■20 思念伝達

朝食の片づけを終えた頃、愛花が学校の制服を着た状態で鞄を持ってリビングに入ってくる。


「お待たせしました兄さん。 ……あ、言い忘れていましたが今日はお弁当を作っていますので忘れずに持って行ってくださいね!」


愛花は俺にそう伝えると、鞄を机に置いて冷蔵庫に入っていたお弁当を二つテーブルに持ってくる。




愛花の言葉で今週からお弁当を作る話になっていたのを思い出す。

神楽耶の件ですっかり忘れていた。


「作ってくれていたんだな。ありがとう!」


俺は台所からテーブルの方へ移動し、お弁当を見ながら愛花に感謝を伝える。


「ちょっとまっててくださいね」


愛花は台所から弁当を包む風呂敷を2枚持ってくると、それぞれを丁寧に包み込み片方を俺に渡してくる。


「はい。兄さんの分です!」

「サンキュー」

『何が入っているんでしょうね!』


神楽耶はお弁当を見て脳内に直接話しかけてくる。




「っっ!」


神楽耶の急な問いかけに驚いた俺に愛花はポカンとした顔で尋ねてくる。


「……どうかしましたか兄さん?」


どうやら愛花には神楽耶の声は聞こえていないようだった。


「あぁ……いや、それじゃ俺もサクッと学校の用意してくるよ」


俺は急いで弁当を持って部屋へと移動した。




部屋に到着すると神楽耶を問い詰めることにした。


「神楽耶、さっきも言ったけど周りに人がいる時に話しかけられるとビビるだろう」

「ご……ごめんなさい、つい」


神楽耶は反省した面持ちで謝罪をしてくる。


「それに、さっき頭の中から神楽耶の声が直接聞こえてきた気がするんだけど、何だったの?」

「あ、それは思念伝達しねんでんたつというものです」

「思念伝達?」

「はい、今こうして話している言葉とは別に和樹君の精神体に直接言葉を伝えていたんです。いわゆるテレパシーというやつですね」


思念伝達と言われるとよく分からなかったが、テレパシーと言われると何となくわかる気がする。


「なるほどね、そのテレパシーってやつは俺も神楽耶に向けてできるものなのか?」


興味本位で聞いてみた。


「はい。できると思いますよ」


あっさり肯定こうていされてしまう。




「まじか、どうやるんだ?」

「えっと、それじゃさっきみたいに思念を飛ばしますので、その声に答えるように強く念じてみてください」


俺は神楽耶の言われるがまま従う。


「わ、分かった!」

『……聞こえますかー?』


すると、先ほどリビングで聞こえてきたように神楽耶の声が頭の中から聞こえた。

神楽耶の口が動いていないのを確認しながら俺は一度頷く。


『それじゃ、この声に返答するように強く念じてみてくださーい』


言われるがままに俺は神楽耶に対して返答する言葉を強く思い続けてみた。




『あーテステス、マイクテストーマイクテスト―』

『……あの、マイクテストって何ですか?』


神楽耶は俺の返答に答えてくれた。


「おぉ! さっきの聞こえた感じか?」


俺は思わず声に出して喜んでしまった。


「あー……はい! バッチリ聞こえてましたよ!」


神楽耶も声を出して返答してくる。




「なんか面白いな、これだったら周りに人がいてもバレずに神楽耶と意思疎通いしそつうが出来そうだ」

「ですね! 何かあったら私に質問してみてください!」


すると、1階から愛花の声が聞こえてくる。


「兄さーん、そろそろ出かけないと遅刻しますよー」


愛花の声で我に返った俺は、急いで持っていたお弁当を鞄に入れる。

学生服に着替えようとした時、俺は神楽耶と目が合う。


「……あの、ちょっと向こう見ておいてもらえるか?」

「え……あ、はい! そうですね。それじゃ……どうぞ」


神楽耶がそっぽを向いた事を確認した俺はそそくさと学生服に着替える。

常に一緒にいるってのはなかなか大変そうだ。




着替え終わった俺は鞄を持って部屋から出る。

玄関に到着すると既に靴を履き替えた愛花が待機していた。


「すまん、待たせたな」

「いえ、それでは行きましょう!」


俺たちは家を出ると愛花は家に鍵を閉める。

歩きながら俺は今朝お弁当を作ってくれたことについて尋ねる。


「それにしても学校で愛花の作る料理が食えるなんて学校の楽しみが一つ増えるな。でも愛花、手間じゃなかったか?」

「いえ全然そんなことなかったですよ。料理作るのは好きですし、何を入れようか考えるのも楽しかったです!」

「そういうもんなんだな」


俺は愛花と他愛もない話をしながら梓ちゃん達との待ち合わせ場所まで移動する。

待ち合わせ場所には梓ちゃんが既に待機していた。


「おはよう、梓ちゃん」

「おはようございます。梓ちゃん」


俺と愛花は梓ちゃんに挨拶をする。


「……おはようございます! 愛花ちゃんに和樹さん」

『おはようございまーす!』


梓ちゃんが返答すると神楽耶も梓ちゃんに挨拶を言っていた。


『……神楽耶って人と会うごとに挨拶しているよな』


俺は試しに神楽耶へ思念を飛ばしてみた。


『挨拶はとても大切なものですからね! お知り合いの方にはしなくてはいけないです!』


神楽耶からは普通に返答が帰ってきた。

思念伝達で問題なく神楽耶とやり取りはできそうで俺は一安心する。




「梓ちゃん、アリサちゃんはまだ来てないの?」

「……そうみたいです。あ、もうすぐ到着すると連絡は来ていますよ」


梓ちゃんがそういった直後にアリサちゃんがこちらに走ってくるのが見えてきた。


「ごめんなさーい! おまたせしました!」


俺たちのところに到着したアリサちゃんは息を切らせながら挨拶をしてくる。


「おはよう、アリサちゃん。朝から走って運動的でいいね!」

「アリサちゃんもおはようございます」

「……おはようございます! アリサちゃん」


それぞれが挨拶を交わすと神楽耶も挨拶をしていた。

今度はスルーしておこう。




合流を済ませた俺たちは、あの桜並木を見ながら通学を済ませて学校へ到着する。


「それじゃまた学食で」


俺は愛花達に軽くお別れを告げて別れる。

その後、俺はクラスへと向かおうと思ったのだが、ふと生徒会室の前で足が止まった。


「……誰かいるかな」


俺は恐る恐る生徒会室の扉を開けてみる。




扉は開き、中にを生徒会長の九条先輩が一人机に座って何か作業をしていた。


「……あら、朝から生徒会室にお客さんなんて珍しいわね」


スッと机から立ち上がる九条先輩。


「おはよう、山守さん。何か用かしら」


凛とした立ち振る舞いで挨拶をしてくる。


「おはよう……ございます」

『確か、生徒会長の方ですよね』

『あぁ……まさかいるなんて思わなかったけど』


俺は少し動揺しながら挨拶を交わす。


「ちょっと部活動の申請について気になることがありまして……」

「部活動? あぁ、先週提出して頂いたものですね。申し訳ありませんが、まだ手続き中なのでお伝えできるものがありませんの」


九条先輩は申し訳なさそうに答えてくる。




「あ、いや申請に関しては放課後にでもまた確認に来る予定です」


俺は恐る恐る九条先輩に確認する。


「以前、高橋先生から聞いた話ですが、部活申請の際は明確な活動実績が必要だと聞きました」

「……おっしゃる通り、部活申請の際にはその点もしっかり想定して判断されるものです」


九条先輩は机の中から先週俺が提出した部活の申請書を取り出して見返す。


「今回山守さんが作ろうとしている部は少し特殊です。だからこそ、先週末に私の方から国枝さんに部活動の動向調査をお願いしたのです」


そんなやり取りをしていた事を思い出す。


「おそらく、一度は部室の使用許可は出ると予想します。……ですが、国枝さんから明確な活動実績が確認できなかった場合、部室の使用許可は即刻そっこく取り下げることになるでしょう」


九条先輩は凛とした表情で言い放つ。




「……と、ここまでにしておきましょう。そろそろ朝のHRの時間です。教室へ移動してください」


九条先輩は先ほどのキリっとした口調から砕けた口調に戻る。


「……わかりました。それではまた放課後にお邪魔させて頂きます」


俺は九条先輩に圧倒されつつも生徒会室から出る。


威圧感いあつかんのある方でしたね』

『さすが生徒会長、という感じだな。放課後また顔を出してみよう』


俺は神楽耶と思念でやり取りをしながら自分のクラスへと足を進めるのであった。


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