第25話 新たなる決意
真とナナシは、武器屋を後にした。そして、服屋に入る。女性店員が、営業スマイルで言った。
「いらっしゃいませ」
真とナナシが、男物の服を見て回る。
「服なんて、母さんが買ってきた物を着ていたからな。どれを買っていいかわからん」
「なら、女性店員に聞いてみよう。あの、すいません」
そう言い、ナナシが、女性店員を呼んだ。女性店員が、営業スマイルでやって来る。
「はい。なにか?」
「この男性に似合う服ってありますか?」
ナナシの問いかけに、女性店員は、営業スマイルで言った。
「そうですね」
無表情で突っ立っている真をじっと観察する女性店員。
「これなんてどうでしょう」
そう言い、黒色の上着、ズボン、コートを手に取り、真達に見せる。
「……黒一色か」
真は、脳裏に、ダークヒーローを思い浮かべた。
「よく似合うと思いますよ」
「真、私も似合うと思う」
女性店員とナナシに勧められ、真は、これを買うことにした。
「これでいいです」
「まいどー」
真は、カウンターに行き、金を払った。しめて、20銀貨だった。用が済んだ真とナナシは、服屋を出ていく。
遠目から真を覗き見している人物がいた。富崎だ。
富崎は、ニヤッと笑う。他の取り巻き連中は、他を探しておりここにはいない。
「やった。ついてるぜ」
富崎は、真を尾行する。
その頃、王宮に重悟パーティーがアンデッド退治の報告に訪れたいた。重悟達は、臣下の礼を取り、床に膝をつけている。
「よく戻った。して、アンデッドは退治したであろうな」
「はい。アンデッドは、確実に葬り去りました」
重悟が、玉座に腰かけているサルワ王に報告した。むろん、真のことは報告しない。
「ふむ。して、アンデッドの発生した原因はつきとめたのか?」
「はい。恐らく、昔、金山で事故死した者達かと」
重悟が、悲壮な顔つきで原因を報告した。
「ふん。低賃金で強制労働させていたことを恨んで化け出たか。まったく迷惑な奴らよ。余の金が取れなかったではないか」
サルワ王は、アンデッドのせいで金が取れなかったことに、ぶつぶつと文句を言った。
「報告は以上です」
重悟が、不機嫌そうなサルワ王に言った。
「そうそう。お前達。途中、渡部真を見なかったか?」
「い、いえ、見なかったです」
重悟の額に、冷や汗が流れる。重悟は、明日香から渡部真のことを聞いていた。
「そうか。嘘ではあるまいな?」
サルワ王は、重悟に疑いの眼差しを向けた。真のことを庇っているのではと疑っていた。
「いえ。決して嘘はついておりません」
「ならよい。下がれ」
「はっ!」
重悟パーティーは、王宮の間を後にし、クラスメイト達に会うため、訓練場へと移動していた。
「危なかったね。嘘がバレなくてよかった」
明日香が、胸を撫で下ろした。そんな、明日香を見て、寛二が、口を挟んだ。
「でも、渡部君も元気そうみたいでよかったよ」
重悟が頷いた。
「そうだな」
そうこうするうちに、訓練場につき、中に入る。訓練場では、クラスメイト達が、各自鍛練に勤しんでいた。
重悟達は、訓練用の武器が置かれている所まで行く。大蔵が、訓練用の剣を手に取り、呟いた。
「でも、渡部と一緒にいたという金髪少女って誰なんだ?」
実際に金髪少女を見たという明日香が、首を傾げる。
「さあ」
大蔵が、おちょくるような口調で言った。
「もしかして、渡部の恋人だったりして」
「ねえ、それ本当?」
重悟達は、後ろから声がしたのを耳にして、一斉に振り向く。そこには、伊織が突っ立っていた。顔が般若のように怖い。
大蔵が、びびり顔で、言い直した。
「いや、俺の勘ってやつ」
伊織が近づき、大蔵の襟首を締め上げる。
「はっきり言いなさいよ!」
「く、苦しい。ギブ、ギブ……」
大蔵が首を締め上げられ、泡を吹いていた。周りの重悟達が、止めに入る。
「やめろ、篠塚! 大蔵が死ぬ!」
重悟が、伊織を羽交い締めにし、何とか大蔵から引き剥がす。大蔵が、地面に両膝をつきゴホ、ゴホ、と咳き込む。
「離せぇ! この豚ー!」
「豚って、酷いぞ。篠塚」
暴れる伊織に暴言を言われた重悟は、ガックリとうだなれる。その時、騒ぎを聞きつけた雫が、やって来た。
「なんなのこの騒ぎは?」
雫は、この光景に、唖然とする。
「離せぇ! この豚野郎ー!」
「ぐぉー!?」
伊織の肘が、重悟の頬に直撃し、後ろに倒れ込む。
「はぁ、はぁ」
荒い息を吐く伊織を見て、周りのクラスメイト達は、呆然とする。伊織は、雫の胸に飛び込む。
「雫ちゃんー! 渡部君が、浮気したー!」
「え?」
「大蔵君が、渡部君と一緒に女がいたって」
「いや、まだ彼女とは」
口を挟んだ大蔵をキッと睨む伊織。大蔵は、びびって、あさっての方を向き、口笛を吹く。
「伊織、落ち着きなさい。まだ、渡部君の彼女と決まったわけではないでしょ」
「でも!」
涙目で雫を見上げる伊織。
「大丈夫よ。伊織。もし、そうなら私が、その金髪少女を血祭りにあげてやるわ」
「え、雫ちゃん?」
伊織は、般若より怖い顔をしている雫を見て、涙が一気にひいた。重悟達も、悪寒が走り、早くこの場から去りたかった。
その頃、エミリカは、ペトラと共に店内の掃除をしていた。
テーブルを丁寧にナフキンを使って、拭いているペトラ。
遊びにも行かず、家の手伝いをするペトラは、偉かった。
床をホウキではわいていたエミリカが、ペトラに申し訳なさそうに言った。
「ごめんね。ペトラ。遊びに行きたいだろうに」
「ううん。私、掃除大好きだから」
「そう」
エミリカは、ペトラが気を使ってそう言ったことをわかっていたので、申し訳なさが増す。
「この掃除が終わったらお姉ちゃんがどこかに遊びに連れていって上げるからね」
「うん!」
ペトラは、エミリカの言葉に大喜びした。
と、扉が、バンっと開き、いかつい男らが、店内にズカズカと入ってくる。
ペトラが、男らに怯えて、エミリカの後ろに隠れる。
エミリカが、キッと下品な笑いを浮かべた男らを睨みつけた。
「なんですか、あなた達は!」
「へへ。俺らは善良なお客様ですぜ。エミリカお嬢ちゃん」
「あなた、なぜ、私の名前を知ってるんです!」
「そりゃあ、知ってるさ。だって、俺ら、ネルソンさんの雇われ護衛だもん」
エミリカが、ネルソンの名前を耳にして、表情が強張る。
「あれれ、どうしたのかな? そんなに顔を強張らせちゃって?」
「そのネルソンの護衛が、私の店になんの用なのよ!」
「そう警戒すんなよ。俺らは別にお嬢ちゃんらを取って喰おうってわけじゃないんだからさぁ。ただちょっと、金山まで付き合って欲しいだけだよぉ」
おちょくるような口調で言うネルソンの用心棒の男。
エミリカは、ふざけた物言いの用心棒の男に怒鳴る。
「ふざけないでっ! 誰があんた達の言うことなんか聞くもんですかっ!」
「あっそ。ならしゃねぇーな。おい、お前ら。この二人を捕まえて縄で縛れ」
「「「「へい」」」」
四人のいかつい男らが、エミリカとペトラへと迫る。
「くっ、妹には指一本触れさせない!」
エミリカは、そう叫び、側のテーブルに置いてあったメリケンコを手に取り、迫る男らに投げつけた。
バシャッ!!
「ごほっ、ごほっ!?」
粉が舞い散り、男らが咳き込む。
「ペトラ、ここは私が食い止めるわ! あなたはここから逃げなさい!」
「で、でも、お姉ちゃんを置いていけないよ」
「いいから行きなさい!」
「でも……」
「いいから!」
「くっ、助けを呼んでくるから待ってて!」
ペトラは、そう叫び、店の裏口から出ていった。
用心棒の男が、ペトラの出ていく姿を見て、叫ぶ。
「おい! 一人逃げたぞ! 追えぇ!」
四人のいかつい男らが、追おうとするが、エミリカが、ほうきを手に勇敢にも立ち塞がる。
「ここは絶対に行かさないわ!」
「ちっ、このアマ!」
いかつい男一号が、エミリカに殴りかかった。
「女だからって、嘗めないでちょうだい!」
エミリカのほうきが、いかつい男一号の頭をぶっ叩く。
「いつぅ。このアマ、よくも」
用心棒の男が、イライラと叫ぶ。
「なに遊んでやがる! さっさと無力化して、逃げたガキを追え!」
「へい」
いかつい男一号は、二号、三号と共に、拳を構える。
「何人で来ようと、この代々伝わるほうきでブチのめして上げるわ」
と、いつの間にかエミリカの背後に回り込んでいたいかつい男四号が、羽交い締めにした。
「今のうちにこの女を無力化しろ!」
いかつい男四号の叫びに、いかつい男一号、二号、三号が、一斉にエミリカに殴りかかった。
「ぐふっ!?」
エミリカは、いかつい男三人からサンドバッグの如く集中砲火を浴びた。
数分後、エミリカは、顔をアザだらけにし、気絶した。
無力化に成功したネルソン用心棒は、エミリカを縛り上げて、肩に担いだ。
「俺は一足先に金山の頂上に行っている。お前らは逃げたガキを捕まえてから来い」
「「「「へい」」」」
いかつい四人衆は、店を出て、ペトラを捕まえに向かう。
ネルソン用心棒の男は、肩に担いだエミリカを見やる。
「ククク。実にいい女だ。用がすんだら、俺が美味しく頂いてやるぜ」
ネルソン用心棒の男は、そう呟き、店を出て、ネルソンが待つ金山へと向かっていった。
真とナナシは、露店街を通っていると、店主のおっちゃんに、声をかけられる。
「そこのお兄さん! どうだい、彼女に一つ!」
「……彼女」
彼女と言う言葉に、ナナシは、顔を赤くした。
「いや、俺達はそういう関係ではない」
真は、店主のおっちゃんに即、否定した。
「そうなのかい。てっきり彼女かと」
「先を急ぐんで」
そう言い、真は、歩き出さそうとする。しかし、ナナシが動かない。真は、微動だにしないナナシを見やる。
「ナナシ?」
ナナシは、じっと店頭に並んでいたアクセサリーをじっと見ていた。
「お、お嬢ちゃん。これ欲しいのかい?」
「うん」
「お目が高い。この指輪は、魔力+39、光耐性の効果が付与されている」
「ほぉ。それは凄いな」
真は、その指輪をじっと観察する。
「ナナシ、これ欲しいのか?」
「うん」
「そうか。これくれ」
「まいどー! 五銀貨になります!」
店主のおっちゃんは、嬉しそうに、指輪を箱に詰める。真は、1金貨を渡し、五銀貨のお釣を貰う。そして、商品の箱を受け取る。
真とナナシは、露店を後にし、町を出るため検問所の方へ歩いていく。ナナシは、指輪を買ってもらいご機嫌のようだ。
真は、背後から何かを感じ、ナナシに切り出した。
「ナナシ」
「うん?」
ナナシが、チラッと横目で真を伺う。
「つけられている」
「王国の追っ手?」
「恐らく。誰かまではわからないがな」
「そう」
ナナシは、腰の杖に手を降れようとする。真の代わりに自分が追い払おうと思ったようだ。真は、そんなナナシの想いを知ったのか、言葉を発した。
「これから俺が囮になる。検問所で合流しよう」
「わかった」
ナナシは、真の決然とした言葉を聞き、ここは任せようとコクリと頷いた。
「それと俺に浮遊魔法を」
「うん」
ナナシは、尾行者に気づかれぬようこっそり浮遊魔法を真にかけた。
それから間もなく、真とナナシは、四辻で別々の方向に別れる。尾行者は、当然、真の方を追う。
真は、気配感知で、尾行者がこっちに来ていることを確かめる。そして、駆け出す。当然、尾行者は、真を追うため、駆け出す。真の速度に息を切らせながらなんとかついていく尾行者の富崎。
真は、行き止まりの通路に駆け込む。しめたと思った富崎。しかし、富崎が、行き止まりの通路に駆け込んだ時、真はそこにいなかった。
「くそっ! どこに消えやがった!」
真は、あらかじめナナシに浮遊魔法をかけてもらっており、軽くなった体重で軽々と上空へと飛び、20メートルある壁を飛び越えたのだ。
富崎は、辺りを見渡すが、既に真はここにはいない。
「必ず見つけ出してやるからな! 渡部ー!」
富崎の叫び声が、むなしく通路に響き渡った。
真は、検問所で待っていたナナシと合流した。
「待たせたな、ナナシ」
「うん」
「さあ、行こう」
「うん」
真は、尾行者から気づかれる前に、ナナシが兵士の男に幻術をかけて、検問所を何事もなく通り、町の外に無事出た。
視界に映る草原。
ナナシは、箱から露店で買った指輪を取り出す。そして、真をじっと見る。真が、ナナシの視線に気づき、尋ねた。
「どうした、ナナシ?」
「指輪、つけて欲しい」
「わかった」
真は、ナナシから指輪を受け取り、ナナシの人差し指につけてやる。そのときのナナシの反応は……
「……プロポーズ?」
「なんでそうなる」
ナナシのぶっ飛んだ言葉に、真は、思わず突っ込む。
「真」
「なんだ?」
「この指輪、大事にする」
「ああ」
「真」
「うん?」
「ありがと……指輪」
「……ああ」
真は、ナナシに静かな声で告げる。
「ナナシ……俺は、王国に追われているお尋ね者だ」
「うん……」
「星教教会も黙ってないだろう」
「うん……」
「王国や星教教会だけじゃなく、魔族とも敵対するかもしれない」
「うん……」
「世界を敵に回すかもしれないヤバイ旅だ。命がいくつあっても足りなぐらいな」
「うん……私が、あなたを守る」
ナナシの言葉に、思わず苦笑いする真。真は、一呼吸を置くと、キラキラと輝く紅眼を見つめ返し、望みと覚悟を言葉にして魂に刻み込む。
「ナナシ。俺の旅に付き合ってくれてありがとう」
「気にしないで」
真の言葉を受けて、ナナシは、笑みを浮かべた。
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2021年11月22日。0時00分。更新。
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