第15話 蜥蜴王《バジリスク》討伐2

(これが、コルド砂漠……)


見渡す限り、岩石と砂の大地で、草木は、ごく疎らに点在するのみです。

砂漠に近い景色を元の世界で見たのは、鳥取県の砂丘以来です。

一歩一歩踏み出す度に、足元で砂が崩れ、沈みます。

普通の平らな地面を歩くよりも、移動速度が落ちますね。

加えて、時折吹く風は乾燥した熱風で、服やマントに巻き上げた砂を残します。


「あぁ~、僕は砂漠苦手。この美麗銀髪キューティクルヘアが傷んでしまう。朝もせっかくセットしたのに」

「オーディン。あんま無駄口叩いてると、乾燥で喉がカラカラになるぜ?」


ブツブツ呟いているオーディンに、ラルクが呆れながら言いました。


「う~ん。そんなこと言ってる間に、何だか喉が乾いたなぁ。誰か、葡萄酒ワイン持ってきてない?」

「バカ、水飲んでろよ!」


緊張感のないやり取りを流し聞いて、私は横を歩くアリアに話しかけました。


蜥蜴王バジリスクがいる場所までは、この先、まだかかりそうですか?」

「分かりません……。定位置にいるわけではありませんので、この砂漠内のどこで遭遇するかは……」

「大丈夫ですか?砂漠の移動は、余計に体力を消耗します」

「自分の決めたことですから。どうしても辛くなったら、お伝えいたしますね、勇者様」


気丈に彼女は答えましたが、ローブの隙間から見えた彼女の顔の紫色の変色は、顔のもう半分にまで広がりつつあります。

と、一陣の熱風が吹きました。

皆が、風に舞った砂に、目を細めた、その時。


「敵だ!」

一早く響いたラルクの声に、私は鞘から長剣ロングソードを抜きました。


血塗れ大蠍ブラッド・スコーピオン!」

過ぎ去った砂嵐の後に、砂礫の中から、上半身を反らせた巨大な深紅の蠍が現れました。


対物理防御壁フィジカル・バリア!」

ロイが、前方に手をかざしながら、いつもとは違う力強さで呪文スペルを詠唱しました。

すると、私達一人一人の前に、淡い黄色の光の壁のような物が現れ、「バシュッ!」という音と共に、空間に消えました。


神々の盾ホーリー・シールド!」

次に、祈るように両手を組んだアリアの詠唱に、私達一人一人に、雪のような煌めく光が降り落ち、それもまた空間に溶けていきました。


「ロイさんの魔法は、物理的攻撃への防御力アップ、私の魔法は、物理・魔法どちらにも有効な防御力アップです」

アリアが、私に説明してくれました。


「カキザキ!蠍の尾の攻撃に気を付けろ!アレは毒針だ!」

「了解しました!」


ラルクに答えた直後、血塗れ大蠍ブラッド・スコーピオンの大きく鋭い尾が、砂飛沫を撒き散らしながら、こちらに向かって襲いかかってきました。

私はアリアを腕に庇いながら、素早く横に避けました。

すると、避けた先の砂礫がまた盛り上がり、また一体の血塗れ大蠍ブラッド・スコーピオンが現れました。


「何体か、砂の中に潜んでるぞ!」

ラルクが叫びながら、最初に現れた血塗れ大蠍ブラッド・スコーピオンの尾の攻撃を避けながら、マントを翻し、腰から数本の短剣ダガーを引き抜き、指の間に挟み構えました。


短剣ダガー十連発・五月雨!」


叫び声と共に、ラルクの両手から、何本もの短剣ダガーが、横殴りの雨のようなスピードで、血塗れ大蠍ブラッド・スコーピオンの深紅の体に深く突き刺さりました。


叫び声と共に、ラルクの両手から、何本もの短剣ダガーが、横殴りの雨のようなスピードで、血塗れ大蠍ブラッド・スコーピオンの深紅の体に深く突き刺さりました。



「ギギギィ……ッ!!」


何かが軋むような唸り声を上げ、血塗れ大蠍ブラッド・スコーピオンの動きが鈍りました。

そこをすかさず、ラルクは血塗れ大蠍ブラッド・スコーピオンに駆け寄り、軽く跳躍しました。


猛虎裂タイガー・クローき!」


そう叫ぶと、右手に装着している長く鋭い鉤爪で、血塗れ大蠍ブラッド・スコーピオンの体を切り裂きました。


「ギャギャギャギャッ………ギィッ!!」

耳障りな断末魔を上げると、巨大な深紅の魔獣は、砂飛沫を散らしながら、砂礫に横たわりました。


「ガチッ!ガチッ!」


ラルクの華麗な技に目を奪われている暇もなく、私のすぐ目の前にも、血塗れ大蠍ブラッド・スコーピオンが、両の鋏をかき鳴らして、こちらを見ています。

そして、その深紅の巨大な鋏が、私の方に向かって、凄いスピードで、襲いかかってきました。


「くっ……!!」

背中にアリアを庇いながら、その鋼鉄のような硬い鋏を長剣ロング・ソードで受け止めました。

ジルとの稽古の時の何倍もの圧が、剣を握る手先に伝わってきました。

しかし、その瞬間。


ザザァ……!!


また反対側の砂礫が盛り上がったかと思うと、またもや、もう一体の血塗れ大蠍ブラッド・スコーピオンが現れました。


「まだいたのか……!」


もしかすると、魔獣達は、彼らで連携を取っているのかもしれません。

そして、反対側に現れた血塗れ大蠍ブラッド・スコーピオンの毒針が、物凄いスピードで、こちらに降りおりてきました。


(剣が、一体の鋏で塞がっている……!)


次の手をどうするか、瞬時に決めなければなりません。








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