第四章 竜を殺す竜(2)
各自、業務にとりかかるまえにホーキングはビットへ向けていった。
「もうしわけねえな、ビット。ようやくここまで来たんだ一刻も早く、おまえさんも姉さんや、島に残された他の人たちのところに駆けつけたいだろうが、きょう、一日だ。一日だけくれ。どうしてもな、この都で必要な準備ってやつをさせてくれ」
ホーキングがビットに対し、ここ数日間、この町に一日留まる件について謝罪めいた許諾をビットへ求めるのは、もう何度目になるかわからない。
過剰にもみえるけど、気持ちはわかった。もし一日早く着いていれば、助けられたものがあるかもしれない、想像すると、この一日を消費することの大きさが精神に利いてくる。
「どうしても準備に必要なんだ。食料とかもさ、ここを出れば、小さい町もほとんどねえし、戦い補給って考えは見逃せないなんだ」
「わかってます」
ビットのうなずきには、少なくともホーキングを責めるような憤りはみられなかった。それからビットはおれたちを見上げた。
「あの………いま………いまは………いま………こんなことをいっても困るかもしれないけど………ぼくは………ぼくは………みんなさんがここまでいっしょに来てくれたことが………すごく…………すごいうれしいんです………」
泣きそうになりながら言う。
「でも、その感じはまた次の機会にね」と、リスが乾かすようにいった。「いまはまだ、あたしら感謝される手ごたえもない」
「ごめんなさい………」
「さてはて、よぉーし、みんないいかぁ!」
ホーキングが晴天でも呼び込むように声を発した。
「最後に確認しとくぞ、セロヒキは食料の調達、ビットもだ。リスは移動手段の確保だ、馬車を頼む、ヘルプセルフはリスの後ろを着いて歩け、彼女の強い用心棒みたいな雰囲気を出しとけ。フリント、おまえさんはなんでいい使えそうな情報の集中を頼む、まあ、海賊だし、指名手配されてるかもって話だから、こっそりな。つか、あれだな、フリント、おまえさんの一番重要な仕事は、出発まえに捕まんな、ってところだな」
平然といっていたが、フリントの指名手配のことは、はじめてここで聞いた。
「捕まらないのは得意だ」フリントは言って、仰々しくお辞儀をした。
「いや、あんた、思いっきり部下にとっつかまってたじゃんか」リスが責める。「不得意なのよ」
容赦なく断言する。
「あ、そうそう、あとさ、おまえら」リスが一同を睨んだ。「今日は、宿に泊まるから、必ず風呂入れよ、まあ、たとえ風呂に入ったとしても人間としてのえぐみは洗い流せないけど、皮膚がえぐれる寸前までごしごし洗え、髪まで洗えよ、髪まで洗って無いヤツは殺すからね」
「で、俺とヨルはだ」
リスの放埓な発言など、なかったようにホーキングがこっちを見た。
「この大陸の竜払いたちに挨拶だ。協会所属の正式な竜払いは俺たちふたりだけだしな。まあ、さながら政治活動ってやつよ」
なんだか、すごくいいような言い方をした。
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