第25話 魔剣ダーインスレイヴ2

さらに山を登ること、1時間半ほど。

「ようやく着いたな。洞窟に」

地図を片手に、額の汗を拭いながら、ラルクが言いました。

ジェベル山の中腹に、話の通り、その洞窟はありました。


「ここから先は、何がどうなってるか、はっきりとは分からない。予想しねーこともあるかもしれない。今までよりも、気をつけて進まねーとダメだ。皆離れず、進んでいこう」

ラルクの言葉に、仲間パーティー全員が頷きました。

洞窟の中は、明らかに暗がりなため、昼間ではありますが、ここから先は、ランタンで照らしながら進むことになりそうです。


「はぁ、何だかじめッとしてそうだなぁ。しかも、寒そうだし」

オーディンが、ため息をつきました。

いつも何か一言言わずにはいられないのでしょう。

「じゃあ、入るぞ」

ラルクの言葉に、私達、冒険仲間パーティーは、ランタンをかざしながら、魔剣のある洞窟へと足を踏み入れました。


洞窟内は、ランタンの灯りがなければ、全くの暗闇で、オレンジ色の光に照らされるのは、山肌と同じようなゴツゴツとした岩石です。

外の気温に比べて温度が低く、決して薄着ではありませんが、肌寒ささえ感じます。

少し行くと、道が二手に分かれていました。

「これは、どちらへ行けば?」

アリアが尋ねると、ラルクが答えました。

「ここで、少しだけ止まってくれ」

彼の言葉に、私達は歩を止めました。


ラルクは、肩掛けのバッグから、長めのロープを取り出すと、腰にあった短剣ダガーをそれにくくりつけました。

そして、円を描いて、ロープを回すと、まずは左手の通路の方へ投げました。

「ザシュッ!ザシュッ!」

すると、その道の上方から、長い槍が降ってきて、洞窟地面に突き刺さりました。

「わ、罠が……!」

驚いて、手を口元に当てたアリアに、ラルクが言いました。


「宝の眠る洞窟には、よくある仕掛けだ」

彼は、今飛ばした短剣ダガーつきロープを引っ張り、手元に戻しました。

そして、再び円を描いてロープを回すと、今度は右手の通路の方へ投げました。

今度は、何の仕掛けも発動しませんでした。


「右側の道を進もう」

ラルクの言葉に従い、私達は右側の道を歩き始めました。少し進むと、開けられた宝箱がありました。

「前に、人が通った後ですね……」

アリアが、宝箱を見つめながら言いました。

「ああ。俺達以外にも、以前に何人もの人間が、この洞窟に来たと、昨夜、街でも聞いたぜ」


そして、その中には、ライアンも……。


「先に進もう」

ラルクの声に、私達はさらに洞窟の先へと、足を踏み入れました。

そして、3つ目の分かれ道に来た時。


「うっ……」

ロイが口を手で押さえながら、小さな声を漏らしました。

右側の道に、数本の矢と……いくつかの白骨が見えたからです。

「前に洞窟に入った人間の物だろう。罠にかかったんだな」

ラルクの言葉に、アリアは神職らしく、十字を切って、祈りを捧げていました。

「ライアンではないだろうな……。一月前なら、これ程にならない。これは、さらにもっと前に洞窟に入った人間の物だな」

科捜研などではないので、詳しくは分かりかねますが、確かに一月で、あそこまで白骨化はしないでしょう。


次に左側の道に、ラルクが短剣ダガーつきロープを飛ばしましたが、何も発動せず。

「こっちに進もう」

彼の言葉に、左側の道を歩きましたが、先を行くと、空の宝箱と、またしても骨が見つかりました。


「こっちのは、魔獣にやられたんだろうな。宝箱の宝を盗ったやつと、この骨は別人だな」

ラルクが言いました。

その時。


「キキキィィ……ッ!!」

獣の鳴き声が、もう少し奥の暗闇から聞こえてきました。見ると、闇の中で、洞窟の天井に無数の赤い目があります。

吸血蝙蝠ヴァンパイア・バットだな」

ジルが言うのと同時に、長剣ロング・ソードを抜きました。

私も剣を抜き、構えました。


「数が多い。俺に任せろ」

「キキキキキキキィィィ…………ッ!!」

ラルクが言った瞬間、吸血蝙蝠ヴァンパイア・バット達が一斉に、こちらに向かって飛びかかってきました。ランタンの明かりに照らされた、その姿は元いた世界の蝙蝠と比べて、その体は約10倍の大きさ、目がルビーのような深紅です。


短剣ダガー十連発・五月雨!」


無数の横殴りの雨のように短剣ダガーが飛び、全ての吸血蝙蝠ヴァンパイア・バットに突き刺さりました。

蝙蝠達は、短い断末魔を上げて、洞窟内の地面に落ちていきました。

「先に進もう」

ラルクの声に、私達はさらに洞窟奥を目指して、足を踏み出しました。


この先も通路は迷路のように、いくつも枝分かれし、その度にラルクが慎重に見極めながら、左右いずれかの道を選択し、先へと進みました。

相変わらず洞窟内は、ランタンの光がなければ、闇一色で、この先どこまで続いているのか分かりません。

この間にも、幾つもの罠や、魔獣、開けられた宝箱……そして、白骨化したものに遭遇しました。

しかし、その中に、ライアンの手掛かりになるものは見当たりませんでした。


「だいぶ奥まで進んだな」

ランタンの明かりに照らされたジルが、言いました。

「ああ。そろそろ魔剣が見つかってもいいくらい進んだと思うが」

答えるラルクの声が洞窟に響き、また分かれ道が現れました。

ラルクが今までと同じように、短剣ダガーで罠の有無を調べようと構えた、その時。


「ガルルルルルゥ…………ッ!」


右側の通路の奥の方から、獣のような唸り声が聞こえてきました。


「魔獣、でしょうか……?」

ロイの言葉に、ラルクが答えました。

「……いや、人の声のような気がする」

「えっ!?私達以外にも、誰かが洞窟の中に!?」

アリアが驚き、声をあげました。

ここまで出会ったのは、かつて人であった物ばかりで、生身の人間には、1人も遭遇していません。


「右側の通路に進もう。この奥で、何が起こってるのか、分からねー。いつでも応戦できるように、構えながら」

ラルクの言葉に、仲間パーティー全員が身構えながら、さらに先へと踏み出しました。












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