第14話 蜥蜴王《バジリスク》討伐1

美味しい朝御飯も食べ終わり、旅支度も済ませた私達は、宿屋「旅は道連れ」の前に集合していました。

食堂で皆揃って、食事をした時に、気になるアリアに体調を確認しました。


「大丈夫です、勇者様」


そう言って微笑んだ彼女でしたが、昨夜見た時よりも、毒に侵された黒みがかった紫の変色部分がさらに広がっており、顔色も良くありませんでした。

一刻も早く、解毒しなければと思っているのですが……。


「にしても、おっせーな……。オーディンはまだかよ」


ラルクが少し苛立ちながら呟きました。

昨夜、彼だけは別の宿屋に泊まったため、ここで合流ということになっています。

それから5分程経ち、街の向こうから、サラサラの銀髪ロングをなびかせながら、楽器片手に小走りに近づいてくる人物が見えてきました。


「待たせてすまないね、女神レディー&女神レディー!」


男性ジェントルマンは黙殺です。


「今朝はなかなか寝癖が直らなくてね」


そう言って長い銀髪をかきあげた彼の首筋には、明らかなキスマークが、2、3個ついているのを確認しました。


「さあ、気を取り直して、旅に出ようか。ポロン♪︎」

「お前が言うなよ!?ったく、じゃあ行くぜ!」


ラルクの呼び掛けに、私達は歩き始めました。

蜥蜴王バジリスクは、私が昨日下りてきた山とは逆側に広がる砂漠地帯に、生息しているとのことです。

このコルド砂漠に迷いこんだ旅人や、自身を討伐に来た冒険者達を毒で侵したり、食い散らかしているとの情報が入っています。

アリアのためが第一ですが、蜥蜴王バジリスクそのものも討伐しておくべき対象でしょう。


「カキザキ、昨日はよく眠れたか?」

「はい、3時間ほど」

「は!?全然寝れてねーじゃん!」

「夜中まで、あの魔法書を読んでいました。これからの戦いに、少しでも有益な情報があるかもしれませんので」

「いや、気持ちは分からねーでもないけどよ……。寝不足で戦闘は良くねーだろ。大丈夫かよ?」

「ご心配なく。私は、日頃から3・4時間程の睡眠が、体に合っていますので」

「えっ、そ、そうなのか……?なら、いいけどよ」


コルド砂漠に向かいながら、ラルクと話していると、オーディンが割り込んできました。


「僕は普段は、9時間くらい寝ないと足りないんだよね~。それくらい眠らないと、ずっと1日ぼんやりしてしまうのさ」


確か、10歳までの児童の必要睡眠時間が、9時間程だったと記憶します。


「まあ、今日はちょっと寝不足だけどね」


寝不足の内訳は触れないでおきましょう。


「にしても、カキザキ。その荷物……昨日買った道具、全部持ってくる必要あるのかよ?」

私が背負ったバッグを見ながら、ラルクが言いました。


「何かと入り用になると思いますので」

「ふふ。ユウ君は、まるで遠足だね。ポロン♪︎」


児童の睡眠時間を要する、貴方に言われるのは心外です。


「あ、あの……」

昨日と同じく紫のローブを身に纏うロイが、口を開きました。

「さ、さっきから全然、魔獣に会わないのですが……」

「確かに、そうだ」

ジルも頷きました。

女神の結界のことを皆さんに話しておりませんでした。


「昨日、シエナの街に向かう前に、女神ヴァルキュリアが、この辺り一帯に結界を張りましたので。そのためかと」

「あぁ、そ……そうなんですね!さすが、ヴァルキュリア様ですぅっ」


ロイが、頬に手を当て、うっとりした表情で言いました。


「ヴァルキュリア様は、輝くばかりの長い銀髪に、憂いを帯びたサファイアの瞳、凛々しいお姿……。まさに雲の上の……憧れの女神様です……っ」


ロイの言葉に、アリアも頷きました。


「ヴァルキュリア様の像は、教会にも飾られております。戦闘たたかいの女神とされておりますが、その御心は、海のように慈悲深く、美しい銀色の髪をなびかせる御姿は、まさに神々しいですものね」


「……はぁ」


慈悲は分かりかねますが、息の荒さから言って、戦闘の女神とは、まあ分かるような気もいたしますね。

にしても、実態と伝承の差が、ありすぎでしょう……。


「それは、そうだろうとも。まさしく、本物の麗しい女神なのだから♪︎」

オーディンも、腕組みしながら、満足げに何度も頷きました。

クセの強さでは、この人も女神に引けを取りませんね。


「皆さん、そろそろ草原を抜けます」

アリアが言いました。

前方には、広大な砂漠が見えてきました。


「ここまでは、女神の御加護で何事もなく来ましたが、ここから先は、砂漠特有の魔獣と遭遇するかもしれません。気をつけてくださいね」


アリアの声に、気持ちを新たに引き締めました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る