第22話 アンデッドの群れ

 重悟と仲間達は、頂上付近へとやって来ていた。


「皆、警戒を怠るな」


 重悟が、仲間達に、注意を促した。頷く仲間達。すると、茂みの向こうからガサガサと音がした。警戒する重悟パーティー。茂みの向こうからウサギが、飛び出してきた。ホッと息を吐く重悟パーティー。


「なんだよ。ウサギかよ。びびらせやがって」


 大蔵が、一瞬警戒を解いた。その一瞬が命取りとなった。大蔵の隙をつくように、背後の茂みからアンデッドが、剣で大蔵の背中を切りつけた。


「ぐわっ!?」


 大蔵は、背中から血を流し、地面に膝をつく。重悟パーティーを囲むように、アンデッドの群れが茂みから一斉に現れた。


「アンデッドの群れだ!」


 重悟が、声を張り上げる。


 アンデッドの外見は、文字通り、骨格だけで形成されていた。武器はロングソードだ。空洞の眼くからは赤黒い光が煌々と輝き目玉の様にギョロギョロと辺りを見回している。その数は百体近くいる。


「くそ。不意打ちとは! 来るぞ!」


 重悟は、飛びかかってくるアンデッドを迎え撃つ。その際、ポケットにしまってあった聖水を取り出した。聖水は噴射式で、害虫退治のアースレットのようなものだと考えればいい。聖水の蓋を開け、地面に置く。白い霧が、周辺に広がっていく。これで、アンデッドの魔法耐性は無くなった。重悟達は、武器をそれぞれ構える。大蔵も何とか起き上がり、武器を構える。


 重悟は、拳にガントレットを装備している。天職は、重格闘家である。重悟の拳が、剣を振り下ろしてきたアンデッドの顔面を粉砕する。


「オラァ! オラァ!」


 重悟は、アンデッドの群れに突っ込み、次々と薙ぎ倒していく。他の仲間も負けじと、アンデッドを倒していく。


 大蔵の天職は、暗殺者である。得意な武器は、小太刀である。アンデッドの死角に回り込み、小太刀で首を切り仕留めていく。


 寛二は、背中の痛みを堪えながらも、アンデッドを土魔法で仕留めていく。天職は、土術士である。アンデッドの足を土で束縛し、剣で斬り倒す戦法だ。


 伊知子は、得意の風魔法で、アンデッドを吹き飛ばしていく。天職は、風術士である。吹き飛ばされたアンデッドは、木に体をぶつけ、粉々になっていく。


 明日香は、得意の聖魔法で、アンデッドを浄化していく。天職は、聖術士である。アンデッドは、浄化の光を浴びて、バタバタと倒れていく。


 重悟パーティーは、アンデッドの群れを難なく仕留めていく。


 明日香は、木の根っこにつまずいてしまう。「うっ」とうめきながら顔を上げると、眼前で一体のアンデッドが、剣を振りかぶっていた。


「あ」


 そんな一言と同時に彼女の頭部目掛けて剣が振り下ろされた。


 死ぬーー明日香がそう感じた次の瞬間、アンデッドの足元が、突然、隆起した。


 バランスを崩したアンデッドの剣は彼女から逸れてザクッという音と共に地面の土を叩くに終わる。更に、地面の隆起は、数体のアンデッドを巻き込んで土砂に埋もれた。明日香を庇うように荒い息を吐く寛二の姿が、明日香の目の前にはあった。


 呆然としながら、目の前にいる寛二の後ろ姿を見つめる明日香。


「久保さん、大丈夫? 立てる?」

「うん」


 そう言い、明日香は、ゆっくりと起き上がった。明日香の顔に赤みがさす。いつもは頼りなく見えた寛二が、今は頼もしく見えたのだった。


「お二人さん。あつあつだね!」


 横でアンデッドを薙ぎ倒していた余裕の表情の伊知子が、からかうような口調で言った。伊知子も当然、寛二が明日香に好意を抱いていることは知っていた。前の方では大蔵が、アンデッドを次々と斬り倒していた。


「まったく。ラブコメしてないで、もう少し緊張感を持ってくれよ」


 ぶつぶつと文句を言っている大蔵。


「オラァー!」


 重悟が、持ち前の馬鹿力で、一体のアンデッドを掲げ、アンデッドの群れに投げつけていた。一斉に将棋倒しのように倒れる。


 寛二と明日香は顔を見合わせると、お互い顔を赤らめる。


「僕たちも、頑張ろう」

「うん。そうだね」


 二人は、照れ臭そうにしながらも、アンデッド退治を再開する。


 数時間後、百体のアンデッドは、重悟パーティーによって、全滅させられた。


「はぁー、はぁー。終わりか」

「ふぅ」

「ぜぇー、ぜぇ」

「はぁ、はぁ、お、終わり?」

「はぁー、はぁー、も、もう動けねぇー」


 重悟パーティーは、体力の限界だった。魔力も尽きかけていた。辺りにはアンデッドの骨が散らばっていた。


 しかし、重悟達の希望を打ち砕くように、辺りに散らばったアンデッドの骨が、蠢くかのように一ヶ所に集まっていく。


「なんだ?」


 重悟が、一ヶ所に集まっていく骨を見つめる。全ての骨は、巨大なアンデッドを形成した。体長十メートルあり、巨大な手には長剣を握っている。眼くからの赤黒い光が、ギョロギョロと重悟パーティーを見下ろしていた。


「おいおい、冗談じゃねぇぞ!」


 重悟が、巨大なアンデッドを見上げ、叫ぶ。


「皆、撤退しろーー!」


 重悟の叫びと同時に、アンデッドが長剣を重悟達目掛けて、振り下ろした。


 ドガンッ!


 巨大な土煙が上がる。暴風のように荒れ狂う衝撃波が、重悟達を襲う。咄嗟に、寛二が、土魔法により石壁を作り出すが、あっさり砕かれ吹き飛ばされる。多少は威力を殺せたようだが……


 舞い上がる土煙が、アンデッドの長剣で吹き払われた。


 そこには、倒れ伏し、うめき声を上げる重悟とその仲間達。衝撃波の影響で身動きが取れないようだ。かろうじで、石壁の近くにいた寛二が、起き上がり、巨大なアンデッドを見据える。


 意識があった明日香が、皆を庇うように立っている寛二を見上げる。


「僕が皆を守る」

「……か、寛二君。ダメ」


 命を捨てる覚悟の寛二を見て、明日香が呟いた。


「うぉぉぉおおおー!!」


 アンデッドに突っ込んでいく寛二。土魔法で、アンデッドの足元を土で固定するも、いとも簡単に振り払われる。


「くそぉおおおー!!」


 寛二は、アンデッドの足蹴りで、吹き飛ばされる。木にぶつかり、血を吐き、地面に倒れ伏す。


 巨大なアンデッドは、ゆっくりと長剣を振り上げる。獲物の寛二は、すでに虫の息だった。後は止めをさすだけだ。アンデッドは、長剣を寛二目掛けて振り下ろした。


「寛二君ーー!」


 明日香の悲鳴もむなしく、アンデッドの長剣は、寛二のいる場所に土煙を上げ、突き刺さった。


「そ、そんな……寛二君」


 明日香の目から涙が、こぼれる。


「おいおい、アンデッドってあれか」


 突然、前の方から声が聞こえてきた。明日香が、声の方を見ると、寛二を抱き抱えた男が立っていた。近くには、金髪の少女が、立っていた。


「あれは?」

「よう。久保だっけか。江藤は無事だ」

「渡部君なの?」

「ああ」

「どうしてここに?」

「まぁ、成り行きでな」

「真。アンデッドが来る」


 ナナシの言葉に、真は、アンデッドが長剣を振り上げるのを見る。真は、寛二を木の根っこに寝かせ、ロングソードを鞘から抜き、構える。


「ナナシ。クラスの皆を守ってやってくれ」

「わかった」


 ナナシは、コクリと頷き、クラスメイトの周囲に無詠唱で防御結界を張った。真は、ナナシの無詠唱に、驚きつつも、目の前の巨大なアンデッドに今は集中する。


 アンデッドの長剣が、真に振り下ろされた。真は、上空に跳躍し、かわす。真の元いた場所が土煙をあげ、地面が抉られていた。


 真は、アンデッドの顔に、蹴りを入れる。怒ったアンデッドは、手で真をつかみ、そのまま地面に思いっきり投げる。


 放り投げられた真は、木を薙ぎ倒し地面に突っ込む。土煙が上がる。土煙がはれる前に、真は、何事もなかったように、上空に跳躍する。アンデッドが、また真を掴もうと、手を伸ばす。真は、体をひねりこれをかわす。そのまま、アンデッドの腕に乗り、その上を孟スピードで駆け上がっていく。


 アンデッドは、もう一方の腕で、真をハエ叩きのように叩く。手をどかすと、潰れた真はいなかった。アンデッドは、ギョロギョロと赤黒い眼くを回すも、真は見つからない。


「ここだ。アンデッド」


 真は、アンデッドの頭の上に乗っかっていた。アンデッドは、両手で、頭の上にいた真を手を合わせて押し潰す。しかし、真は、上空に跳躍しかわす。そして、真は、ロングソードに闇の炎を灯し、上段から一気に振り下ろした。


「はぁぁぁあああーー!」


 闇の炎を灯したロングソードが、巨大なアンデッドを縦に一刀両断した。


「グギャァァァァアアアア!?」


 アンデッドが、不気味な悲鳴を上げた。そして、最後に『よくも、よくも、サルワ王、地獄に落ちろ!』と叫び、光となって、消滅した。


 真が、ロングソードを鞘に納め、ナナシの元に歩み寄る。ナナシが、戦闘終了を確認し、防御結界を解く。


 闇魔法を目撃したナナシは、いぶかしむ目で、真を見ていた。


「強いんだね、真って。……しかも闇魔法」

「皆の怪我はどうだ? 大した傷じゃないよな?」

「気を失っているけど、じき目を覚ますと思う」

「そうか」


 遠目から見ていた明日香が、真に声をかけた。


「渡部君だよね?」

「久保か。ああ。俺だ」


 真は、地面に這いつくばっている明日香に近寄る。


「立てるか?」

「うん。なんとか」


 明日香は、よろよろと起き上がる。


「無事だったんだね」

「なんとかな」

「彼女は?」


 明日香が、遠目からいぶかしむような目つきで、こちらの様子をうかがっているナナシを見て、尋ねる。


「ああ。偶然ラカゴの町で知り合ってな。色々と助けてもらっている」

「そう」


 明日香は、言うか迷ったが、一応、伝えておこうと思った。


「皆、心配してたよ。特に相川さんが」

「相川が?」


 真は、雫が自分のことをそこまで心配していたことにビックリした。


「うん。とてもね」

「そうか。皆には心配をかけたな」

「そうだよ。渡部君、いつも一人だったから、知らないと思うけど、皆、渡部君のこと、いつも気にかけてたんだよ」

「俺をか」


 真は、クラスメイトがそこまで自分のことを気にかけていたと、明日香に教えられ、どこか胸が熱くなった。


「これからどうするの?」

「取り敢えず、クラスメイトの皆が日本に帰れる方法を探そうと思う」

「そう。無理しないでね」

「ああ」


 真は、気絶したクラスメイトを抱えて、明日香と共に金山を降りていく。ナナシが、浮遊魔法を気絶したクラスメイトにかけて、体重が軽くなったので楽だった。馬車にはバルハザード王国の兵士がいたので、離れた場所で別れることとなった。


「ここでいいよ」

「ああ。気絶した皆にもよろしく言っておいてくれ」

「うん」

「じゃあ」

「待って」


 背を向けた真に、明日香が耳打ちしてきた。


「あの子と浮気しちゃダメだよ。篠塚さんにいいつけちゃうからね」


 そう言い、明日香は、真から離れた。真は、明日香の言っている意味がわからなかった。


 その後、真は、闇魔法を見てから様子のおかしいナナシを連れ、ラカゴに戻っていった。


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2021年11月19日。0時00分。更新。

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