第13話 コウヨウスルカノジョ

 望実の家から帰宅後、私は次のプランを考えていた。


 とりあえずあの小野寺とかいう女は殺さないといけない。

 望実と一緒にご飯に行くなんて許せない存在だ。それに小野寺も行方不明になれば警察はより一層望実への疑いが強くなる。そうなれば望実はさらに焦り、恐怖するだろう。


 望実は一見クールな感じだけど実はメンタル弱くてビビりなところがあるのはよく知っている。まぁそこが可愛いんだけど。


「まったく、小野寺のこと考えてたらイライラしてきたじゃない」


 私は煙草を咥え、火をつける。


「……ふぅ」


 望実といる時や会う前は吸わないようにしているので、煙草を吸う回数もかなり減った。まぁ望実と会ってる時が一番幸せだから別にいいんだけど。


「まずは小野寺をここに連れてきて……たっぷり痛めつけてあげないと♡」


 私はまるで博物館の展示品のように飾られた大量の刃物の中から一つの包丁を手に取る。美しい刀身が部屋の明かりに照らされて白銀に光る。

 その刃で肉を突き刺す感触を、そして痛みで苦しむ姿を想像すると、体の中が熱くなるのを感じた。


「あはっ……! なんか想像してたら興奮してきちゃった……」


 我慢できなくなった私はまだ半分ほど残っている煙草の火を消し灰皿に捨てる。左手に包丁を持ち、右手で自分を慰める。自分でも変わっていると思うが、心と体の興奮に逆らえない。やがて快感の波が頂点に達する。


「……んっ!……はぁっ、はぁ……。フフッ、楽しみね……本番の時が♡」




♢♢♢



 あれからさらに1ヶ月が経った。

 隣子の言った通り平尾課長の遺体は未だに見つかっていないし、あの梅野とかいう刑事にも当分会っていない。社内も元々嫌われていた人だというのもあって前以上にいい雰囲気になっていた。


「ふぅー、とりあえず今日はこの辺で終わるか」


 俺は一仕事終え、伸びをする。


「お疲れ様です! 秋山さん!」


「小野寺か、お疲れ」


 声をかけられ振り返ると、相変わらず元気そうな笑顔で小野寺が立っていた。


「もう帰るんですか? 彼女さんが出来てから帰るの早くなりましたよね?」


 小野寺はもう帰った先輩の席の椅子を持ってきて俺の後ろに座る。


「どちらかと言うと平尾課長がいなくなってからだな。あの人がいないと余計な仕事をせずに済む」


「なるほど……、でも帰って早く彼女さんに会いたいとは思ってますよね? だって毎日晩御飯作りに来るんでしょ?」


「ま、まぁな……」


「はぁ……またですか」


 小野寺はため息をつく。


「またってなにが?」


「なんか最近彼女さんの話すると嫌そうな顔しますよね? 何かあったんですか?」


「そ、それは……」


 たしかに隣子が殺人を犯してきたことを聞いてから、隣子の話題は避けるようになっていた。なによりも俺が仲良くするとコイツが危険な目にあう可能性だってあるのだ。


「別に何もねーよ。じゃ、俺は帰るわ」


 パソコンをシャットダウンし、俺は上着を持って立ち上がる。


「秋山さん! よかったらこの後一緒にまた飲みに行きません? 話聞きますよ?」


「……悪いな。今日は早く帰らないといけないんだ」


「そ、そうですか……また都合の良い日があればお願いしますね」


 小野寺は笑顔のままだが、声のトーンは下がり、見るからに落ち込んでいるのが感じられた。


 小野寺は可愛いし明るいし魅力的な女性だ。だからこそコイツは俺なんかに関わらず、平和に生きていって欲しい。取り返しのつかないことになる前に……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る