第10話 修道女《シスター》の後悔

「その顔は、一体なぜ、そのように……?」

「こ、……これは、そ……その……っ!」


女性は青ざめ、ガタガタ震えています。

そして、突然なぜか私に向かって謝り出しました。


「も、申し訳ありません……勇者様!わ、私は……冒険仲間パーティー失格です……!」

「はい?」

「わ、たしは……ゆ、勇者様の……冒険仲間パーティーには……相応しく……ありません!」

「……?」


私の冒険仲間パーティーに、相応しくない?

どういうことでしょうか。

もしかすると、彼女は……。


「貴女は……私達の仲間に加わってくださる予定の方なのでは?」


私がそう聞くと、彼女の唇から、嗚咽が聞こえだし、それから両手で顔を覆い、泣き出してしまいました。


「何があったのですか?良かったら聞かせてください」

「うっ……うぅっ……」


しばらくは泣いていた彼女でしたが、やがて、ゆっくりと話し始めました。


「私は、このシエナの教会に属する修道女シスターのアリアと申します……。おこがましくも、私も、この度の勇者様率いる冒険仲間パーティーの一員として、お声が掛かっておりました。参加する前に、少しでもレベルアップをはかりたいと思い、皆さんとはまた別の冒険仲間パーティーに合流して、討伐要請の出ている蜥蜴王バジリスクの元へと向かいました」


そこで、他の仲間をかばい、彼女は攻撃を受けて、魔獣の毒に侵されたようです。


「私も回復系の魔法はもちろん使えるので、自分で試してはみたのですが……力が足りず、解毒することが出来ません。神父様のお力も頼りましたが、やはり回復魔法は効かず……。今もなお毒が徐々に広がっています……」


そう言いながら、アリアは自身の変色した右頬に手を当てました。


「役に立ちたい一心でしたのに、逆に勇者様にご迷惑をかけることとなり、不甲斐なく……心底自分が嫌になります……。こんな軽率バカな行動をし、神に仕える身としても、失格です……。こんな異常状態者やくたたずが旅に参加する資格はありません。どうか私を今回の冒険仲間パーティーから、外してください……!」


ぎゅっと閉じられたアリアの両目に、涙が滲みました。


「カキザキ。どうするよ?」


ラルクが、私に答えを求めてきました。

他の仲間の方々も、どうするのかといった表情で、こちらを見ております。

少しの間考え、私の答えは決まりました。


「貴女は、神に仕える者として相応しい行動をしたまでです」

「……え?」


私の言葉に、アリアが濡れた瞳を開けました。


「自分の身を犠牲にして、他者を守る。まさに神に仕える者として、正しい行いではありませんか」

「……っ」

「加えて、レベルアップを図るために、自らを磨こうとする向上心。素晴らしいです。お嬢様にも、その爪の垢を煎じて飲んで頂きたいほどです」


お嬢様の「気分が乗らない」「面倒くさい」と言い放つ、いくつもの回想シーンが、浮かんでは消えていきました。


「先程のお話では、その魔獣の討伐前に、すでに貴女は、このメンバーに指名されていたのですよね?以上、総合的に判断しまして、貴女には、この冒険仲間パーティーへの強制参加を命じます。宜しいですね?」

「……。勇者、様……」


アリアは、私の言葉に、涙をぬぐって、真っ直ぐな瞳で答えました。


「……はい、勇者様!」

「ありがとうございます。それでは、まずは貴女のその毒を解除する方法を探しましょう。これからの旅のためにも、アリアさんには万全のコンディションで挑んで頂かねばならないので。とりあえず、この酒場を出ませんか?先程のようなこともありますし、静かな場所で、ゆっくりと今後の話をしたいのですが」


私の言葉に、ラルクが頷きました。


「そうだな。実は、もう今日の宿屋を予約してある。無駄にうろついても仕方ねーからな」

「助かります。では移動しましょう」


私の声に、その場にいた皆さんが、立ち上がりました。


「……あの人は、どうしますか?」


いまだ女性方とイチャついている吟遊詩人に視線を向けました。


「ああ、オーディンはヤボ用があるから、別の所に泊まるって言ってたぜ。翌朝には俺達と合流することになってる」


今後の集団行動に、不安が過ります。


「じゃあ、みんな付いてきてくれ。宿屋に案内するぜ」


ラルクの呼び掛けに、約1名を除いて、私達はふれあい酒場を後にしました。





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