第19話 風ノ旅ビト
時刻は夜中。富崎は、取り巻きを連れ、手分けして城下町で聞き取りをしていた。富崎が、酔っ払った中年のおっさんに聞き込みを行う。手配書を見せる。
「おい、こいつ見なかったか?」
「あん? しらねぇよ。こんな奴よ。ひっく」
「ちっ。酔っ払いが。もう行け」
よろつきながら、去っていく酔っ払った中年オヤジ。富崎は、イライラと地面に唾を吐く。その時、川村が駆け足でやって来る。
「おーい、伸二! こっちもダメだ。誰も見てないってよ」
「くそ」
富崎は、イライラと近くにあった店の看板を蹴飛ばし、物にあたる。
「もう、王都にはいないんじゃないのか?」
「そうかもな」
川村の推測に、富崎は同意する。
「これからどうする?」
富崎は、尋ねた川村に何も答えず、しばし思案に没頭する。そんな中、中年男の声が聞こえてくる。
「いや~、荷物の運搬大変だったよ~」
「なにかあったのか?」
「いやさ~、途中の道のりで、山賊に襲われちゃってさ」
「で、どうなったんだ?」
「それがよ。樽の中から兄ちゃんが出て来てよ。山賊を瞬殺よ」
「それはすげぇな」
「すげぇなんてもんじゃねぇって。あれは」
富崎は、この中年同士の会話を聞き、ピンっときた。
「おい、伸二!」
突然、飛び出した富崎に驚く川村。
「おい、そこのおっさん!」
「うん?」
富崎は、荷馬車のおっさんの首を締め上げる。
「なんだね、君は!?」
「そいつ、どこに向かった!」
「ラカゴの町だ。く、苦しい、離してくれ」
富崎は、荷馬車のおっさんの襟首を離す。咳をする荷馬車のおっさん。
「ごほっ、ごほっ」
「おい、あんた。なんなんだ!」
もう一人の中年のおっさんが、富崎に詰め寄る。
「あぁ?」
「ぐわっ!?」
富崎は、中年のおっさんを突き飛ばす。中年のおっさんは、ゴミ箱に突っ込む。
「おい。よかったな。俺は今、機嫌がいい。ボコられずにすんだんだからな。はっはっは!」
突然笑い出した富崎に、恐怖した荷馬車のおっさんとその仲間のおっさんは、駆け足で逃げ出していく。川村が、不気味に笑っている富崎に近づく。
「どうしたんだよ、伸二。そんなに笑って」
「見つけたんだよ」
「何を?」
「俺達に金と名誉をもたらしてくれる奴をな」
「奴って、まさか、渡部?」
「すぐに祐也と涼介を連れて来い。ラカゴに向かうぞ」
「おお!」
川村は、他の場所で聞き込みをしている官田と古池を呼びに走っていった。富崎が、不敵に笑った。
「待ってろよ、渡部。すぐにブタ箱に送ってやるぜ。くっくっく」
その頃、真は、手頃な安い宿屋を探していた。
「中々、安い宿屋が見つからないな」
と、呼び込みのおっさんが、真の手を掴み、声をかけた。
「そこの兄ちゃん。いい子いるよ!」
「急いでるんで」
そう言い、真は、呼び込みのおっさんの手を振り払う。
「なんだよ! このバカやろー!」
背後から罵声が聞こえるが、真は無視して安い宿屋を探す。探すこと十分ほど、安そうな宿屋を見つける。見るからにボロそうだが、真は特に気にした風もなく〝風ノ旅ビト〟という宿屋に決めた。
「ここにするか」
ガラガラと扉を開ける真。
「いっらしゃいませ!何名様ですか?」
受付のねーちゃんが、真に尋ねる。
「一人です」
真が答えると、騒がしい声が聞こえてくる。見渡すと、ビールを飲んでいる荒くれの冒険者達がたくさんいた。どうやら、一階は、飲み屋になっているようだ。
「酒、持ってこい!」
「今日はゴブリンを十匹倒したぞ!」
「明日はレアアイテムをゲットするぞ!」
酔っ払った冒険者達が、声を荒げ、わー、わー、と騒いでいた。受付のねーちゃんが、真に謝罪する。
「うるさくてすいません」
「いえ。気にしませんので」
「では、部屋にご案内します」
「ああ。頼みます」
受付のねーちゃんに案内され、二階に上がろうとした時、冒険者のおっさんの騒ぐ声が聞こえてくる。
「おい。酌しろって言ってんのが聞こえねぇのか? あん?」
「断る」
「なんだとぉ!」
冒険者のおっさんが、一人で夕食を食べていた少女にせがみ、酒をつぐよう命令していた。真は、少女に見覚えがあった。あの紅眼の少女だった。真は、頭をかき、騒いでいる冒険者のおっさんに近寄る。
「おい。あんた」
「なんだ、てめぇは」
冒険者のおっさんが、真をグッと睨む。
「嫌がってるんだから、やめろよ」
「あん? てめぇには関係ないだろが! 引っ込んでろよ!」
「そうしたいんだが、こう騒がれちゃ、寝れないんでな」
「そうかい。なら今この場で、寝てろや!」
冒険者のおっさんは、右拳で、真に殴りかかった。真は、そのパンチを難なくかわし、カウンターを食らわした。
「ぐわっ!?」
冒険者のおっさんは、鼻血を噴き出し、ぶっ倒れた。周囲の冒険者達が、ざわざわと騒ぐ。真は、これ以上、騒わがれたくないので、早々に部屋に案内してもらうことにした。
「あの」
金髪少女が立ち上がり、二階あがる真に、声をかけた。振り返る真。
「うん?」
「助けてくれてありがとう」
「気にするな。別にあんたのためじゃない」
そう言い、真に二階に上がっていく。木の階段がミシミシと音が鳴る。だいぶ古いようである。部屋に入った真は、剣を壁に立て掛け、古びたベッドに仰向けに寝転ぶ。
「今日は疲れたなぁ。もう寝るか」
そう言い、真は、ランプの火を消し、眠りについた。
その頃、女盗賊ミネルカが、民家の屋根に佇み、町全体を見渡していた。
「ふっ。随分と賑わってるわね」
ミネルカは、夜の町に繰り出している人々を見て、そう呟いた。
「さてと、今夜のお宝を頂くとしましょうか」
ミネルカは、屋根から屋根へと渡っていき、デカイ屋敷の上に飛び移った。
屋敷の上から縄を引っかけて壁伝いに降りていくミネルカ。
ミネルカの狙っているお宝は、〝嘆きのルビー〟と言って、日本円にして時価数千万はくだらない代物だ。この屋敷の所有者、ネルソン・マッケンジーという大富豪貴族が持っている。事前情報では、隠し地下にある宝物庫に保管されているらしい。
窓まで降りたミネルカは、懐からクナイを取り出した。魔力をクナイに流し、窓ガラスを入れるぐらいの大きさまでバターのように楽々と切り取る。
切り取った穴から浸入し、辺りを警戒した。
「情報によると、ネルソンは会合でいないってことだから。今のうちに頂きましょ」
ミネルカは、慎重に階段を降りていく。
地下へと続く階段の位置は、スキル〝階段探知〟で見つけられる。
〝階段探知〟とは、文字通りの意味で、階段の位置を地図なしで脳内に教えてくれるダンジョン探索に便利なスキルだ。
ミネルカは、スキルを使って、地下へと続く隠し階段を見つけた。隠し階段をふさぐ棚を両手でどかし、小型ランプをつけて地下へと降りていく。
「随分と深いわね。どこまで続いているのかしら?」
しばらく階段を降りること十分。ようやく、終わりを告げる。
階段を降りて、ランプを廊下の方に照らすと、真っ直ぐと伸びた先に、宝物庫らしき扉が見えた。ニヤリと笑うミネルカは、宝物庫の方へと歩いていく。
宝物庫の扉の前までやって来たミネルカ。
「さて、こいつの出番ね」
ミネルカは、ポケットからじゃらじゃらと沢山の鍵のついた円環を取り出した。
ガチャガチャと鍵穴に合いそうな鍵を次々とさしていく。
「ビンゴ!」
ガチッと鍵が合い、扉が開いた。
ミネルカは、宝物庫へと足を踏み入れる。中は、お宝の山だった。
いかにも高級そうな宝石類が、箱に入れられて山のように積み重ねられている。
が、ミネルカの狙いは〝嘆きのルビー〟であったため、それらに見向きもせず、厳重そうな宝箱が置いてある方へと歩いていく。
「これに間違いなさそうね」
ミネルカは、貴金属でできた宝箱を前にして、詠唱した。
「我が元にさらけ出せ、〝宝の手〟」
と、ミネルカの手の中に、〝嘆きのルビー〟が現れる。
〝宝の手〟とは、宝箱の中身を自身の手の中に移動させる魔法である。
「うわー、綺麗」
ミネルカは、手の中の〝嘆きのルビー〟を見やって、思わずチューッと接吻した。
暗闇の中、赤い宝石が、煌々と輝いている。
ミネルカは、〝嘆きのルビー〟を大事そうに胸元にしまう。
「さて、お宝もゲットしたし、ネルソンが帰ってくる前に早々に退散しましょ」
ミネルカは、元来た道を戻っていった。
その後、ミネルカは、護衛の誰にも見つからず、無事に持ち出すことに成功した。
愚かなネルソンは、数日後に〝嘆きのルビー〟が無くなっていることに気づいたが、ミネルカはすでに町におらず、後の祭りで、その時のネルソンの顔は、実に悔しそうな表情で、いい気味だとラカゴ市民から揶揄されたそうだ。日頃から金持ちをいいことに、市民に対して偉ぶった態度を取った結果だろう。
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2021年11月16日。0時00分。更新。
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