第23話 トルスタン3

踊り子の女性の名前は、レイラと言いました。


「カキザキは転生勇者で、俺達は、その冒険仲間パーティーだ。明日、魔剣ダーインスレイヴを入手しようとしてたところだ。こちらも、魔剣の情報が欲しい。知ってることを教えてくれないか?」


ラルクの申し出に、レイラは頷くと、私達のテーブルにつきました。


「兄のライアンが、この街の北西にあるジェベル山に入ったのは一月前よ。まだ誰も手に入れたことがないと言われる魔剣があるから、必ず手に入れるって意気込んでいたわ……。兄はトレジャーハンターで、今までも、数々の危険を冒して、各地の宝を手に入れてきたの……」


レイラは、悲しげに目を伏せながら話してくれました。


「仲間と連れだって山に入ったのか?」

ジルの問いかけに、レイラは首を横に振りました。

「分からない……。でも、たいてい兄は一人でトレジャーハンティングしているわ」

「ダーインスレイヴのある詳しい場所は分かるか?」

ジルの言葉に、再びレイラは、首を横に振りました。

「ダーインスレイヴの在りかを示す地図は、兄が山に入る時に持っていってしまって、今はないわ」

すると、ラルクが言いました。


「旅の途中で聞いた話だが、ダーインスレイヴは、ジェベル山の中程にある洞窟の中にあると聞いたことがある。そこに行き着くまでにも、細かい財宝があって、それらを辿るように進むと、奥にダーインスレイヴがあるって話だ」

ラルクの話に、レイラは頷きました。


「細かい場所までは分からないけど……確か、兄さんも、そんな風に言っていた気がするわ」

「ただ洞窟には魔獣が出没するし、道がいくつにも枝分かれしていて、ダーインスレイヴに辿り着くこと自体も、難しいらしい」

ラルクの言葉に、レイラが悲しみに瞳を歪めながら、言いました。


「じゃあ、兄さんは、魔剣に辿り着くことも出来ず、そのまま……」

「あ、いや……それは、分からないが……」

言いづらそうに、ラルクが小さく答えました。


「いずれにしても、私達は明日、ダーインスレイヴを入手するため、山に入ります。その際に、ライアンさんのことも探します」

「あ、ありがとうございます!」

「お兄さんの特徴をお聞きしても良いですか?」

私が尋ねると、レイラは答えてくれました。


「兄のライアンの特徴は、私と同じ、緋色の瞳と緋色の髪よ」

そう言いながら、レイラは自身の長い赤らんだ髪を指先ですきました。

「それから、私とお揃いの、このラピスラズリのネックレスをつけているわ」

彼女は、首もとに掛かっている、美しい青の宝石のついたネックレスを指差しました。


「分かりました。明日、私達は山に入りますが、下山しましたら、必ず一度貴女に、お兄さんが見つかったかどうかをお伝えします」

「はい!……もしも、悪い結果だったとしても……ううん、そんなはずないっ。兄さんは必ず生きてるはず。だから、探して一緒に、この街に帰ってきて。お願い!」


心のうちの葛藤を見せながら、彼女は私達を真剣な眼差しで見つめました。

そんな彼女に、私は深く頷きました。


「一つやることが、増えたな」

木製のベッドに腰を掛けながら、ラルクが言いました。

今は仲間パーティー全員で、レストランから、ラルクの部屋に移動をして話しています。

「ラルク。率直に尋ねますが、ライアンさんは、無事だと思いますか?」

レイラの前では聞けなかったことをラルクに尋ねました。


「おそらく、もう生きてはいない方が、確率は高いだろうな……」

ラルクは険しい表情で言いました。

確かに、一月も戻らないことを考えると、それが妥当かもしれません。

「道に迷って脱出出来なくなったか、途中の罠にはまったか。あるいは、魔獣にやられたか……そんなところじゃないかな」

「そうですか……」

もちろん、実際に探してみての報告となりますが、彼女の一縷の希望を信じたい瞳を思い出すと、非常に伝えづらいです。


「ライアンのことも、もちろん並行して捜索するが、俺達は、魔剣を手に入れないといけない。俺は、蜥蜴王バジリスク戦で、武器が結構やられたから、新たな武器を調達してくる。それと合わせて、魔剣についての情報を聞き込んでくるぜ」

そう言うと、ラルクはベッドから立ち上がります。

彼に続いて、私もテーブルから席を立ちました。


「私も出ます」

「カキザキは、宿で休んでていいんだぞ」

「いえ、魔剣のことではなく、お嬢様のことを尋ねて回ってみようかと」

「そう言うことか」

「はい。なので、別行動にはなりますが」

「ああ、分かった」

ラルクと私が、そう言葉を交わした後、仲間パーティーはいったん解散となりました。


日も落ちた夜の街に繰り出しましたが、まだ店はたくさん開いており、特に酒場などが、多くの人で賑わっています。

かなり大きな街でしたので、お嬢様の手掛かりでも掴めないかと思いましたが、聞く人々は、全て首を横に振るばかりでした。


「情報は、なしか……」

街の広場の噴水の端に腰を下ろしながら、私は小さくため息をつきました。

噴水の水が、月明かりに照らされて、小さな煌めきを放っています。

シエナでも、宿泊した宿屋の主人や、出会った宿泊客の方何人かに、お嬢様のことを尋ねましたが、そちらも全くの空振りでした。


この異世界が、一体どこからどこまで続いているのかは分かりませんが、相当広いようですし、仮にお嬢様も、この世界に転生されているのだとしても、出会える確率は少ないのかもしれません。


気分的に、また葡萄酒ワインでもあおりたいような気持ちになった時。

近くから、不意に声が聞こえてきました。


「そこの黒髪の青年よ」

嗄れた声に、視線を向けると、小さな台の上に水晶玉を乗せた紫のローブを頭から被った老齢の女性がいました。外見からして、占い師のように見受けられます。

「アンタ、明日街を出て、北西の方角に向かおうとしているね?」

あまりにも細かい指摘に、少し驚きました。

そして、女性は思ってもみない言葉を続けます。

「止めた方がいい……」

「それは、なぜです?」

聞き返すと、女性は細い目をさらに細めて、衝撃的な言葉を私に伝えました。


「アンタに、死相が出ているからだよ」

「……!」

酔いも醒めるような宣告でした。





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