■19 元土地神

「もう少しで朝ご飯出来ますから、しっかり目が覚めたら降りてきてくださいね」


愛花はそう言うと、俺の部屋から出て行った。




俺は愛花の方を見ていた彼女に問いかける。


「……それで、誰だよ。あんたは」


彼女は俺の方を振り返ると、恐る恐る尋ねてくる。


「……あの、覚えてないでしょうか? 昔、一緒に森で遊んでいた神楽耶です」


彼女は自分の事を神楽耶と言うが、当然ながら信じられるはずがない。

それに丁度昔の夢を見て思い出したようなものだし、当時の記憶もおぼろげである。


「仮に神楽耶だったとして、何でここにいるんだよ」

「……話すと長くなるんですが――」


神楽耶は人差し指を目の前でツンツンとしながら話し始めた。


「実は私、あの森の土地神だったんです。人の手によってどころにしていたやしろが取り壊される事になり、和樹君達とお別れをする予定だったんです。でも、和樹君のお願いを叶える為に和樹君の守護霊と折り合いをつけて、役割を変わって頂いたんです」


非常に信じられない内容だが、実際にそう話す神楽耶自身が地面から浮いている状態で説明しているので信じざるを得ない状態だった。


「……まじか」


言われてみると、神楽耶が来ている着物は当時、神楽耶が着ていたものと酷似していたし、顔も当時から少し成長したようにも見受けられる。


「……でも土地神がその土地から出てもよかったの?」

「本来はその土地を瘴気しょうきから守る為にいなければいけませんが、人の手により社を取り壊されてしまい残ることができなかったんです」


俺は当時森が切り取られ、平地にされていた事を思い出す。


「なるほど。それで……瘴気ってなんだよ」

「はい。……瘴気を抑えておかないと近隣の人々に影響が生じ、病になり体調も崩してしまう方も出てしまいます」


俺は神楽耶の話す内容で思い当たることがあった。


「待てよ! それじゃ俺のおじいちゃんが病気で亡くなったのって……」

「……おそらく、私がいなくなったことで漏れ出した瘴気によるものでしょうね」


神楽耶は申し訳なさそうに答えた。




「……そんなことが」

「はい。……消えてしまう私が最後に願ったことは和樹君の守護霊としてそばにいる事でした」


神楽耶は守護霊について話しだす。


「守護霊とは本来、和樹君のご先祖様などが行うお役目なのですが、私が和樹君のご先祖様にこれからは私がお守りするとおうかがいを立て、数日に及ぶ説得にご納得いただいたんです」


俺にご先祖様の守護霊がついていたのに驚きはしたが、それ以上に目の前で通常では聞き慣れない話をする神楽耶に俺は圧倒されていた。


「ちょっと混乱してるがだいたい分かった、要するに神楽耶は今俺の守護霊としてここにいるって事なんだな」

「簡単に言えばそうなります! ですが、私は霊ではないので厳密に言うと守護神しゅごしんという感じですね」


両手を胸の目にグッとして答える神楽耶。

守護神か……なんかかっこいいな。




追い付かない思考をどうにか引っ張ってきて、新たに出てきた質問をしてみる。


「守護神ってのは分かったけど、何でいきなりこうやって見えるようになったんだ?」

「それはおそらく和樹君の深層意識しんそういしきに私という存在を認識したからだと思います」


また神楽耶は難しい事を話し始めた。


「……要するにどういう事だ?」

「簡単に言えば、私という存在を思い出した事が原因だと思います」




言われて納得する。

実際に夢を見るまでは神楽耶の事は忘れていたからな。


「なるほど、それじゃ愛花にも神楽耶の事を話したら神楽耶は愛花には見えるようになるのか?」

「それは難しいでしょうね。ではありませんから」


俺だけにしか認識できないって事か。


「話は変わるけど……実際、守護神って普段どんな事してるもんなの?」


俺は素朴そぼくな疑問をぶつけてみた。


「いろいろありますよ。例えば、和樹君が危ない事に巻き込まれそうな時に知らせてあげるとか、悪意を持った人と出会ったときに知らせてあげるとかです」


守護神という名に相応しいお役目である。


「危ない事って言うけど、未来が分かるってのか?」

「多少なりと知覚はできますよ。なんたって元土地神ですからね!」


神楽耶はエッヘンとしたポーズになる。




「へぇ、すごいな……で、お知らせするってのは分かったけど、実際には俺にどう知らせるんだよ」


神楽耶はふっふっふと笑みを浮かべて話出す


「それは、こうです!」


すると神楽耶はすっと俺の中に入ってくる。


「うわぁ!」


当然ながら俺は驚きの声を上げた。

すると、途端に嫌な感じが体中を駆け巡る。

過去に経験したような感覚だ。




神楽耶はすぐさま俺の体から出る。


「どうですか?」

「……たしかに、この感覚は前に何回か経験したことあるかも」


それは愛花の友達と会った時や道を歩ているときなど日常生活の中で危険な出来事が起きる直前に感じていた感覚に近かった。


「あの感覚って神楽耶が起こしていた事だったんだな」

「えぇ、あと他にもいろいろと――」


神楽耶は話を続けようとするが、階段の下から愛花の声が聞こえてくる。


「兄さーん! ご飯できましたから早く降りてきてくださーい!」




神楽耶は愛花の声によって話を中断する。


「わかったー!」


俺は大き目の声で返答する。


「……だそうだ。続きは飯を食ってからにしよう」

「わかりました!」


元気に返事をする神楽耶。

俺はベットから出て部屋を出ようとすると神楽耶は当然ながら付いてくる。


「……守護神ってずっと付いてくるもんなの?」

「当然です! あ、でもおトイレやお風呂は外で待機していますので安心してください!」

「あ、そうですか」


少しだけホッとするが、逆に言えばそれ以外は付いてくるという事だ。


「頼むから、他に人がいる時に話しかけてくるなよ」

「了解です!」


相変わらず元気よく返事をする神楽耶。

はたから見たら独り言を話しているようなものだからな、気を付けないと。




1階へ降りると愛花と芳樹おじさんが椅子に座って待機していた。


「やっと降りてきましたね兄さん」

「おはよう和樹君」


俺はコーヒーを飲んでいた芳樹おじさんに元気よく挨拶を伝える。


「おはようございます!」


俺は芳樹おじさんに挨拶を終え、椅子に座り美味い朝食をサクッと平らげる。

いつもと違い、今は神楽耶がそばにいるのでなんとも言えない感覚で食べる朝食だった。

朝食を食べ終えてしばらくすると芳樹おじさんが席から立ち上がる。




「それじゃ私はそろそろ出かけるとするよ。また帰る予定が付いたら連絡するね」

「わかりました!」

「芳樹おじさん行ってらっしゃいです!」


芳樹おじさんはお別れの挨拶を済ますと玄関から出て行った。


「また、しばらく会えなくなるな」

「そうですね。今度帰ってきた時はまた美味しい料理でも作りたいと思います!」


俺は愛花と思い思いの事を話し終えると、まもなく学校にいく時間に近づいてくる時刻となっていた。




「そろそろ俺たちも準備するか」

「わかりました」


それから俺は朝食の片付けを行い、愛花は学校へいく準備を始める。

リビングに一人になったタイミングで神楽耶が話しかけてくる。


「和樹君はいつも愛花ちゃんに優しいですよね! 見ていて微笑ましいです」


笑顔で恥ずかしい事を言ってきた。


「いや、当たり前の事だと思うけどな」

「ふふ、それを当たり前と言えるあたりがすごいと思いますけどね」


神楽耶はウンウンと頷きながら俺のそばをただよっていた。




なんか非常に不思議な感覚だ。

昨日まで一人の時間だったのが、これからは神楽耶との時間に変わってしまう。

まったく想像がつかないが、これから今まで通りの生活ができるのだろうか?


――――――――――――――――

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