第三章 はじめての海賊(9)
残された手段はひとつだ。これしかないとホーキングは宣言した。
「この海賊船を優しくのっとるのね」リスが先んじていい、しかも、身もふたもない表現だった。「そして偶然にも制圧済みだし」
偶然ではない気がしたが、指摘はしないでおいた。
「それは法に触れるのではないか」セロヒキがまえに出た。少しだけ、よくいえるな、この人、と思った。
「だが、きっと、気持ちは法に触れていない」ヘルプセルフがよくわからないことを言い。それをみんな完全に無視した。
すると、ホーキングは「まあ緊急事態だ、しかたねえ。なぁーに、にんげんよぉ、緊急事態のときはしかたねえのよ」明るくそう言い放つ。
「うん、責任者がそういってることだし、そういうことで」リスは確実に責任をホーキングになすりつけてゆく。「で、問題がけっこう、ぼよよーん、っとあるよ。あたしは船の動かし方がわからんし、そして、この発狂戦士がやつけた海賊おじさんたちをどうするの、船のそこら中に転がってんけど」
「宝船ではないんだ、我慢も必要だ」
またしてもヘルプセルフがよくわからない理論を展開し、それはまたみんなに無視された。
そして「とはいえ」ホーキングは「船はみんなで動かすもんだ」と言った。
その後、倒された海賊は全員甲板に集められた。特別拘束はしなかったが、素手で全員を倒したセロヒキの油断ない目付きと、全身黒づくめに仮面を被って剣を背負うヘルプセルフ、そして、なにより眼帯をした熊みたい大きなホーキングの姿を目にして、下手に動こうとする者の発生は見事に抑止されているようだった。ホーキングが甲板に集められた海賊一同に対し、命令とお願いが混ざったような、奇妙な演説で、おれたちを目的地の大陸までのせって欲しいと伝えた。連れてってさえくれればそれでお終いだと。海賊たちのなかには反抗的な態度の者もいたが、大半は従う様子を見えた。ホーキングたちの見た目の悪辣さがずいぶん利いているらしい。
そして、ホーキングは最後にいった。
「あ、ちなみに、そこにいるビット少年を、少年だし、力づくで人質にして形勢逆転とかしようとしたりしたら、俺、そいつのあたまに噛みつくからね」
言って、白い歯を見せて笑う。味方ながら本当に遣りそうに思えて来た。
セロヒキは「やはり違法では」と、ぶつぶつ言っていたが、リスが横で「政治よ、政治」と適当なことを言っていた。
船の航行に関してはわからなかったけど、夕方ごろには、海賊船は動き出した。海賊たちも甲板の上で働き出す。当然、いつ謀反が発生するか見えない緊張感はあった。けれど、セロヒキが常に甲板を見たわせる位置にいたし、ヘルプセルフは音もなく、それからたぶん、意味もなく、海賊たちのそばに忽然と現れたりしていたので、言い方は悪いが、支配は充分に保たれていた。
食料や水に関しては、たてまえ上、金を支払い、海賊たちからわけてもらうことになった。海の上では金銭は食料より強いものではないみたいだったけど、ただ好き勝手にとってしまうことは、一線を越える気分になりそうだったので、賛成した。それにホーキングが船にあった銛を拝借して、大型魚を捕らえだし、それはむしろ、食料を船に足す量になっていた。しかも、なかなかいい種類の魚らしく、それをセロヒキが上手く料理し、みんなに振舞い、好評を得て、夜にまでには海賊たちに。そこそこの人気が出てしまう。
もはや、白い竜を払うためにはじめた旅は、得体の知れない旅と化していた。
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