■15 愛花とお出かけ
ふと目が覚める。
窓の外はまだ薄暗く日はまだ上がっていないようだ。
ベットから体を起こして時計の方へ視線を向けると時刻は短い針が5時を指していた。
「妙な時間に起きてしまったな……」
すると、
1階に降りると愛花は既に起きているのか、リビングから食器などの音が聞こえてくる。
俺はリビングに顔を出そうか悩んだが、尿意が限界だったので玄関の傍にあるトイレに入って用を足す。
「……ふぅ、危なかった」
トイレから出ると愛花と鉢合わせになる。
「兄さんおはようございます! 珍しいですね兄さんがこんな時間に起きるなんて」
「おはよう。ちょっとね、これからまた寝ると思う」
俺は尿意で目が覚めた事を誤魔化しながら愛花に伝える。
「そうでしたか」
ニコっと笑顔を浮かべる愛花は思い出したかのように話し続ける。
「あ、そうそう。昨日の花見でいろいろ材料使っちゃって、今日ちょっと買い物に行くのでよかったら付き合ってもらえますか?」
どうやらお弁当を作りすぎたようで荷物持ちが必要らしい。
「おっけ。何時ごろに行く予定?」
「お昼には出かけたいと考えています。よろしくお願いしますね」
「りょうかーい」
俺は愛花に片手をふりながら返事を返し、自室に戻ることにした。
部屋に戻った俺は再度ベットに入ると目を瞑る。
…
……
………
「……う~ん、なかなか寝れないな」
愛花とのお出かけだという事もあり、若干意識が覚醒したのだろう。
それはそうと、お昼から出かけるという事はそれまでに宿題を済ませておく必要もある。
ベットの中で結論が出たので、俺は体温で温まった布団から出ることにした。
「さて、ちゃっちゃと終わらせますか」
俺はそれから残りの宿題に取り掛かる。
途中、8時ぐらいに一度朝食でカレーをパンに付けて食べる事でより一層目を覚めた。
おかげで昼までに宿題を何とか終わらせることが出来た。よかった……。
嫌なことを終えた俺は清々しい気持ちで1階へと降りる。
リビングに到着すると愛花は洗濯物を畳んでいた。
「愛花、そろそろお昼だけど、いつ頃出かけるの?」
俺はリビングにあるテーブルに座りながら愛花に尋ねる。
愛花は服を畳む手を一旦止める。
「もうちょっと待っててくださいね。この服たちを畳み終えたらいきましょう!」
週末という事もあり、結構洗濯物が貯まっている。
なので俺も手伝うことにした。
「俺も畳むの手伝うよ。その方が早いだろう」
「ありがとうございます」
2人で服を畳むと当然速度は2倍になるので、すぐに全ての洗濯物を畳み終える事ができた。
愛花は畳み終えた中から俺の衣服一式を渡してくる。
「はい、兄さんのぶんです」
「サンキュ」
「これ、片づけたら行きますか」
「はい!」
話し終えると俺は服を自室のタンスにしまい込み、出かける衣服に着替えて玄関へと向かう。
階段を下りていると、愛花は既に玄関で待機していた。
「おまたせ、それじゃいこっか」
「はい!」
玄関から出たあと、愛花は家に鍵を閉める。
「今日は近くにある商店街のスーパーにいきましょう」
小さな手さげ鞄を持った愛花は俺の方を向いて提案してくる。
どうやら、以前買い物した場所ではないようだ。
「りょーかい!」
商店街に到着すると、お昼時なので人が結構いる。
「買い物の前に何か食っていこうぜ」
「ん~、そうですね」
「何か食いたいものあるか?」
「あまり脂っこいものじゃないなら何でもいいです」
「おけ、それじゃあの喫茶店なんてどうだ?」
俺は喫茶店のテラスを指さした。
「そうですね。ゆっくりできそうですし、あの店にしましょうか」
俺たちは喫茶店に入り注文を行う。
愛花はサンドイッチセットで俺はペペロンチーノパスタ大盛とコーヒーをそれぞれ注文した。
伝票板のようなものを渡されたので、喫茶店の外にあるテラスへと移動する。
俺たちは椅子に腰を落とし、注文が来るまで少しばかりの雑談を楽しむ。
「そういえば、愛花に高校の入学祝い買ってなかったよな。なんか欲しいものとかってある?」
「いえいえ、そんな気にしないでくださいよ。お気持ちだけで十分です」
「う~ん、そうか? ま、なんか欲しいものがあれば言ってくれよ」
愛花は苦笑しながら答える。
「わかりました」
「愛花ってあまり物欲がないというか、今まで何かをねだった事ってないよな?」
「そうですか? あまり考えたことがないですね」
そもそも子供の頃に親を亡くしているので、ねだる相手がいなかったというのが正しいが。
昔親が亡くなった後、田舎のおじいちゃんの家に引き取られた時もおじいちゃんは病気で急死しており、親族からは呪われている子供だと言われている事を人づてに聞いたことがある。
この世の中は愛花以外誰も信用できないと思っていた頃、芳樹おじさんに出会い俺たちを受け入れてくれたんだ。
愛花も初めは俺以外の人には
そんな昔の事を思い出していると、定員の人が注文した料理を持ってくる。
「お待たせいたしました。ご注文の品になります」
「ありがとうございます」
俺は軽くお礼を言うと定員は店内へと帰っていく。
「それじゃ食べますか」
「はい」
「「頂きます」」
頂きますをした後、俺はテーブルに置かれたコーヒーに手を伸ばす。
苦みが口全体に広がり、独特な香りが鼻に突き刺さる。
「……うん、美味い」
愛花もサンドイッチをつかみ、ハムスターのように小さな口で食べ始める。
「愛花のも美味そうだな」
「兄さんも少し食べてみます?」
「いいのか?」
「はい! あ~ん」
パクッ――
俺は愛花が差し出してきたサンドイッチを小さく噛みつく。
「うん! 上手いな! でも、愛花の作るサンドイッチには負けるが」
「もう、兄さんったら。そういう事はお店では言わない様にってお願いしてますよね?」
「悪い悪い、ついな。サンドイッチもらったし、俺のペペロンチーノも食べるか?」
「それじゃ……少しだけ」
俺はフォークで小さくパスタをフォークに絡めて愛花に向ける。
「ほら、あーん」
「あ~ん」
パクッ――
愛花の口に俺のフォークが入る。
「うん。良い感じの辛さで美味しいです!」
「だろ? 昨日のカレーには全然負けるが、これはこれでなかなか美味い」
俺は注文した料理をペロっと食べ上げ、食後の休憩がてらこの後の予定を確認した。
「食べ終わったら買い物だよな」
「そうですね、私も食べ終わったら行きましょうか」
愛花は残りのサンドイッチを口の中に入れる。
食べ終えたタイミングを見計らって愛花に尋ねる。
「……それじゃそろそろ行きますか」
「行きましょう!」
愛花は答えると俺たちは席から立ち上がる。
この喫茶店は食べ終わった食器などは放置して良いようなので、そのまま店を出る。
喫茶店を後にした俺たちは目的地であるスーパーに到着する。
後は愛花に任せることにした。程なくして、買うものはすべて決まり会計を済ます。
案の定荷物が多く、以前と同様に俺が荷物の大部分を持つようになる。
「う……それじゃ帰るか」
俺は両手の買い物袋に圧倒されつつも愛花に確認をとる。
「いつもすいません。それじゃ帰りましょうか」
愛花も買い物袋を1つ持ち、申し訳ないと思いながらこちらを見てくる。
「なんのこれしき」
俺はやせ我慢を発揮させながら家へ帰るのであった。
家に到着すると、両手に持っていた荷物を玄関に置く。
「ふぅぅ……、到着!」
俺は思い切り息を吸い込み、達成感に満ち溢れていた。
「ありがとうございます兄さん、お陰でしばらく買い物に行かなくてよさそうです」
後ろから続いて玄関に入ってきた愛花から
「そりゃよかった、また買い物に行くときには声をかけてくれよ」
俺はグッドサインをすると、再度玄関に置いた荷物を持ちリビングのテーブルへと移動させる。
「よいしょ、っと」
テーブルに荷物を置いた後は愛花の担当だ。
テキパキと買い物袋から食材や小物を取り出していく。
「手慣れたもんだよな、どこに何を置くか予め分かっている感じというか」
「それはそうですよ、何年この台所で料理を作っていると思っているんです?」
愛花は胸を張りながらエッヘンと言いたげな顔をしながら話す。
「何年だろう……」
少なくとも5年以上前なのは確かなことだ。
「そういえば、今晩は何作る予定なの?」
「えっと、アスパラガスにベーコンを巻いたものでも作ろうと思っています。兄さん好きですよね?」
「好きです!」
即答である。
あの
「それじゃ準備もあるだろうから仕込みは俺も手伝うよ」
「ありがとうございます。もう少し片づけたら始めるので、それまでゆっくりしておいてくださいね」
俺は頷くともうしばらく愛花の観察を続けることにした。
程なくして買い物袋の中身がなくなり、すべての処理が終わる。
「お待たせしました! それじゃまずはアスパラガスを適切なサイズにカットしていきましょう」
「おけ!」
俺は席から立ち上がり、台所へ移動する。
「まずはアスパラガスを同じサイズに切っていきましょう!」
「あいよ」
切り終えたアスパラガスを空のトレーに置いていく。
「切り終えた後は、それを熱湯で茹でていきます」
愛花は大き目の鍋に水を入れて温め始める。
一通り切り終えたのでトレーを愛花に渡すと、トレーに入っているアスパラガスを大き目の鍋に入れ始める。
「アスパラガスを茹でている間にベーコンを適切なサイズにカットしていきましょう!」
愛花はテキパキと指示を出していく。
豚バラの肉塊が台所に用意される。
「私が一回手本を見せるので、兄さんは同じようにお肉をカットしていってくださいね」
「了解!」
俺達はしばらく豚肉の処理をしていると愛花はクスっと笑う。
「ん? どうかしたか愛花」
「あ、いや……もうたくさん兄さんから貰っているなぁって思って」
「んん? なんの話だ?」
「ふふ、なんでもないです」
愛花はニコっと笑いかけると作業に戻る。
しばらく豚肉の下処理を終えた頃、アスパラガスが茹で上がりアスパラガスに豚肉を巻き始める。
程なくして下処理を終えた。
「ありがとうございます。これでひとまず終了です。晩御飯は楽しみにしておいてくださいね!」
「なんなら今からでも焼いて食べたいぐらいなんですが!」
俺は愛花に提案するが、愛花は人差し指を目の前に立ててチッチッチと左右に揺らす。
「兄さん、最高の調味料は”空腹感”ですよ。しっかりと空腹感がある状態で食べないともったいないです」
「た……確かにっ!」
愛花の申し出に納得した俺は仕方なく引き下がることにした。
それだとまだ晩御飯まで時間がある。
もう少し愛花と一緒にまったりと時間を過ごすことにしよう。
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