第28話 魔剣ダーインスレイヴ5
それらは、いつまでも訪れる気配がなく、私は閉じていた目をゆっくり開けました。
「……!?」
視線を向けると、私を貫くはずだったダーインスレイヴは、左側の体を掠めて、マントがわずかに裂かれているだけでした。
胸元で、シャリッという小さな音を聞き、そちらを見ると、レイラに預かったラピスラズリが砕け散っていました。
(……助かったの、か?)
感じたことのないほどの極度の緊張から解かれて、私が膝を地面に着くと、手に握る魔剣が、「ククククッ!」と笑い出しました。
「普通ハ、呪イニ取リ込マレテ、他人ヲ斬ッテ終ワリダ。マサカ……自分自身ヲ殺ソウトスルトハナ!コンナ、イカレタ奴ハ初メテダ!!ハハハハハハッ!!」
ダーインスレイヴの笑い声が、洞窟内に反響しました。
「オ前ノ首ニカカッタ石ノ魔力ニ邪魔サレタノト、自分自身ヲ斬ル、
「では、私の物になると?」
尋ねると、魔剣は満足そうに笑った後、答えました。
「アア、ソウダ。俺ヲ連レテイケ!!オ前が望ム物全テヲ斬ッテヤル。人間ノ作ッタ偽物ノ鞘ニデモ、俺ヲ入レルンダロウガ、忘レルナ。俺ノ鞘ハ、オ前ダ」
それだけ言うと、ダーインスレイヴから放たれていた、燃え盛る黒紫の炎は消え、刀身の煌めきと装飾の美しい一本の剣となって、私の手の中に落ち着きました。
「大丈夫か、カキザキ……!」
ラルクや、他の
「ええ……掠っただけですから」
「……もうっ、勇者様!死んじゃうって思ったじゃないですかぁ!」
ロイが泣きながら、抱きついてきました。
「ご心配をおかけしました」
泣きじゃくる頭をそっと撫でました。
「勇者様……貴方と言う方は」
アリアが、ほっとしたような表情で、私を見つめています。
「
暗がりではありましたが、聖女のような微笑みで、アリアは私に言いました。
「まったく、ただの優男かと思いきや、なかなかヤンチャだよね、悠君は。トガった魔剣まで、取り込んじゃって」
オーディンが、私の手に握られたダーインスレイヴを見つめながら、艶やかな微笑を浮かべました。
「……ううっ」
小さな呻き声に視線を向けると、地面に倒れこんでいたライアンが、ゆっくりと起き上がるところでした。
「……!?こ、ここは……?俺は、一体!?」
ライアンは焦ったように、洞窟内を見回し、そして、私の手の中にある魔剣に気づくと、はっとした表情を浮かべました。
「……それは、ダーインスレイヴ!?そ、そうだ……俺は、そいつを求めて、この洞窟に入り、そして……!!」
彼の中で、記憶が戻ったようです。
「あ、あんた達は……一体?」
「俺達は、転生勇者カキザキ率いる
ラルクの言葉に、ライアンは改めて、私に視線を向けました。
「勇者カキザキ、ありがとう!危うく魔剣と共に破滅するところだった……」
正気の戻ったライアンの瞳は、暗がりですが、レイラによく似た美しい緋色です。
「俺は、どれだけの間、洞窟にいたんだ……?」
「一月前から帰って来ないと、レイラが言ってたぜ」
ラルクの言葉に、ライアンは驚いた後、頭を抱えました。
「そんな長い間……。レイラに心配かけたな……」
その後、震えながら言いました。
「魔剣を手にしてからの記憶が全くない……。俺は、まさか誰かを手にかけたのか……?」
「その点は、大丈夫だ。ここにたどり着くまでに、たくさんの亡骸を見たが、あんたの洞窟に入った時期と合わない」
「そ、そうか……」
ラルクの返答に、ライアンは心底安心したように、息をつきました。
「さあ、ライアン。私達とトルスタンに戻りましょう。レイラが待っています」
「あ、ああ……」
ライアンが頷くと、私達は、元来た道を戻り始めました。
「あ、あの……元来た通路を戻れますか?右や左に複雑に曲がってきましたけど……」
ロイが、控えめな声で尋ねると、ラルクが答えました。
「入り口から、ここに来るまでの道のりは全部記憶してる」
「えっ、そうなんですか!凄いですっ」
ロイが尊敬の眼差しで、ラルクを見ました。
「ま、とはいえ、チョークで印をつけてきたけどな」
はい、印をつけているのは、私も気づいていました。
ラルクの記憶と印を確認しながら、洞窟内の通路を戻る途中、私はライアンと話していました。
「そうか……連れとはぐれたのか」
「はい……。ですが、そもそもお嬢様が、もとの世界におられるのか、同じく、この異世界におられるのか。それすら分からないのです。トレジャーハンターの貴方なら、様々な情報を持っているかと思います。何か手がかりになるような情報は、ありませんか?」
「……そうだなぁ。そのお嬢さんやカキザキが転生した時には、俺はすでに、この洞窟に入っていたから、直接的な情報は、今現在はない」
ライアンの横顔が、ランタンに照らされましたが、一月も洞窟にいたとは思えない普通の状態です。これも、魔剣による呪いの作用なのでしょうか?
「ただ、異世界転生に関して、旅の途中で聞いたことがある。転生の魔法を有しているのは、女神だけではないと」
「女神だけではない?」
「ああ。例えばだが、魔王も転生の魔法を使えるだとか、さらに、魔王自身も転生者じゃないかとも言われている」
「……!」
まさか、魔王側も、転生者の可能性があると……?
「これも噂の域に過ぎない。旅をしながら、地道に情報を集めるしかないだろう」
ライアンの言葉に、私は小さく頷くしかありませんでした。
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