■18 田舎での出来事

――昔の夢を見ていた。

俺たちが田舎のおじいちゃんの元へ引き取られた時の夢だ。




引き取られた当時は、俺たちがまだ小学生低学年の頃。

田舎に到着してからも両親の事故で俺と愛花はすっかりふさぎこんでおり、家の近くにあった森で愛花と二人で過ごす事が多かった。


「お兄ちゃん! ねぇ、危ないよ!」


ある日、子供心ながら木の上から村を見てみたいと思い、木の上に登った事がある。


「大丈夫だって! ほら、愛花も登ってこいよ」

「嫌だよ! 怖いもん!」

「愛花は怖がりだなぁ」


バキッ――


「……え」


すると、俺の座っていた枝の根本から丸ごと枝が折れてしまった。


「うわぁぁぁぁぁぁあ!!」

「お兄ちゃん!!」


俺は真っ逆さまに7mほどある高さから落下してしまった。




「……あれ?」


目を開けると先ほど登っていた木を見上げていて木漏れ日が葉っぱの間からのぞき込んでいた。

すると、寝そべった俺を愛花と知らない少女がのぞき込んでくる。


「よがっだぁぁぁ! おにいじゃぁぁん!!」


愛花は泣きながら俺が無事なのを喜んでいた。


「危なかったね、大丈夫だった?」


そして知らない少女も俺に尋ねてきたので自身の体に異常がないかを確認する。

体の痛みはなく、なんで助かったのか分からなかった。

愛花が言うには、身に覚えのない少女が助けてくれた、との事だ。




少女は紅色の着物を着ており、前髪はおかっぱで腰まで伸びたモミアゲが特徴的だった。


「凄いね! ねぇ、どうやって助けてくれたの?」

「ふふ、秘密!」

「えーケチ! ……愛花は見てなかったのか」

「……しゃがんで目を瞑ってて見てなかった」


なにはともあれ、少女に命を救われたことは変わりなかった。


「君の名前は何て言うの?」

「私は神楽耶かぐやっていうの、あなたは?」

「僕は和樹、山守和樹っていうんだ!」

「私は愛花! よろしくね神楽耶ちゃん!」


これをきっかけに神楽耶とは俺と愛花の3人で遊ぶようになったんだ。




俺と愛花が森に入ると、神楽耶はすぐに木の陰からピョコっと顔をだしてくる。


「和樹君! 愛花ちゃん! 今日は何して遊ぶ?」

「今日は家からおもちゃを持ってきたから一緒に遊ぼう!」

「遊ぼ―!」


笑顔で話しかけてくる神楽耶と俺たちは日が暮れるまで遊ぶのが日課になっていた。

神楽耶は森に詳しかったので川で水浴びをしたり、木の実を探したりして遊ぶようになる。


「神楽耶って森の事いろいろ知ってるよね!」

「ふっふーん! 何でも聞いて! 答えられないことはないから!」

「神楽耶ちゃんすごーい!」


そんな3人の楽しい日々がずっと続いていく過程で、俺達は両親を失った心の傷も癒されていくのを感じていた。




しかし、幸せな時間はそう長くは続かなかった。


「ごめんなさい。……もう、2人とは会うなくなっちゃうんだ」

「……なんでそんな急に! ……僕、嫌だよ!」

「そうだよ、もっと一緒に遊ぼうよ神楽耶ちゃん!」


俺と愛花は当然嫌だと言うが神楽耶は悲しい顔をしてしまう。

神楽耶をそんな顔にさせたい訳じゃないのに、子供ながらもジレンマにさいなまれていた。


「……また、居なくなるのは嫌だっ!」


だが、俺は両親と会えなくなったばかりで神楽耶とも会えなくなるのが無性に嫌で、神楽耶に抱き着きながら懇願こんがんする。


「せっかく仲良くなれたのに、居なくならないでよ!」

「……っ!」


すると、神楽耶は何か決意をしたかのような表情に変わり、俺の肩にそっと手を添える。


「ごめんなさい。……でも私、頑張ってみるね」

「……え、頑張るって……」


頑張ると伝えた神楽耶は、俺の手を振り払いその場から走って森の奥へと消えていった。


「待ってよ、行かないで!!」


俺は手を伸ばし大声で叫ぶが、声は空しく森に響き渡るだけだった。




しばらく日が経つと、森は伐採され始め、平地にされる工事が始まった。

俺は神楽耶との思い出が壊されているようで、作業員の邪魔をしようと画策かくさくする。


「やめろー!!!」

「……なんだこいつ? 邪魔だ! どっか別の場所で遊んでな!」


当然ながら、全く相手にされなかった。

俺はただ無力に、これから徐々に平地となっていく森を眺め続けることしかできなかった。


「……神楽耶」


そんな時、急に意識が朦朧もうろうとし始め俺はその場に倒れこみ、後で駆け付けた愛花や大人たちに保護される。

それから10日間、俺は高熱に襲われることになった。




熱が下がりきった頃、森の方へ向かうとすっかり森は見る影もなく、平地と化していた。

もう神楽耶には会えないんだと感じた俺は、無意味だと知りながら彼女の名前を叫ぶ。


「神楽耶ぁぁぁーー!!!」


……だが、やはり俺の声は空しく平地に響くのみで、神楽耶とはもう二度と会うことはできなかった。


……

………


――パチッ

そこで目が覚める。俺はうっすらと涙を流していた。


「……懐かしい夢、見たな」


長い間忘れていた子供の頃の夢。

おぼろげな夢の内容を思い出しながらベットから腰を起こす。




視線を正面から時計のある方に移動させると、そこにはミニ丈である紅色の着物を着た愛花と同じぐらいの背丈をした


「おっはようございまーす!」


彼女は手を挙げて元気よく挨拶してきた。


「うわぁっ!!」

「きゃぁっ!!」


俺がめちゃくちゃ驚いていると、その浮いている本人も驚き返してくる。

俺は布団に隠れるようにして壁にもたれる。


「……だ、誰だよお前は!」

「え……」


浮いている彼女は後ろを振り返り、後ろに誰もいない事を確認した後、再度俺の方を見てくる。

その仕草だけでも非常に恐ろしいように見えた。


「……まさか、見えて……いるんですか?」


彼女は震える手で自分を指さし尋ねてくる。

ブンブン――ッ

俺は無言で顔を縦に何回か頷いて返答する。

すると、彼女は嬉しそうに顔をゆがますと俺に抱き着いてくる。


「嬉しいですー!! 」

「ぎゃーーーーー!!!!」


俺は思いっきり叫ぶ。

すると、階段を思いっきり駆け上がってくる音する。

――バンッ!


「大丈夫ですか兄さん!」


愛花は勢いよく扉を開け放つ。

今まさに女性に抱き着かれている場面で、俺は逃げ場のない諦めにも似た表情をしながら愛花の方を見る。


「いや! こいつが急に抱き着いてきて! 起きたら部屋にいたんだよ!」


俺が弁明するように愛花に起きている現状を説明した。


「……兄さん、寝ぼけているんですか?  

「え……?」


俺は困惑していると彼女は愛花の方を見る。


「あ、愛花ちゃんもおはようございまーす!」


愛花にも挨拶をしていた。

だが、当然愛花は返答をしない。




……どうやら、愛花には彼女が見えていないようだ。


――――――――――――――――

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