第12話 装備調達

「防御力だけ考えるなら、そりゃあ、ジルが着込んでるような全身甲冑フルアーマータイプになるけど、着なれないヤツが着ても、重さで疲れるだけだろうし、その分スピードが落ちる」


まず訪れた防具屋で、ラルクに説明を受けています。

私は全くの素人ですから、この世界の達人に任せるのが、一番の得策でしょう。


「さっきの喧嘩を見てたが、アンタの攻撃はスピードがある。だから、それを生かしつつ、防御した方がいい。全身鎧を着込むより、もうちょい軽微な防具の方がいいだろう」


彼は若く見えますが、なかなか冷静ですね。

戦いの場数を踏んできたのだろうことが伺えます。


「重装備にするかは、戦いながら考えたらいいと思う。とりあえず最初はこんなもんかな?」


数ある中で、ラルクが選んでくれたショルダーアーマーやケープマントなどを買い、次に武器屋へと向かいました。

こちらも、豊富な品揃えとなっており、私にはどれが良いのか分かりかねます。


「カキザキは、長剣ロングソードだろうな。そうだな、どれにするか……。これ、良さそうだな。いや、こっちもいいかな」

真剣ではありますが、どこか楽しそうなラルクに、聞いてみました。


「ラルクは、どんな武器を使っているのですか?」

「俺か?」

彼は、肩掛けバッグの中から、武器を取り出しました。


「戦闘の時には、これを使う。鉤爪クローだ」

長い鋼鉄の爪のような武器です。

そして、腰から引き抜いた武器を見せました。


「あとは短剣ダガー

こちらは、ナイフに似た小型の剣です。

それらを仕舞うと、ラルクは再び私の武器を探し始めました。


「よし、この辺りかな?カキザキ試しに握ってみろよ?」

言われて、彼の選んだ長剣ロングソードを握ってみました。

少しだけ軽く振ってみましたが、重すぎず、慣れない私でも何とか扱えそうです。


「はい、良い感じかと」

「なら、それにしよう!あっ、金貨渡すから、カキザキ買っといてくれ。俺も少しだけ見たいから」

「分かりました」


私は金貨の入った小さめの袋を受け取りました。

店はかなり繁盛しており、レジには列が出来ています。列に並び順番を待っている間、ふと見ると、ラルクはまた剣を手に取り、真剣に品定めしているようでした。


「ラルク。その剣も買うのですか?それならば、お会計を一緒に……」

「……あ、い、いや、違う!ただ少し見てただけだ!」

彼は、なぜか強く否定しました。


「ちょっと、お客さん。これでいいのかい?」

いつの間にか順番が回っていたようです。

「ええ、これでお願いします」

レジの女性にそう伝えた後、再びちらりとラルクを見ました。

彼は、複雑な表情を滲ませ、並べられた剣を見つめていました。


無事、武器も買い終わり、お店を出た後に、ラルクに言いました。


「ラルク。道具屋にも寄って構いませんか?」

「えっ、道具屋?だいたい旅に使いそうな物なら、もう持ってるぜ?」

「少し買いたいものがありまして」

「ああ、それなら寄ろう」


武器屋のすぐ先に、道具屋はありました。

見たこともない珍しい品物が、ひしめくように並んでいます。

その中でも、元の世界でも見たことがあるような、ありふれた日用品のコーナーへと向かいました。


「この小瓶は、5点セットで、この価格。……いや、こちらの10点セットの方が、今なら半額でお買い得ですね……」

「おい、カキザキ……。そんなにケチらなくても大丈夫だぜ?女神から十分軍資金は出てるんだからよ……」

「いえ、今後の思わぬ出費も想定し、できる限り、抑えられるところは抑えるべきですよ」

「……何か、しっかり者の主婦みてーだな」


主婦、ですか。まあ、一条家の一部の家計は任されていましたから、それなりに金銭に対しての、シビアな感覚を持っているかと思います。

ザルなお嬢様に、何度も、お金の計算を注意していましたしね。


「決まりました。こちらの半額セール対象商品『小分けに出来て簡単便利、主婦の味方、小瓶10点セット』と、今なら特別価格『おかげさまで愛用者10万人突破!、丈夫で長持ち、徳用麻袋5点セット』と、棚卸しセール30%割引き『スイスイ簡単切れ味抜群!今日からシェフ気分、ガゼット親方推薦・肉切り包丁』にします」

「お、おう……じゃあ、それを買おうぜ」

必要な物をお買得価格で購入し、こちらの道具屋も後にしました。


「じゃあ、明日は朝から出発だ。ゆっくり寝ろよ、カキザキ」

「はい。今日はいろいろとありがとうございました。本当に助かりました。ラルクも、ゆっくりと休んでください」

「おう、じゃ、また明日」

「お休みなさい」


ラルクと二人、宿屋に戻ってきて、私の部屋の前で、別れました。

私は部屋に入ると、先程購入した、武器や防具などをクローゼットに仕舞った後、鍵付き棚の引き出しを開けました。


「さて、読書タイムといたしましょうか」


あの女神から渡された魔法書を取り出すと、テーブルの上に置きました。

そして、窓から差し込む月明かりと、小さなランプの光を頼りに、そのページを捲りました。

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