第26話 魔剣ダーインスレイヴ3

右側の通路を行くと、ランタンの光に照らされ、開けられた宝箱があり、ここにも白骨がありました。

さらに進むと、何か微かな光が見えます。

武器を構えながら、歩を進めると。


「ここは……」


洞窟の最奥に出ました。

ここは、広めの空間となっており、洞窟の岩壁には、微かな光を放つ、薄水色の鉱石がまばらにあります。

そして、地面には、金貨や、色とりどりの豪華な装飾品の宝物に溢れていました。


「スゲー宝の数だな……」

ラルクが辺りを見回しながら、呟きました。

「……おい、気をつけろ。奥に何かいるぞ!」

ジルの声に、その方向にアリアがランタンを向けると……。


「ウゥゥゥ……ッ」

低い唸り声をあげる何かが、こちらに背を向けて立っていました。

私は素早く長剣ロングソードを鞘から抜きました。

薄暗がりの中、背を向けていたものが振り向いた瞬間、皆が息を飲みました。

「やっぱり、人か!」

ラルクが鉤爪クローを構えながら、言いました。


その人物は、右手に、装飾の施された剣を握っていました。その剣は、薄暗がりの中、禍々しい黒い紫色の炎のような光を放っています。

恐らく、それは魔剣ダーインスレイヴ。

そして……。


「この人物……ライアンなのでは?」

私は隣のラルクに問うように言いました。

暗がりの中でも分かる、乱雑に肩まで伸びた緋色の髪。

そして、血走ったような真っ赤につり上がった瞳。

少しはだけた首もとには、濃い青の石のネックレスが見えました。


「……たぶんな」

ラルクが、答えました。

しかし、ライアンらしき、その人物の目つき、犬歯を剥き出しにしながら、低く唸る声。

とても正気の人物とは思えません。


「う~ん、魔剣に取り憑かれているみたいだねぇ」

この場の空気にそぐわない、呑気な声でオーディンが言いました。

魔法書でも確認しましたが、剣の持ち主を呪うというのは、真実のようです……。

おそらくライアンは、数々の罠や魔獣を退け、この洞窟の一番奥までたどり着き、魔剣を手にすると同時に、呪いにかかったのでしょう。


「グアァァァ…………ッ!!」

雄叫びを上げながら、ライアンが魔剣を振りかざし、猛スピードで襲ってきました。

同じく長剣ロングソードを抜いたジルが応戦しました。

「グルルルル……ッ!!」

ジルの長剣ロングソードに阻まれ、鋭い目つきで睨みながら、ライアンが唸り声を上げます。

これが今までの魔獣であったなら、容赦なく攻撃できますが、相手は人間なので、防御するしかありません。


「斬るよりも、難しいな……っ」

魔剣を一身に受け止めながら、ジルが苦い声を漏らしました。

一度鞘から抜かれると、人の血を吸うまでは、鞘に収まらないと魔法書に書かれていました。


「グォォォ……ゥッ!!」

ライアンが唸りながら、魔剣を違う角度から斬り返しました。

「くっ……!」

ジルの剣が、それにまた応じました。


「ずっと……こんな小競り合いを続けることも、不可能だっ」

ジルが表情を歪めながら言いました。

「くそっ……!攻撃も出来ねーし、どうすれば」

ラルクが、唸るように小さく言いました。


「……私に、一度試させて頂けませんか?」

後方に控えるアリアが、言いました。

「呪いに効く魔法を」

「お願いします」

私の言葉の後、すぐさまアリアは両手を組むと、詠唱しました。


神々の福音ホーリー・ブレス!」


すると、真上から、突如、陽光のような眩しい光が降り注ぎ、大きく開いた羽のような白い光がライアンを照らしました。

「グゥッ……!!」

ライアンは一瞬苦悶の表情を浮かべましたが、間もなく目映い光はバシュッ!と消え去り、辺りは、元のほの暗さに戻りました。


「……駄目です。呪いが強すぎて、全く効きません……」

アリアが肩を落とし、力無げに小さく言いました。

「その場しのぎの小競り合いは、限界がある。どうするんだ!?」

応戦を続けながら、ジルが、強く言いました。


「斬るしかないんじゃないかな、もう」

オーディンが、炎上必至な一言を言い放ちました。

「そ……それは絶対ダメですよっ!」

ロイが焦って反論しました。

「何でダメなの?その魔剣欲しさに洞窟に入り、そして、手に入れた。呪いと引き換えに。自分の欲望に、ただ捕らわれただけでしょ?」

オーディンは、さらりと言って退けました。


「お前、悪魔かよ!?」

ラルクが鋭い目つきでオーディンを睨みました。

「綺麗ごと言っても、それしかもうないんじゃない?」

オーディンが小さくため息をつきました。

私達を嘲笑うかのように、ダーインスレイヴは、禍々しい紫の炎を放ち続けています。


この世界の法律を知りませんが。

例え、異世界だからといって、人は殺せません。

ライアンを呪いから解放する方法は……。

一つしか、ないでしょう……。


「ジル。何とかライアンさんの動きを止めてください!私が魔剣を奪います!」

私の言葉に、応戦を続けながら、ジルが背中越しに、こちらを見ました。

「奪うということは、お前が……」

ジルの声を遮るように、私はライアンに向かって叫びました。


「ライアンさん!これが何か分かりますか!?」

私は首に掛けたラピスラズリの石を手に取り、翳しながら言いました。

「グルゥ……ッ!!」

ライアンは、獣染みた声で唸りながら、私の方に視線を向けました。

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