第21話 金山

 真と金髪少女は、金山を目指していた。町の外に出るためには検問を受けなければならない。真は、この前の検問の時のことを思い出す。


(なぜ、あの時、無事に通れたんだ?)


 首を傾げている真に、隣を歩く金髪少女が、じっと見ていた。


「どうしたの?」

「いや、俺、国から追われててな。前に、検問所で無事通れたのはなんでかなって」

「私が兵士に幻術をかけて、あなたの顔を手配書と違う顔に見せた」

「なるほど。そうだったのか。うん? って、なんで俺が追われてるって知ってたんだ?」

「兵士が持っている手配書をチラッと盗み見た。それであなたの顔に似てたから。もしかしてと思った。余計なお世話だった?」

「そうか。助かった。ありがとう」

「なんで、追われてるの?」

「ああ。話すと長くなりそうなんで、今度ゆっくり話すよ」

「そう」


 そうこうするうちに、検問所につく。


「また幻術をお願いしていいか」

「うん。わかった」


 バルハザード王国の兵士に近づく。


「外に出たい」

「そうか。気をつけていけ」


 真と金髪少女は、無事外に出れた。


「さて、金山はここからすぐの南東にある」

「うん」

「お前、戦闘は?」

「大丈夫」

「そうか。なら行こう」


 真と金髪少女は、金山に向けて歩き出した。



 その頃、重悟達は、金山にまでやって来ていた。


「さぁ、行くぞ。お前ら! アンデッド退治だ!」

「「「「おう」」」」


 重悟の号令にも関わらず、クラスメイト達のテンションは低かった。


「どうした、お前たち。もっと気合いを入れて行こうぜ」


 そう言い、大蔵と寛二の尻を叩く。


「バカやってないで行くわよ」


 伊知子が、明日香を連れて金山を登って行く。


「女子に遅れをとるな! 俺達も行くぞ!」


 そう叫び、重悟が大蔵と寛二を連れて、女子達を追い越し歩いていく。


 金山。標高八千メートルほどあり、地球で見たことのない植物や木々といったものが生えている。そこかしこにキノコやどんぐりを発見することができる。ちなみに、山脈で最も標高が高いのは、かの教会本部がある【神山】である。


 重悟達は、見たことのない植物や木々を物珍しそうに見ながら登っていく。そして、険しい山道を登っていく。


 登り始めてから、一時間が経った。


「はぁはぁ、きつ」

「ぜぇー、ぜぇー。大丈夫か……大蔵。ぜぇー、ぜぇー」

「うぇっぷ。重悟、少し休もうぜ」

「……ひゅぅーひゅぅー」

「げほげほ。そうだなここら辺で休憩していくか」


 重悟は、予想以上に疲れていた仲間達を見て、休むことにした。地面に四つん這いになり必死に息を整える重悟達。数十分休んだ重悟は、近くを見てくるといい、何処かへ行く。他の連中より体力はあった。しばらくすると、満面の笑顔で重悟が戻ってきた。


「向こうに川があるぞ!」

「ほんとか!」

「行こう」

「やったー!」

「天国か」


 喜ぶ仲間達を連れて、発見した川に案内する重悟。水分補給を開始する重悟と仲間達。素足で川に入る女子達。


「いいな」

「うん」


 大蔵と寛二が、川で遊ぶ伊知子と明日香を見て、うっとりとする。興味がない重悟は、金山の地図とにらめっこしていた。


 大蔵が、明日香に見とれていた寛二に、尋ねた。


「おい、お前、何で久保のこと好きなの?」


 寛二は、大蔵の唐突な言葉に不意をつかれ、慌てた。


「えっ? な、なにいってんだよ」

「隠すなよ。普段のお前の久保を見る目を見てれば、誰だって分かるさ。まぁ、重悟は鈍感だから分かってないだろうがな」

「あまり言いたくないな」


 口を閉ざす寛二に、大蔵は寛二の肩に手を回した。


「いいから教えろよ。アドバイスしてやるよ」


 観念した寛二は、明日香との成りそめを語り出す。


「久保さんとは、高校の入学式の時、初めて会話した。ハンカチを落としたのを拾ってくれて、ハンカチに書かれた名前を見て、わざわざ僕に届けてくれたんだ。それから、彼女の顔を追うようになって」

「一目惚れというやつか」

「まぁね」

「でも、久保、けっこう男子から人気あるからな。競争率高いぞ」

「わかってるよ」

「まぁ、頑張れよ。陰ながら応援するよ」

「うん。ありがと」


 大蔵が、寛二の肩を叩く。川で遊んでいた伊知子が、何か流れてくるのに気づく。


「ちょっと、何あれ?」

「どうしたの?」


 拾い上げる伊知子。


「これ盾だよね?」

「うん」


 大蔵と寛二も異変に気づき川の中に入り、伊知子と明日香の所に行く。


「どうしたんだよ」


 大蔵が、伊知子に尋ねる。流れてきたボロボロの盾を見せる伊知子。


「これ」

「盾だな。しかも所々に傷がある。ごく最近のものだ」


 大蔵が、冷静に分析した。


「ちょっと、あれ」


 明日香が、流れてくる冒険者の男を見つける。


「人だ! 助けよう!」


 大蔵が、腕力のある重悟を呼び、冒険者を川岸まで運ばせた。重悟が、肩に担いでいた冒険者を地面に降ろす。


「ぅ……こ、ここは?」


 冒険者が、意識を取り戻す。大蔵が、傷だらけの冒険者の男に、尋ねた。


「大丈夫ですか?

 いったい何があったんです?」

「アンデッドの群れだ」


 寛二が、アンデッドというワードを聞き、足が震え、思わず呟く。


「……アンデッド」

「俺の他にも仲間がいたが、俺以外全滅した」


 冒険者の男の言葉に、驚愕する重悟達。


「お前らもアンデッド退治か。なら、止めておけ。全滅するのがおちだ」


 そう言い終え、冒険者は気絶した。大蔵が、重悟に方針を聞いた。


「重悟、どうする? 一旦、引くか?」

「ここまで来て、おめおめ引けん。任務続行だ」

「わかった」


 明日香の怯えている様子を見た寛二が、震えながら言った。


「けど、もし全滅したら。ここは大蔵の言う通り撤退するのもありなんじゃ」

「大丈夫だ。これもある」


 そう言い、重悟は、ポケットから聖水を取り出した。


 聖水とは、アンデッドの魔法耐性を無効化させるものである。ケチなサルワ王が、珍しく貴重な魔道具を重悟達に、貸し出してくれたのだ。それだけ、サルワ王には、金山が重要な存在というわけだ。金が大好きなサルワ王らしい配慮だった。


 まだ不安そうな仲間達に、重悟は、熱く語った。


「もし、ヤバくなったらお前らは撤退しろ。俺が囮となってアンデッドの群れを引き付ける」

「重悟、お前。なら、俺も付き合う」


 大蔵は、重悟の覚悟に感化された。


「そうか」


 重悟は短く頷いた。仲間の熱い思いに感謝する重悟。冒険者の男を茂みの奥に寝かせ、再び、アンデッドのいる頂上を目指す重悟達。



 その頃、真と金髪少女は、金山にたどり着いていた。


「行こう」

「うん」


 真と金髪少女は、金山の山道を登っていく。


「アンデッドと戦闘になったら、俺がやる」

「私も、支援魔法で援護する」

「そうか。なら頼む」

「うん」

「そう言えば、名前、聞いてなかったな」


 金髪少女が、呆れた表情を真に向けた。


「聞くの遅すぎ」

「そうだな。すまない。人との付き合いが下手でな」


 金髪少女は、どこか遠い目で、自分の名前を語った。


「私の名前は、ナナシ。只のナナシ」

「変わった名前だな。俺は渡部真だ」

「もう知ってる。手配書で見た」

「そうだったな」


 二人はその後、会話せず、ひたすら山道を登っていった。



 その頃、ミネルカは、宿屋の一室のベッドに寝転がり、盗んだ〝嘆きのルビー〟を見つめていた。


「実に綺麗ね。はぁ、こんな素敵な宝石をもっと欲しいわ」


 と、外がやけに騒がしかった。


「なによ。人がせっかくいい気分で観賞に浸ってたってのに」


 ミネルカは、ぶつくさと文句を言いながら、半身を起こし、窓の外を覗く。


 ネルソンが、数人の護衛を引き連れて、誰かと揉めていた。


「なにを揉めてるのかしら? 盗んだ〝嘆きのルビー〟のこともあるし気になるわね」


 ミネルカは、スキル〝盗聴〟を使った。


 このスキルは、数メートル範囲の音を拾うことができた。


 ミネルカの耳に、ネルソンの捲し立てる声が聞こえてくる。


「おい、この服、いくらすると思ってるんだ! お前の給料では払えんぐらいの金額なんだぞ!」

「本当に申し訳ありません!」


 ネルソンにペコペコと謝る女性。隣には十歳くらいの女の子がいた。手にアイスクリームらしき物を持っている。


 どうやら、ネルソンの高価な服に、女の子が、誤ってアイスクリームをベットリとつけてしまったのだろう。よくあるベタな話だ。


「ちっ、謝って済む話しじゃないんだよ!」

「すいません! なんでもしますから許して下さい!」


 この女性の言葉に、ネルソンの顔が、いやらしそうな表情を浮かべて、ニヤリと笑う。


「いいよ。俺、寛大だから許してやるわ」

「本当ですか!」

「ああ。ただし、俺の性奴隷になれよ?」

「えっ?」


 女性は、ネルソンの弱味に漬け込んだ言葉に、表情を曇らせる。


「どうしたのかな? もしかして嫌なの? 別に俺はいいんだよ。服の弁償さえしてくれればさ」


 ネルソンは、ニヤニヤと女性の体を見回して、そう言った。


「わかりました。その代わり、この子には手を出さないで下さい」

「お姉ちゃん……」


 女の子が、悔しさそうな表情の姉の方を見て、泣きそうになる。


「いいよ。俺、ガキには興味ないんでね」


 と、そこにミネルカが、人垣をかき分けて進み出てくる。


 ネルソンが、いぶかしむ目つきで、突然現れたミネルカの方を見やる。


「なんだ、お前?」

「私はミネルカよ。ネルソンさん」

「そのミネルカさんが、何のようだ?」

「私が、そこの二人の護衛をのしたらその子らを解放してあげてくれない?」

「ふん。それに乗って俺に何の得がある?」

「そうね。もし私が負けたらこの体を好きにしていいわよ」


 ミネルカは、そう言い、胸元から覗く双丘を見せびらかすように強調する。


 ネルソンは、ゴクリと唾を飲み込み、ミネルカのエロい体に釘つけとなった。


「いいだろう。その提案、乗ってやる」

「交渉成立ね」


 護衛の二人が、ネルソンの前に進み出て、ミネルカと対峙する。


 お姉さんが、心配そうな表情で、ミネルカの方を見やる。


「さぁ、どこからでもどうぞ。お兄さん達」


 ミネルカの挑発めいた言葉に、護衛の男二人は、駆け寄り、拳をミネルカに振るう。


「遅いわね。止まってみえるわ」


 ミネルカは、そう言い、二人の拳をかわし、横をすり抜け、一瞬で二人の財布をポケットから抜き取った。


「あなた達、結構持ってるわね。これありがたく貰っとくわ」


 ミネルカは、手のひらで金の入った二つの財布をポンポンと投げながら、そう言った。


 周りから笑い声が聞こえてくる。


 護衛の男二人は、人垣の前で恥をかかせられて、顔を真っ赤にさせて、再び、ミネルカに猛然と突っ込んでくる。ミネルカは、奪った財布を懐にしまい、跳躍する。


「「!?」」


 護衛の男二人は、跳躍したミネルカのパンツが、チラッと見えて、一瞬、固まった。


「はぁああああ!」


 ミネルカの両膝蹴り、固まっていた護衛二人の顔面を直撃した。


「「ぐふっ!?」」


 護衛二人は、鼻血を噴き出して、仰向けに倒れた。


「いいものを見れたぜ。ガクッ」

「同じく」


 護衛二人は、そう呟いた後、意識を失い気絶した。


 ネルソンは、歯軋りしながらこの結果を見つめていた。


 ミネルカが、ネルソンをじっと睨む。


「さて、約束は守ってもらうわよ」

「くそっ、女! 覚えてろよ!」


 ネルソンは、捨てセリフを言い、怒り心頭といった具合で足早に去っていった。


 ミネルカは、ネルソンの去っていく背中を見て、言葉を漏らす。


「反省の色がないわね」


 と、お姉さんが、妹と共にミネルカの元に駆け寄ってくる。


「あの、助けてくれてありがとうございます!」


 頭を下げるお姉さんに、ミネルカは、笑顔を浮かべて言った。


「気にしないで。アイツ、なんか嫌いだったし」

「あのよかったら家に来ませんか?」

「えっ?」

「家、料理屋をやってるんです。お礼にご馳走させて下さい」

「そう。ならご馳走になろうかしら」

「はい!」


 お姉さんは、嬉しそうな顔をした。


「私はミネルカ。あなた、名前は?」

「私はエミリカ・ハウジングって言います。この子は、ペトラ・ハウジングです」

「そう。よろしくね。エミリカ」

「はい。こちらこそ」


 ミネルカは、ひょんなことからエミリカ姉妹と知り合うのだった。



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 人物紹介

 エミリカ・ハウジング

 十六歳。身長百六十センチ。肩まである銀色の髪に、手足の長い細めのスレンダーな体。

 胸はあまりないが、非常に美しい容姿をしている。


 ペトラ・ハウジング

 十歳。身長百四十センチ。腰まである金髪に、愛嬌のある表情をしている。大きくなったら男が放っておかないだろう。


2021年11月18日。0時00分。更新。

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