第四章 竜を殺す竜(5)
太陽が沈みかけていた。
ホーキングがどうしておれをあの場に立ち合わせたのか、協会の建物をあとにしてから聞いた。
「はじめに言った通り、政治活動、そのものさ」
そう答え返され、ぴんと来ていない顏でいると、苦笑して続けた
「よその縄張りで仕事すんだ、かたちはどうあれ、許可はとっとかないとな。おれたちは無法者じゃないんだ。それに、おまえさんだけを特別連れて来たのは俺の身勝手な………そうさなあ、心の問題ってやつがあった。打ち明ければ、じつに申し訳ねえ、おまえさんを利用したってことになる。あの場におまえさんがいなきゃ、俺はあいつをつぶしちまってた。ヨル、おまえさんがあそこにいたから、俺は自分を抑え込むことができた。いや、はは、なーに、おまえの見てる前じゃあ、みっともねえことはできねぇ、つーかさ」
おれを居合わせて、破壊行為の抑止力として利用したことに、ひどく罪悪感を浮かべている、それは本物に思えた。もしかしたら、居合わせた他にも理由はありそうだったけどいまは「そう」と、だけ答えた。
「悪かったな、おまえとはそこそこの付き合いでしかないが、ただ、おまえがいれば、なんとか堪えられるって思っちまったんだ、あの最悪にな。しんどい思いをさせた、すまん」
「いいんだよ。勉強にはなった。政治のね」
「もし、無理だと思ったら迷わず俺を切りは離せよ、いますぐだっていい。俺はよくなにかを間違える、それが正しい正しいと思ってやってるつもりだが、いつの間にか間違えてばかりだ」
「俺は立ち合っててよかったと思ってる。この大陸の協会から目もつけられたけど、代わりに弱味を握れたけど。まったく」少し笑ってしまった。「政治だね」
「ああ、政治だ」
会話は、どこか狂っていそうだった。けれど、かまわなかった、平気だった。
つい一週間前まで、ふたりでこんな場所にいて、こんな会話をしているなんて、想像もしていなかった。気が付けば、とんでもないところいた。
白い竜との交渉を受け入れ、竜払いたちがビットの島へ竜を運んだ。最悪の気持ちになる話すだった。考えないわけにはいかない。おれたちはともかく、家族を犠牲にされたビットが知ったらどう思うか。同じにんげんが竜に、にんげんを支払いとして差し出した。思い返すだけで、いますぐ引き返して、あのオウガンをなんとかしたくなる。いや、たぶん、かかわったのはあのオウガンだけではない。あの男だけがすべての原因ではないんだろう。
すべて片づけてしまいたい気持ちは強かった。でも、いまはなにより、白い竜をなんとかすることが最優先だ。
「おふたりさん、いい雰囲気のところわるいが」
ふと、フリントが声をかけてきた。それで正気に戻った。
「今夜の宿はあっちだ、わたしの知り合いの宿でねえ。金さえ払えば海賊でも泊めてくれる、野蛮人、非野蛮人の区別のない。支払いに使用する金の出どころも優良、不良も厭わず、どんな金も金は金、すべて金次第の、いーい宿だ」
まるで宿の回し者のように仰々しく言う。
果たして、その宿は、いい宿と定義していいものか。考えてしまうところはあった。
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