第4話 ノウコウナカノジョ
「あれ? 今日はまだ来てないのか、珍しいな」
俺はアパートに帰宅してきたのだが、家に誰も居ないことに違和感を感じる。合鍵を渡して以降いつも俺が帰る頃には先に隣子が来てるのに。
スマホのメッセージも来てはいないようだ。そういえば隣子は近所のファミレスでバイトをしていると言っていたので、それが遅れてるのかもしれない。
とりあえず家の鍵を開けようとしていると、背後から階段を走りながら登る音が聞こえた。
「ご、ごめんね望実! 遅くなっちゃって!!」
「隣子! わざわざ走ってきたのか?」
隣子は階段を上り切ると、肩で息をしながら膝に手をついていた。手には重そうな買い物袋を持っていた。
「大丈夫か!?」
「はぁ、はぁ……大丈夫大丈夫! 私体力には自信あるから! さ、入ろ! 今日はハンバーグにするね」
「お、おう、でもそんな急がなくてもいいからな、ゆっくりしてからで」
「っ!! 私のこと気遣ってくれてるのね!嬉しい……」
隣子はそう言うと、まだ部屋の前だというのに抱きついてきた。
走ってきたのだろうにふわっと石鹸のとてもいい香りがする。隣子はかなり強く抱きしめてくる。それに応えて俺も抱きしめる。
「どうした隣子? ウチに入ってから……!」
その時俺は気づいた。隣子の手が少し震えていることに。そして顔を見ると目には涙を浮かべこちらを見つめていた。
「……何かあったのか?」
「ううん、大丈夫。でも早く望実に会いたかった……っ!!」
俺は気がつくと隣子の唇に唇を重ねていた。何もなかったわけがない。そんなこと隣子の様子を見れば一目瞭然だ。そんなこと俺でもわかる。ただ俺は軽くキスしたつもりだったのだが、隣子はより強く濃厚にキスを続ける。
「っ!……んっ……」
「んんっ……はぁ、はぁっ、隣子、そろそろ中入ろっか」
隣子のキスはなかなか終わる気配がなかったので、俺から切り上げる。たしかに隣子はいつもキスは好きみたいでかなり長いし、それはいいんだが、流石に外では気になってしまう。
「う、うん、ごめんねこんな所で。私ったらはしたない……」
隣子はここが外だということを思い出したのか恥ずかしそうに顔を手で隠す。なんとも可愛らしい仕草だ。
………
……
…
「ごちそうさま。今日もすごく美味かった!」
「望実はハンバーグ好きだもんね、とくに照り焼きソースの」
「そうそう!ってあれ?言ったっことあったっけ?」
「えーっと、こ、この前言ってたと思うよ?……そんなことより……」
隣子は俺の方を向いて膝の上に乗っかり、こちらを見つめてくる。
「さっきの続きしても……いいかな?」
「……い、いいけど、俺仕事帰りでまだ風呂入ってないから……」
そう言いかけてる途中で、隣子は俺の首に手を回し、唇を重ねてくる。そして俺が抵抗しないのがわかると隣子はさらに舌を絡めてくる。
「んっ……望実、好き、大好き……」
「ありがとう隣子、俺もだよ」
ほぼ初対面で付き合った彼女だったけど、この一週間毎日会って、これだけ尽くされると俺も隣子のことが好きになっていた。
「嬉しい!! 私頑張るからね。望実が喜んでくれるように。望実が愛してくれるように。望実が幸せになれるように……どんなことをしても」
隣子は俺の胸に手を当て力を加える。俺はそれを抵抗せず受け入れ押し倒される。こういうことに関しては隣子は前から積極的ではあったが、今日はいつも以上だ。もしかしたら何か嫌なことでもあったのかもしれない。
「隣子……」
「望実のこと……愛してるよ、ずっと……」
「ああ、俺も愛してる」
こうして俺たちは結局朝まで愛を確かめあったのだった。
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