Peace of Death 〜死の断片〜

序章

ザーザー

真っ暗闇の世界に雨音が響いている。

ザザザザザーー

小刻みに打ちつけるその音に呼ばれるかのように、啓太は閉じきった重いマブタをゆっくり開けた。

容赦なく降りしきる雨の中、

傘も差さず啓太は立ち尽くしていた。

周りを見渡すと、喪服姿の人々があちこち歩き回っている。

深々とおじぎをする年配の方、気丈に振る舞うがどこか憂いた表情の若い女性。

目に映る全ての人が哀しみを背負っているのが、ひしひしと伝わってきた。

そして、この重々しい雰囲気に似つかわしくない輝きを放った供花が奥に見える。

その清き花の中央部には1枚の凛と笑う女性の写真が飾ってある。

まるで自分に何かを訴えかけているようなそんな笑顔に、啓太の心は締め付けられた。

「奈津葉（なつは）。お前死んだのか」

おびただしいほどの綺麗な花に囲まれた遺影に写っていた人物は、啓太の親しき幼馴染みの奈津葉であった。

言葉も涙も出ない。

ただ釈然としないまま、灰色を帯びた目で

この現実を直視するしか啓太にはできなかったのだ。

ザーザーザー

無情にも冷たい雨は啓太のことを打ち続けた。