第24話 武器屋
真は、朝の光で目を覚まし、身支度を整え、部屋を出る。ちょうど、ナナシと出くわす。
「よう。昨日はよく眠れたか?」
「うん。よく寝れた」
「そうか。いよいよ、この町ともお別れか」
「寂しい?」
「少しな」
「そう。私も寂しい」
「そっか」
真とナナシは、一階に降りる。アンナさんが、二人に歩み寄る。
「行くのね」
「はい。世話になりました」
「ありがと」
真とナナシが、アンナさんに礼を言う。
「辛気くさいわね。こっちまで泣いっちゃうじゃない。もう」
うるっときたのか、アンナさんが、涙を指で拭う。
「じゃあ、行ってきます」
「また」
そう言い、真とナナシが宿屋を出ていく。
残されたアンナさんが、「またね」と呟いた。
宿屋を出た頃、このラカゴの町に、王都からの刺客がやって来た。富崎だ。後ろには取り巻きの川村、官田、古池がいた。検問所にズカズカとのりこむ富崎達。
「おう、ごくろうさん」
そう言い、富崎は、検問所を素通りしようとしていた。
「ちょっと、おい!」
検問所のバルハザード王国の兵士が、富崎の肩を掴む。
「あん?」
富崎が、肩を掴んでいるバルハザード王国の兵士をギロッと睨む。
「身分証明書を見せろ!」
「お前、誰に指図してんのか、わかってる?」
「いいから、見せんか!」
「やれやれ。未来の大貴族様がちょっと教育的指導をしてやるか」
富崎が、バルハザード王国の兵士の掴んでいる手を、ナイフで刺す。
「ぐわー!?」
悲鳴を上げる兵士の男。
「貴様ー!」
隣にいた兵士の男が、富崎に剣を向ける。
「いいか、お前ら。よくこの顔を覚えておけや。いずれ、大貴族になる俺の顔をなー! はっはっは!」
「貴様が大貴族だと! ふざけるのもたいがいにしろ!」
剣を向けた兵士の男が、笑っている富崎に怒鳴る。
「まぁ。落ち着けよ。これを見ろって」
そう言い、富崎は、サルワ王からもらった書面を見せる。
そこにはこう書かれていた。
〝かの者は、余より重大な任務を帯びている。兵士諸君はかの者に必ず協力するように。なお、かの者に逆らった者は、処刑するものといたす〟
最後にサルワ王のサインがなされていた。
「これは……」
剣を向けた兵士が、震え出す。
「というわけだ。わかったら、この剣をどけてくれる?」
「も、申し訳ありません! どうぞ、お通り下さい!」
頭を下げる兵士に、富崎は、怒鳴る。
「おい、てめぇ! 違うだろ! 土下座しろや!」
「え?」
「学校の先生に習わなかったのか? 間違ったことをしたら土下座で誠意を見せろってな!」
「はい!」
そう言い、兵士の男は、富崎の前で土下座した。
「気分がいいぜ。王様にでもなった気分だ」
そして、富崎は、土下座している兵士の頭を踏みつけた。
「これからも励めよ。ボンクラども。はっはっは!」
そう嘲笑い、富崎は検問所を通り、ラカゴの町に入っていった。ゲラゲラ笑っている取り巻きの川村、官田、古池も富崎の後ろからついていく。
その頃、真とナナシは、町を出る前に、武装と服を整えることにした。真は、隣を歩いているナナシに、話しかけた。
「ロングソードが、この前のアンデッド戦で、所々に傷がついてしまった。代わりの剣を買わないとな。付き合わせてすまないな、ナナシ」
「いい。気にしないで」
そう言い、ナナシは、真に微笑んだ。一瞬、真は、ナナシの可愛いらしい笑顔に、見とれてしまった。顔を逸らす真。
「武器屋はこの先か」
「うん」
二人は、剣の看板を確認し、武器屋の前までやって来た。外観は城下町の武器屋とあまり変わらない。扉を開け、店に入る真とナナシ。
「いらっしゃい」
店に入ると、店主に元気よく声をかけられる。店主は、太っちょのおっさんだった。ぷよぷよの脂肪のおっさんが愛想笑いしている。
「へぇ、ここが武器屋か」
真は、初めての武器屋に感激を覚える。
「お客さん、初めて見る顔だね」
「ええまぁ」
真の目に、店内に張られた手配書が飛び込んでくる。むろん、ナナシが店主に幻術で別の顔を見せているから、通報されることはない。
「いい店ですね」
「嬉しいこと言ってくれるねぇ。おじさん、感激。安くしておくよ」
「ありがとうございます」
「まぁ、ゆっくり見ていってくんな」
「はい」
真とナナシは、壁に飾ってある剣を見て回る。
「真、これどう?」
ナナシが、ひとふりの剣を手に取り、真に見せる。鞘が青色で、赤色の紋様が刻まれていた。
「お嬢さん。お目が高いねぇ。それは、今は亡き伝説の名工、ロン・ザクレラードが作った奴でさあ。名前をインパルスって言うんで」
「インパルスか。なんか凄そうだな」
「へい。お安くしときますぜ」
「真、これにしよう」
「そうだな。ナナシがそういうならそうするか。これを頼む」
「へい」
そう言い、店主は、その剣〝インパルス〟をカウンターに持っていく。真とナナシは、会計をするため、カウンターに行く。
「いくらだ?」
「へい。まけて、五十金貨で」
「五十か」
真の所持金は、アンデッドの報酬とアンナさんからもらったのを合わせて、30金貨あった。半分ほど残るので、買うことにする。
「10金貨だ」
真は、袋から10金貨を取り出し、カウンターに置いた。
「まいどー!」
用が済んだ真とナナシは、武器屋を出る。
と、武器屋の前で、大きな白い袋を抱えた女性と肩と肩がぶつかった。
真は、すぐに頭を下げる。
「あっ、ごめんなさい」
「ああ、いいのよ。こっちもよく見てなかったから。お互い様ということで」
「はい」
「じゃあね」
その女性は、妙にエロい仕草で、真に手を振って、武器屋の扉を開けて、中へと消えていった。
「今の女性、随分と色っぽい綺麗な人だったなぁ」
真が、ボーッと武器屋の方を見ていると、横合いから視線を感じた。
「ジー」
ナナシが、ジト目で真を見つめていた。
「真、あの色っぽい女性が好みだったの?」
「い、いや。そんなわけないだろ。ほら、行こう」
真は、誤魔化すようにそう言い、歩き出した。
ナナシは、真に疑いの眼差しを向けながら後ろからついていく。
と、真が、何かを思いついたように言葉を発する。
「あ、旅をするなら地図がいるか」
真の言葉に、ナナシが、ポケットから丸めた紙を取り出す。
「私が、持っている」
「そうか。なら後は服だけか」
真とナナシは、服屋に向かうことにした。
ミネルカは、武器屋に入る早々、カウンターへと歩み寄る。
主人が、ミネルカを見て、目を丸くした。
「なんて、美人さんだ。しかも本日二人目のべっぴんさん」
「ねぇ、ご主人」
ミネルカは髪をかき上げると、色っぽく笑った。むんとする色気に押されて、主人は思わず顔を赤らめる。なんだか、色気が熱波として、襲ってくるようだ。
「これ、高値で買い取ってくれる?」
ミネルカは、そう言い、白い包みをドサッとカウンターの上に置いた。
主人が、白い包みの中の武器、防具類を見て、目を丸くする。
「ほぅ、これは大量ですな」
「いい値で買い取ってよね」
「ではしばしお待ちを」
主人は、そう言い、包みの中の武器、防具類を手に取って、いくらくらいの値か調べ上げていく。
ミネルカは、主人が調べている間、店内を見回す。
(結構、いい武具が揃ってるわね。よほど目利きのある主人なのかしら)
ミネルカが、そんな風に評していると、主人が、調べ終わったようだ。
「どうも、お待たせしました」
「で、いくらで買い取ってくれるのかしら?」
ミネルカの問いかけに、主人は、難しい顔で口を開く。
「そうですな。中には新品の武具もあり、大体、金貨五十枚が妥当でしょう」
主人の言葉を聞いて、ミネルカの眉が上がる。
「ちょっと安くない?」
「いえ、これが妥当な値段ですな」
主人は、これ以上は上げないという表情を浮かべていた。
ミネルカは、ちょっと考え込むと、主人の顔に自分の体を近づけた。
「ご主人……、もう少し買い取り額を上げてくれませんこと?」
顎の下をミネルカの手で撫でられて、主人は呼吸ができなくなった。
物凄い色気が、主人の脳髄を直撃する。
「へ、へえ……。しかし……」
ミネルカは、カウンターの上に腰かけた。左の足を持ち上げる。
「買い取り額、安すぎじゃ、ありませんこと?」
ゆっくりと、投げ出した足をカウンターの上に持ち上げた。
主人の目は、ミネルカの太ももに釘付けになった。
「さ、さようで? では、金貨百枚……」
ミネルカの足が、さらに持ち上がった。太ももの奥が、見えそうになる。
「いえ! 百二十枚で結構でさ!」
「今日は暑いわね……」
ミネルカは答えずに、忍者服の裾をめくり出した。
「この服、脱いでしまおうかしら……。よろしくて? ご主人」
主人に、熱っぽい流し目を送った。
「おお、お値段を間違えておりました! 百三十枚で! へえ!」
ミネルカは、上着をポイッと脱いで、くさりかたびらが露になる。
二つの双丘が、くさりかたびらを押し退けるように自己主張していた。
それから、主人の顔を見上げる。
「百五十枚で! へえ!」
再び、くさりかたびらに手をかけ、脱ぎ捨て、カウンターに置く。
ミネルカの胸の谷間が、紫色の色っぽいブラジャーがあらわになる。
それからまた主人の顔を見上げた。
「百六十で! へえ!」
ミネルカは、ブラジャーを脱ぐ手を止めた。今度は、スカートの裾を持ち上げようとした。その指が途中で止まる。主人が哀れな表情になった。
「二百よ」
ミネルカは言い放った。再び、するするとスカートの裾が持ち上がる。
主人は、息を荒くしてそれを見つめていた。
その指がまたぴたっと止まる。主人は、悲しそうな声を上げた。
「あ、ああ……」
ミネルカは、スカートの裾を戻し始めた。そして、希望の値段を繰り返し告げた。
「二百」
「へえ! 二百で結構でさ!」
主人は、そう叫び、カウンターに金貨二百枚を置いた。
ミネルカはカウンターから、すっと降りると、何個かに分けられて、カウンターに積み上げられていた二百枚の金貨を、白い小袋に入れていく。
「じゃあね」
ミネルカは、もう用がないと、脱ぎ捨てた服を着て、さっさと店を出ていった。
主人は、呆然として、カウンターの上の武器、防具類を見つめていた。
急激に冷静さを取り戻す。頭を抱えた。
「ぐわぁ! 二百枚で買い取っちっまったよ!」
主人は、引き出しから酒びんを取り出した。
「ええい! 今日はもう、仕事、終わりだっ!」
主人のやけ酒は、深夜にまで及んだそうだ。
ミネルカは、金貨二百枚を手に、喜び一杯だった。
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2021年11月21日。0時00分。更新。
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