第18話 勧誘

 真は、ラカゴの町を散策していた。建物には、指名手配書が所々に張られていた。時折、バルハザード王国の兵士が、手配書を手に、真を探していた。真は、見つからないよう、フードを深々とかぶり、極力、バルハザード王国の兵士と出くわさないよう移動する。


 真は、ふと、子供の遊び場に目が止まる。遊び場といっても、ただの空き地で、遊具はなどはないが。子供達が、遊び場でボール遊びなどをしていた。真は、昔、公園でよく友達とキャッチボールをして、遊んだことを思い出す。


(あいつ、キャッチボール下手くそだったけ)


 真が、子供達を見て、懐かしんでいると、ボールが足元に転がってくる。男の子が、大きく手を振る。


「お兄ちゃん、ボール取って!」


 真は、足元のボールを拾う。


「ほら」


 真は、ボールを男の子に投げる。ボールを受け止める男の子。


「ありがとう。お兄ちゃん」


 礼を言う男の子に、真は、手を振る。そして、真は、再び、歩き出す。数分、表通りを歩いていると、いい匂いが漂ってきた。ちょうど、真の腹が鳴る。ポケットを探ると、銀貨20枚あった。このお金は、ここに来る途中、山賊から助けたおっさんからお礼にもらったものだった。匂いにつられるように、店に入った。店のおっちゃんが、客を出迎える。


「いらっしゃい!」


 真は、適当な席に腰かける。周りの席を見渡すと、二人ほど客がいた。真は、客の顔に見覚えがあった。検問で、真の後ろにいた紅眼の少女だった。出されたオムライス風の食べ物を淡々と食べていた。


「なんになさいますか?」


 女の店員が、真に尋ねる。


「このカルーという物をくれ」

「はい」


 このカルーは、いわばカレーというものらしい。残念ながら、米はなく、ルーだけである。ちょうど、冒険者二人が、店に入ってきた。二人とも男である。よく見ると検問の時、真の前にいた冒険者の二人だった。


「お、すいてる。ラッキー」

「ここ座ろうぜ」

「おお」


 冒険者の二人は、真の後ろの席に座る。


「おい、見ろよ」

「うん?」

「あそこにいるの」


 冒険者の二人が、金髪少女の方を見る。視線を気にせず、黙々と、オムレツを食べている。


「おお、あの時の貧乳少女」

「ばか、聞こえるぞ」

「悪い。ついな」

「一人旅かな?」

「さぁな。恐らく、家出じゃねぇの?」

「家出?」

「いいとこのお嬢さんが、親に反発して、家出したんだろぜ」

「なるほどなぁ」


 冒険者の二人は、金髪少女の着ている上品な服を見て、金持ちの家と想像した。


「そうそう。お前、知ってるか?」

「なんだよ急に?」

「最近、金山で強力な魔物が出没するらしいぜ」

「強力な魔物?」

「ああ。なんでも、アンデッドらしい」

「アンデッドか。あいつら、厄介なんだよなぁ」

「そうそう。魔法は一切効かないし。打撃で倒すしかないんだよなぁ」


 真の所に注文のカルーがやって来る。


「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ」


 真は、スプーンを取り、カルーを食べる。美味かったが、やはり米がないので今一つだった。


「お待たせしました」


 冒険者の二人もカルーを注文していたようだ。


「さて、食べるか」

「ああ」


 冒険者の二人は、カルーを食べる。


「美味いが、やはりライスがないとな」

「ああ」

「でも、湖畔の町ラフテスならライスがあるって話だろ」

「まぁな」

「また、食べたいな。ライス」


 真は、冒険者二人の話を聞き、ぜひ機会がれば、湖畔の町ラフテスに行ってみたいと思った。


「ごちそうさま」


 金髪の少女は、食事を済ませ、店を出ていく。


「貧乳じゃなければ、口説いたのによ」

「ああ。もったいねぇ」


 冒険者の二人は、ため息混じりにそう漏らした。それから、数分後、真も食べ終わり、会計に向かう。


「銅貨二枚になります」

「銀貨一枚」

「はい。ではお釣、銅貨八枚になります」


 真は、銅貨八枚をポケットにしまい、店を出ていく。腹一杯なので、中央広場の噴水広場前にあるベンチに腰かけて、しばらく休むことにした。周りを見ると、子供がはしゃいで走り回ったりして、親が注意したりしている。青空を見ると、太陽が眩しい。いい天気だった。数分、ベンチで、日射しに当たりながら、まったりしていると、誰かがベンチの前に立っていた。見上げると、フードを被った赤い髪の女だった。


「お前は……あの時の」


 赤い髪の女エキドナは、ニヤリとからかうように言った。


「は~い。私と同じお尋ね者になった気分はどう?」


 真は、エキドナの軽口を無視し、質問をした。


「他のお仲間は一緒じゃないのか?」

「今は別行動」

「まさか、あの時の火事は、お前の仕業か?」

「察しがいいわね。そうよ。私の得意な火魔法で、ね。感謝して欲しいわ。私のお陰で王都から脱出できたんだから。まぁ、武器庫を燃やすついでだったんだけど」

「なぜ、俺を助けた? お前に何の得がある?」

「質問攻めね。あなたこそ、なぜ、王国に追われてるのかしら?」

「推測はできてるんじゃないのか」

「まぁね。王国に闇魔法のことがバレた。そして、魔族と疑われ、追われるはめに。こんなところでしょ」

「まぁ、バレたのは、お前らが現れたせいでもあるがな」

「でも遅かれ早かれバレてたんじゃない?」

「……」

「でも、人間であるあなたが、なんで闇魔法を使えるの?」

「さぁな」


 二人の間に静寂が流れる。真が、静寂を破るように、口を開く。


「俺に恩を売って何をさせる気だ」


 真が、エキドナを睨む。


「怖い顔をしないでよ。こっちは敵対する気はないんだし」


 なおも睨む真に、エキドナは、観念したように話す。


「私と来ない?」

「なに?」

「魔族側に来ないかってこと。闇魔法を使える人材なんだし、歓迎するわよ。色々と」

「断る」


 真は、悩むことなく即答した。


「そう。残念ね」


 エキドナは、踵を返し、歩いていく。真が、エキドナを呼び止める。


「おい、お前。これからどうするんだ?」

「内緒。気が向いたら魔族の国にでも来てよ。歓迎するわ」


 そう言い、エキドナは、小悪魔的笑みを浮かべ、どこかへと消えていった。



 その頃、女盗賊のミネルカが、ラカゴの検問所へとやって来ていた。


 肩には装備品の数々が入った白い包みを担いでおり、忍者衣装ではなくサンタクロースの衣装だったらプレゼントを配り来たお姉さんに見えたことであろう。


「結構、混んでるわね」


 ミネルカが、そう言い、最後尾に並ぶ。


 と、前に並んでいた冒険者の男二人と女二人のパーティーが、ミネルカの方を見て、驚く。


「色白でべっぴんだな」と男性。

「しかし、この辺ではあまり見ない衣装だな」と男性。

「凄いー、美人」と女性。

「うわー、色っぽい」と女性。


 それぞれの評価を聞いたミネルカは、愛想よく笑った。


 その麗しい微笑みに、男二人は、思わず鼻の下を伸ばして見とれてしまう。


「もう!」

「浮気もん!」


 それぞれの彼女に、耳を引っ張られる男二人。


「いてて。ついだよ」

「そうだぜ。これは男の性というものだよ」


 弁明する男二人に、彼女と思しき女性二人は、呆れた表情をし、耳を離す。


「まったく。もう」


 女性は、ため息を吐き、ミネルカの方を見て、謝罪する。


「ごめんなさいね。バカ二人が」

「いいのよ。気にしてないから」

「ありがとうございます。それにしても、お一人様で旅ですか?」


 怪訝そうな女性に、ミネルカは、愛想笑いを浮かべて答える。


「ええまぁね」

「へぇ。一人で自由に旅ですか。いいですね。なんか憧れます」

「そう? 結構、大変よ」

「お姉さんの衣装、あまり見たことないですが、どこの出身なんですか?」


 女性の問いかけに、ミネルカは、笑ってはぐらかした。


「ごめんなさい。秘密なの」

「うわー。ミステリアスな女性ってやつですね。何か格好いいなぁ」

「ふ。あなたも充分、素敵よ」

「ありがとうございます!」


 ミネルカに容姿を誉められて嬉しそうな女性。と、彼氏と思しき男が、水をさす。


「そうかぁ? お世辞で言われたのを真に受けてるだけだろ?」


 この男の言葉に、彼女が、眉間にシワを寄せて、ぶちきれる。


「このロクでなしの甲斐性なしがっ!」


 男は、盛大にビンタされて、腫れ上がった頬を手で擦るのであった。


 ミネルカが、女性に慰めの言葉を送る。


「あなたも大変そうね」

「いえ。慣れてますから」

「そう」


 と、女性が、ミネルカに耳打ちする。


「知ってますか? ここの金山に最近、アンデッドが出没するそうですよ」

「アンデッド?」

「ええ。冒険者が討伐に行ったそうですが、誰も金山から戻って来なかったそうです」

「へぇ。それは実に興味深い話ね」


 ミネルカは、お宝の匂いがして、ニヤリと笑う。


 と、検問所の順番が、女性らに回ってきたようだ。


「はい。身分証です」

「ああ。通っていいぞ」

「どうも」


 男二人は、身分証をしまい、検問所を通っていく。女性二人は、「それじゃ」とミネルカに会釈して検問所をくぐっていった。


「おい、身分証を見せろ」

「はいはい」


 ミネルカは、胸元から身分証を取り出し、検問官に提示した。


 検問官の男が、ミネルカの谷間をチラホラと見ながら身分証を確認していた。


 しばらくミネルカの胸を堪能した検問官の男は、ミネルカに身分証を返した。


「よし、通っていいぞ」

「どうも。お仕事頑張ってね。チュー」


 ミネルカは、検問官の男に投げキッスをして、通り過ぎっていった。


 投げキッスされた検問官の男は、しばらくボケーと佇み、余韻に浸っていた。


「さて、金山のお宝を頂くか」


 ミネルカは、悪女の笑みを浮かべるのであった。


========================================


2021年11月14日。0時00分。更新。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る