる。
木と岩が混ざったような場所で、あまり体験したことのない空間だった。陽が沈むと、恐ろしい暗さだった。
小さな驚きだったのは、ビットがその暗い森に対して、臆することなく歩を進めてゆくことだった。きけば「島にもここと似たようなところがありますし、ぼくもちいさな頃からこんな森で遊んでたんです、あ、そう、ここ数年は、仕事で父さんとでこっちの大陸にはよくきてたりもしました」と話した。だから、道なき道には多少は慣れているらしい。「それに島は夜暗いのでみんなすごく夜目もきくんです」険しい岩々をかわしながら話してくれたその表情には余裕もある。他のみんなは自前の運動能力でなんとかついていったが、余裕はなさそうだった。もちろん、背景にはそれぞれ大きな物資を背負っていることも理由にある。
にしてもひどく暗い。と思っていたら時間が経つにすれ、暗さはさらに濃くなった。さっきのひどく暗いと思った暗さが、じつはまだ明るい方だったと知る。
「うちの大陸にはいない、未知のどでかい野獣とかに遭遇したらどうしよう」
ふと、リスが、ぼそ、とつぶやいた。
「お湯をかけてやればいい」
フリントが演技なのか違うのか、ふらりふらりと岩場を乗り越えながら言う。
「お湯を沸かしておこう」
ヘルプセルフがどうしようもないことを言い、以後、会話は続くことはなかった。みんな、妙の種類の疲れ方しているらしい。
夜に森を行くのは危険、これは常識だった。ましてや知らない土地の森だった、ビットの案内がなければ絶対に進められない。
「もうすこしいったらいつも父さんと休憩に使ってた洞穴です! そこなら雨がふってもだいじょうぶですから!」
ビットは後ろを振り返り言う。危険でも夜の森を進むことになったのは、夜を過ごすために、その場所へ向かうためでもあった。森の入口で夜を明かすよりはいい場所だとビットから聞かされてもいた。
「みなさん、がんばってくださいね!」彼から見て、大人たちがしんどそうにしてみえたらしい、ビットがみんなを励ます。それからまえを向いた彼は「あいてるといいんだけどなぁ………」といった。
その洞穴は人気の場所なのか。
もし、先客がいたらどうしよう。この状況で、なぜか人見知りの不安を発症しまった。
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