第24話 魔剣ダーインスレイヴ1

翌朝、レストランにて朝食を取った後、私達は装備を整え、宿屋「アフラン」を出ました。

出発前、レイラが朝早くから、私達を見送りに来てくれました。

「皆さん、気をつけてね。兄さんのこと、宜しくお願いします!」

彼女は真剣な眼差しで、私達冒険仲間パーティーを見つめました。


「分かった。必ず君のお兄さんを探し出して、連れて帰るよ。そうしたら、二人きりで、綺麗な夜景を眺めながら、食事でもしよう」

オーディンが、レイラの両手をがっしりと掴みながら、甘く囁きました。

「……」

レイラは白けたような細目で、オーディンを一瞥した後、その手をさらりと払いのけました。

そして、思い立ったように、私に向き直ると言いました。


「カキザキ。これを持っていって?」

レイラは、首もとに掛かったラピスラズリのネックレスを外すと、私に渡しました。

「いいのですか?これは、貴女とお兄さんの大切な物なのでは?」

「だから、だよ。兄さんも、そして、貴方達も、必ずこのトルスタンに戻ってくるっていう、お守りだよ」

「……そういうことですね。分かりました。では、預かりますね」

私は、そう答えると、そのラピスラズリを自分の首へと掛けました。

「じゃあ、みんないってらっしゃい!」

ジェベル山に向かって歩きだした私達が見えなくなるまで、レイラはずっと手を振り続けていたようでした。


トルスタンを出て30分程歩くと、標高の高いジェベル山がかなり近づいてきました。

「もうすぐだな」

ラルクが、そう言った時。私達のすぐ側の草むらが揺れて音を立てました。

瞬間、私は鞘から長剣ロングソードを抜きました。


「グルルル…………ッ!」

転生して間もなく遭遇した狼犬ウルフ・ドッグの群れが、草の合間から、私達を狙っていました。

向こうが、こちらを襲ってくるより先に、こちらから剣を振りかざしました。


「疾風迅雷!」

短剣ダガー五連発・霧雨!」

風切りの刃ウィンド・ブレイド!」


ラルクとジルも、それぞれの武器を振るい、狼犬ウルフ・ドッグ達を瞬く間に一掃しました。

初めて対峙した時のような焦燥は、微塵もなく、今は他愛もなく討つことが出来ます。

やはり、それは蜥蜴王バジリスクのような大物を討伐出来たことで生まれた余裕なのだと感じます。

「さあ、行こう」

ラルクの言葉に、また私達は歩き始めました。


そこから、さらに30分程で、ようやくジェベル山の麓に着きました。ジェベル山の標高は高く、山頂には、白く厚い雲がかかっています。

私達は気を引き締め直すと、山へと入っていきました。

ジェベル山は、草木があまりなく、ゴツゴツとした岩肌の多い山です。角度のある上り道は、体力を少しずつ削り取ります。

上っていくほど、雲が近くなり、トルスタンの町並みが遠く下方に広がっているのが見えました。


ラルクが、昨夜露店商で買ってきたという古い地図を広げました。

「ダーインスレイヴがあるとされる洞窟は、まだ先だな」

ところどころ煤けた、その地図には、ジェベル山の中程に赤い×印がついていました。

「洞窟をどれくらい歩くことになるか分からねーから、体力や魔力を温存しておいた方がいい」

詳しいことは聞いていませんが、盗賊ともなれば、このように宝を探して、各地を駆け巡ってきたのに違いありません。こういう案件は、ラルクに従うのがベストでしょう。


そこからさらに30分程進んだ頃。

岩影に何か大きな獣が潜んでいるのが見えました。

狼犬ウルフ・ドッグにしては、大きいですね」

「あれは、おそらく人食い黒熊ダーク・ベアだな」

すぐ側で、ジルが言いました。


「ヴゥゥゥ……ッ!」

明らかに威嚇しているようです。

私は剣を抜き構えました。

岩の向こうから、漆黒の巨体が姿を現しました。

元の世界で言うところの熊とほぼ同じですが、違う点は、真っ赤な瞳と異様に伸びた爪です。


「ヴォゥゥゥ…………!!」

こちらに気づかれたのが分かったためか、直ぐ様、猛スピードで襲ってきました。


竜巻旋風ホワール・ウィンド!」


ロイが詠唱しながら右手で空を切ると、地面を削るように土を巻き上げながら、旋回する竜巻が現れ、人食い黒熊ダーク・ベアに向かっていきました。


「ヴォウンッ!」

竜巻が直撃し、人食い黒熊ダーク・ベアは、唸り声を短く上げ、大きな音を立てて倒れました。


「ロイ。一撃とは、凄いですね」

人食い黒熊ダーク・ベアの属性と、相性がいいからです」

私が言うと、ロイは、ほのかに頬を赤らめました。


この世界には、魔法に付随した属性というものが存在すると、ヴァルキュリアの魔法書にも書かれていました。

相関関係としては、


風属性……土属性に強い

火属性……風属性に強い

水属性……火属性に強い

土属性……雷属性に強い

雷属性……水属性に強い

闇属性……光属性に強い

光属性……闇属性に強い


といったような関係があるようです。

人食い黒熊ダーク・ベアが土属性のため、風属性の攻撃魔法がよく効くということでしょう。

また、人も魔獣も魔力を有する場合は、それぞれの属性を持っているとのことです。


「いや、確かにスゲーと思うよ。俺は、魔法は、からっきしだからな」

ジルが笑いながら、言いました。


私自身、無属性の魔法しか使っていませんので、何らかの属性があるのか、それが何であるのかはまだ未知のままです。



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