■17 一緒にお風呂

愛花の急な申し出に思考停止状態になる。

だが、俺はすぐさま脳を再起動させ反応する。


「まてまて! 愛花、さっきも言ったけど年齢的に――」


俺の言葉を聞き終わる前にお風呂場のすりガラスが開かれる。




反射的に俺は近くにあった小さい風呂桶で股間を隠す。


「ちょ! 愛花、風呂は後でも入れるだろう!」


俺はそう言いながら愛花の方を見る。

愛花は全裸ではなく、学生水着にTシャツを着た状態で立っていた。


「じゃーん! 心配無用です」


ホッとするかたわらちょっと残念な気持ちになるどうしようもない心を殴っておいた。


「あ、それで入るのね」


俺は気が抜けた声を出しながら、すぐさま湯船に避難する。


「……でも、その服じゃ一緒に入るのは無理じゃね?」


首まで湯船に漬かりながら愛花に突っ込んでみる。


「一緒に入るのは無理でも……芳樹おじさんの背中を流したいです!」

「おやおや……それじゃお願いできますか?」


芳樹おじさんは前をタオルで防御しながら背中を向ける。

うむ、紳士である。




「あ……はい!」


愛花はすぐに了承を頂けるとは思っていなかったのか、ちょっとひるみながら風呂場に入ってくる。

ボディスポンジを手に取り、適量ボディソープをつけると愛花は芳樹おじさんの背中を洗い始める。


「何だか昔を思い出すな。まだ愛花が幼い事はよく3人で入っていたもんな」

「はい! でもいつしか私はけ者にされて……寂しいです!」

「はははっ! こればかりはね。……愛花ちゃんも成長してるって事だよ」


俺は二人のやり取りを湯船の中から観察していると一通り背中を洗い終わったようだ。


「どうもありがとう、愛花ちゃん。後は自分で洗うから」


俺と同様に芳樹おじさんは前を洗う為に愛花からボディスポンジを受け取ると、手持ても無沙汰ぶさたになった愛花は俺の方を見る。


「……なんだよ?」

「……兄さん、どうしよう」

「いや、どうしようってお前。お役目を果たしたんだから退場すればいいんじゃね?」

「あっそうか! ……それじゃ芳樹おじさん失礼しますね」

「こちらこそ、わざわざありがとうね」


愛花は俺からの助言により、速やかにお風呂場から出て行った。




「ふぅ……急になんだったんだ、愛花のやつ」

「まぁまぁ、たまにはいいじゃないか」


芳樹おじさんがお湯で体の泡を流し終えると湯船に入ってくる。


「ふぅ……いい湯加減だ。それにしても愛花ちゃんももう高校生か、早いものだね」

「ですね。俺もそう思います」


「先ほどいろいろ話を聞かせてもらって友達には恵まれているようだから大丈夫だとは思うが……高校では何があるかわからない。和樹君、高校での愛花ちゃんをしっかり守ってあげてね」


「まかせてくださいよ! 最高の高校生活を送れるようにしてみせます!」

「ははっ! 頼もしい返事だね」


俺たちはその後も他愛もない話をしながら過ごした。




程なくして風呂から上がり、俺と芳樹おじさんはリビングに顔を出す。

そこにはプーっ頬を膨らませている愛花が椅子に座っていた。


「兄さんだけずるいです」

「ふふん、男子の特権ってやつだ」


どうやら一緒にお風呂に入れるのを羨ましがられているようだ。


「まぁまぁ、二人とも。愛花ちゃん、お風呂いい湯加減だったよ。もう空いたから入ってくるといい」

「はぁ~い」


愛花はしぶしぶ椅子から立ち上がり、脱衣所の方へと姿を消していった。




「……さて、和樹君。すまないが私は少し仕事をしないといけないからそろそろ自室に戻るよ」

「わかりました。あまり無理はしないでくださいね」

「ありがとう、それじゃ失礼するよ」


芳樹おじさんはそう言うとリビングを出て階段を上がっていった。

シーン、と静まり返るリビングに一人きりになった俺は椅子に腰を落とす。

ふと時計に目を向けると短い針は10時を指していた。


「……もうこんな時間か」


楽しい時間って本当にあっという間に流れるんだな、と改めて実感してしまう。




俺は適当にテレビを付けながら部活の事を考える。


「……活動実績って言ってもまず相談者を見つけないと……」


集める方法としては、掲示板での張り紙、各クラスへ実際に出向いて広報する方法のみだ。

それだけで本当にすぐに相談者は見つかるのだろうか。

何か別に相談者を募集できる方法があれば――


『ご質問は画面のQRコードから申し込みくださいね!』


ふとテレビで流れていた言葉で思考が中断される。




俺はテレビをしっかりと見ると、視聴者からの声を番組側が募っているシーンだった。


「……QRコードか……使えるかもしれないな」


俺はQRコードについてあまり詳しくなかったので、スマホで予備知識として活用方法や導入方法などを調べておくことにした。

俺が調べものに集中していると脱衣所の扉が開く音が鳴り、リビングへ歩いてくる音がする。


「上がりました! ……ってあれ、芳樹おじさんは?」


愛花はリビングに芳樹おじさんがいないことに気付くと俺に聞いてくる。


「仕事だってさ、今2階の部屋にいるよ」


俺はスマホで調べものをしながら愛花に答える。


「そっか……。それなら仕方ないですね」


愛花も俺の隣にある椅子に腰を落とす。


「兄さん、何真剣に見てるんですか?」


俺のスマホを愛花はのぞき込んでくる。


「……あぁ、さっきテレビでQRコードっていうもので視聴者の声を募っている番組があったんだよ。それを部活動の相談者募集に使えないかなって思って少し調べものしてるんだ」

「はぁ……QRコードですか」


愛花はよくわからない様だったので一先ひとまず放置しておくことにした。




「ふぁ……あぁ」


しばらくテレビを見ていた愛花は眠たそうに小さくあくびをする。


「愛花、またリビングで寝ないように早めに部屋に戻れよ」

「ふぁ~い……お言葉に甘えてもう部屋に戻りますね」


愛花はそう言いながら椅子から立ち上がる。


「それじゃ兄さん、おやすみなさいです」

「はい、おやすみ」


軽くお休みの言葉を交わすと、愛花は階段の方へと向かっていった。




程なくして俺もだいたいQRコードについての事を調べ上げ終わる。

俺はテレビやリビングの照明を消して自室へ戻り、簡単に明日の用意を済ませてベットに入る。

――よし、明日QRコードについてみんなに相談してみよう。




そんなことを考えながら俺は暗闇の中へと旅立っていった。


――――――――――――――――

「面白かった!  続きが見たい!」

「今後どうなるの!?」


と思っていただけましたら

画面↓の【♥応援する】から応援をしていただけると、私の強力なモチベになります!


また、最新話の最後に【★★★】の評価をすることができます。

率直に思って頂いた1~3の評価していただけると、昇天しそうなぐらい嬉しいです!


なにとぞ、よろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る