第20話 金髪少女

 真は、眩しい太陽の光で目を覚ます。


「朝か」


 まだ、覚醒しきらない意識のまま手探りをしようとする。しかし、右手はその意思に反して動かない。というか、ベッドと違う柔らかな感触に包まれて動かせないのだ。手のひらも温かで柔らかな何かに挟まれているようだ。


(何だ、これ?)


 ぼーとしながら、真は手をムニムニと動かす。手を挟み込んでいる弾力があるスベスベ何かは真の手の動きに合わせてぷにぷにとした感触を伝えてくる。


「……ぁん……」

(!?)


 何やら生々しい声が聞こえてきた。その瞬間、まどろんでいた真の意識は一気に覚醒する。


 慌てて体を起こすと、シーツの中から寝息が聞こえる。真は、慌ててシーツをまくると、隣には金髪少女が、真の右手に抱きつきながら眠っていた。


「なんでここに、こいつがいるんだ?」


 真は、金髪少女を揺すって起こす。


「おい。起きろ」

「んぅ~……なに~」


 金髪少女は、目をこすりながら目を覚ます。


「ここで何をしてんだ、お前は」


 ベッドに真がいたことに金髪少女は、一気に覚醒する。


「な、な、なんであなたが、わ、私のベッドに?」

「えっと? なに言ってる、お前。ここは、俺のーー」

「きゃっぁぁぁあああ!!」


 ドカンッ!


 金髪少女は、悲鳴をあげ、真を思いっきり蹴飛ばす。真は、ベッドから落ち、床に思いっきり頭をぶつける。


「いてて」

「この変態! チカン!」


 金髪少女は、側にあった枕で真の頭を叩く。


「ちょ、ちょっと! 待てって! 俺の話を聞け!」

「うるさい! この変質者!」


 金髪少女は、枕で真を叩き続ける。らちがあかないと真は、金髪少女の手首を掴み、ベッドに押し倒す。


「いいか。よく聞け! ここは俺のーー」


 真がいいかけた時、金髪少女は、襲われると思ったのか、貞操の危険を感じ、真の股間に足蹴した。


「ぐっ」


 真は、股間を押さえ、うずくまった。


「この変質者! 憲兵につきだしてやる!」

「だから、話を……」


 うずくまる真の襟首を引っ張っていく金髪少女。


「ちょっと!」

「うるさい。黙れ。この変態」


 真の言葉を無視し、引きずって一階へと続く階段を降りていく。


「おい。待てって。って、いて」


 一つの階段を降りるたびに、真の尻に痛みの衝撃が走る。受付のお姉さんが、何事かと駆け寄ってくる。


「ど、どうしたの? そんな怖い顔して、なんかあった?」

「アンナさん、この変質者を憲兵につきだして!」


 金髪少女が、真を受付のアンナさんの前に、放り投げる。アンナさんは、この宿屋〝風ノ旅ビト〟の経営者でもあった。緑色のショートがよく似合っている。顔はとても美人で、西洋の色白美人ぐらいあった。


「はい?」


 突然のことに、戸惑うアンナさん。真が、涙目で叫ぶ。


「だから俺の話を聞けー!」


 それから、真は、アンナさんを交えて、金髪少女の誤解を解いた。三人が、一階の酒場のテーブルに腰かけていた。


「申し訳ない。私が寝ぼけてあなたの部屋に入っていたとは」


 どうやら、金髪少女は、夜中、トイレに行った後、寝ぼけて真のベッドに入り込んだらしい。


「この埋め合わせは、させて欲しい」

「いや、誤解が解けたならもういいよ」

「そういうわけには」

「なら、こういうのはどう?」


 受付のアンナさんが、二人に提案した。 アンナさんを見る真と金髪少女。


「あなた、金があまりないのよね?」

「はあ。ってなんで知っているんです?」


 アンナは、真のボロボロの服装を見ていたが、すぐ視線を戻す。


「金山にアンデッドが出没するようになって、金が取れなくなり、商業組合が困っているのは知っているわよね?」

「って、無視ですか」

「そこで、彼に協力してあなたもアンデッド退治に行くってのは。つまりは、お詫びとして、彼のお金稼ぎを手伝うということでどう?」

「いいでしょう」

「はぁ。わかりました。俺もそれでいいですよ」


 真は、ため息混じりに金山に巣くうアンデッド退治を、金のため承諾した。


「商業組合には私から言っておくわ」


 真は、アンナさんに頭を下げる。


「よろしくお願いします」



 こうして、二人は、金山に巣くうアンデッド退治に向かうこととなった。



 その頃、一つの馬車が、金山を目指して移動していた。御者台には、バルハザード王国の兵士が乗っていた。馬車の中では、真の同級生五人が腰かけていた。伊藤重悟をリーダーとする伊藤パーティーである。メンバーは、後藤大蔵、江藤寛二、高橋伊知子、久保明日香である。彼らはサルワ王に命じられ、金山に巣くうアンデッドを倒せとの命を受けていた。断ろうと思ったメンバー達だが、重悟が、腕試しにちょうどいいという理由で相談なしに受けてしまったのだ。


「ちょっと、江藤。なにびくついてんのよ」


 伊知子が、足が震えている寛二を見て、言った。


「俺、この任務で死ぬかも」

「あんた、男でしょ! しっかりしなさいよ!」


 弱音を吐く寛二に、伊知子は、呆れる。


「ちょっと、重悟! お菓子ばっか食べてないで、リーダーとして、何か言ってあげなさいよ!」


 異世界のお菓子を食べている重悟に、伊知子が怒鳴った。


「ああ。そうだな」


 重悟が、お菓子を食べる手を止め、びくついている寛二の方を見やる。


「寛二。俺が敵を粉砕する。だから、安心しろ」

「お、おう」

「寛二。そうびくつくな。俺もいるんだ」


 大蔵が、寛二の肩をポンっと叩く。


「ああ。そうだな」

「寛二君、ほら元気だして、ね」

「うん」


 明日香の笑顔に、寛二は、癒された。


「相変わらず、明日香に弱いわね」

「なにいってんだよ。僕は別にそんな」


 伊知子のからかい口調に、寛二は慌てる。ちらっと、明日香の方を見ると、また顔を逸らす寛二。明日香は、不思議そうに赤面している寛二を見ている。重悟達を乗せた馬車は、金山の領域へと入っていく。



 その頃、アンは、王宮の庭にて、ミザリーに剣の手ほどきを受けていた。


 カキン! カキン! カキン!


 アンが、木剣を手にミザリーの木剣に向かって打ち込む。


「はぁああああ!」


 アンの鬼気迫る形相に、周りにいたメイドらが、ビックリしていた。


 いつもおどおどとしたアンとのギャップに驚いているのだろう。


「いいですよ。その意気です。さぁ、もっと打ち込んで来なさい」

「はい、先生!」


 剣の稽古に励む二人を、遠目から覚めた目で見つめている人物がいた。問題児のランドルフ王子だ。


「あいつら、あんな汗を垂らしちゃってまぁ。暑苦しいことこのうえない。やだ、やだ」


 ランドルフ王子がそうぼやいていると、向こう側の通路の方から片想い中の伊織がやって来る。


 ランドルフ王子の目が、キラキラと輝く。


「おーい、伊織〜!」


 ランドルフのステップしながら駆け寄る姿に、伊織は、気づき、足を止める。


「これは、ランドルフ王子。どうしました? 私に何か用でも?」

「うむ。実はの。お前にこれを渡そうと思ってな」


 ランドルフ王子は、そう言い、懐から高価そうな赤い指輪を取り出す。


「どうじゃ、綺麗だろ?」

「はい。とても綺麗ですね」

「ふふん。この指輪はな。金貨五百枚の値打ちがあるのじゃ」

「へぇ。それは凄いですね」

「こいつをお前にやる」

「えっ?」


 伊織は、突然のランドルフの言葉に、ビックリする。


「いや、こんな高そうな物頂けませんよ!?」

「いいから遠慮するでない。こんな指輪の一つや二つ、人にやったからといって惜しくなどない」

「ですが。殿下。私には過ぎた物です。それに指輪は既に持っているので」

「なんだとっ!?」


 ランドルフ王子は、伊織の言葉に、ワナワナと震える。


「そ、それは、も、もしや男からのプレゼントか?」

「いえ、違います」

「そ、そうか」


 ランドルフ王子は、ホッと胸を撫で下ろす。


 と、伊織が、頬を染めて密かな願望をゴニョゴニョと口に漏らす。


「でもいつか渡部君に貰いたいな……」

「ん? どうした? 何か言ったか?」

「い、いえ。なんでもありません」


 慌てて誤魔化す伊織を見て、ランドルフ王子は、怪しむ。


「で、では、殿下。私はこれで」


 伊織は、顔を赤らめながらいそいそと歩き去っていった。


「おーい、伊織! まだ話は終わっておらんぞー!」


 ランドルフ王子が、伊織の背中に向かってそう叫ぶも、振り向くことはなかった。


 周りにいたメイドが、ガックリと肩を落とすランドルフ王子を見やって、クスクスと笑っていた。


 ランドルフ王子が、ギロっとメイドらに振り向く。メイドらはまずいと思い、方々に散っていった。


「全く。今度笑ったら不敬罪で牢獄に入れてやる」


 ぶつぶつと文句を言っているランドルフ王子の頭に、クルクルと木剣が飛来してくる。


 ゴンッ!


 ランドルフ王子の頭に木剣が、直撃した。


「いてぇええええ!?」


 ランドルフ王子が、悲痛の声を上げて、たんこぶのできた頭を手で押さえる。


「ごめんなさいー!」


 アンが、申し訳無さそうな表情で、駆け寄って来る。


 ランドルフ王子が、ギロリとアンを睨みつけた。


「き、貴様か。我の知性溢れる頭に、も、木剣をぶつけたのは?」

「あ、はい。手元が滑ってしまって」


 頭を下げるアンに、ランドルフ王子は、怒鳴りつけた。


「謝って済むのなら憲兵はいらないんだよ!」

「も、申し訳ありません!」


 必死になって謝るアンに、ランドルフ王子は、手に持っていた木剣をアンの頭めがけて降り下ろした。


 バシンッ!


「くっ!?」


 木剣を後頭部にぶち当てられて、アンは、苦悶の表情を浮かべる。


「ふん。これぐらいで済んだことをエヒカ神に感謝するんだな」

「はい。殿下。感謝いたします」


 アンは、頭を下げた状態で、そう呟いた。


 と、そこにミザリーが駆け寄って来る。


「殿下、何をなさっているんですか!」

「黙れぇ! 家庭教師ごときが我に意見するなどあってはならんことだ! 身分を弁えろ!」


 ランドルフ王子は、最近、貴族らからおだてられ、偉ぶり行為が増長していた。


「殿下……それではいつか皆の心が離れていきますよ」

「ふん。お前の詰まらん説教はいらん。じゃあの」


 ランドルフ王子は、ミザリーの諭しを無視し、木剣をポイッと投げ捨てて、歩き去っていった。


 ミザリーは、じっと頭を下げていたアンに、深く謝罪する。


「申し訳ない。殿下がこうまで増長するとは」

「いえ、気にしてませんから。さぁ、剣の鍛練の続きをしましょ」

「はい……」


 アンは、ミザリーとの剣の鍛練に勤しむのであった。




 =======================================


 人物紹介


 伊藤重悟

 天職は、格闘家。身長200メートルの巨漢。性格はおおざっぱ。髪型は、丸刈り。部活は柔道部。


 後藤大蔵

 天職は、暗殺者。身長165センチの小柄。影がうすい。髪型は、エロゲー主人公風。部活は手芸部。


 江藤寛二

 天職は、土術士。身長160センチの小柄。大人しめの人畜無害。髪型は、短く切り添えられた短髪。部活は文芸部。


 久保明日香

 天職は、聖術士。身長170センチ。髪型は、黒髪のロングヘアー。大人しめの性格。伊織や雫に決してひけを取らない美少女。数多くの男子生徒達から想いを寄せられている。部活はバレー部。


 高橋伊知子

 天職は、風術士。身長165センチ。髪型は、短めの緑色。性格は、結構きつめ。久保明日香の親友。部活はテニス部。


2021年11月17日。0時00分。更新。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る