第4話 離婚のイシャリョーはいくら取れるの!?

「ちょっと法夫のりおくん、相談に乗ってくれない? わたしのお姉ちゃんの話なんだけど」

「なんだい、律子りつこちゃん。お姉さんって去年結婚したあのお姉さん?」

「そう! でも、もうあんな旦那とは離婚してやるって言ってるの!」

「……ひょっとして今回は離婚調停の話じゃないだろうね」

「さすが法夫くん、物分かりがいいじゃない!」

「律子ちゃんに褒められても何も嬉しくないよ。弁護士さんに聞きなさい、弁護士さんに」

「お姉ちゃんお金無いんだもん! なんだっけ、本人ソショー?でやるって言ってるわ」

「あーあ、やる前から泥沼確定だよ。旦那さん側の弁護士も可哀想に」

「大丈夫よ、旦那のほうも弁護士なんか付ける余裕ないって言ってるらしいもん。フーゾクばっかり通ってるからそんなお金もないのよ」

「まさか、お姉さんの離婚の理由って、旦那さんの風俗通いなのかい」

「それだけじゃないけどね! 聞いてよ、お姉ちゃんの旦那ったらホントに酷いのよ!」

「はあ」

「仕事から帰るのは遅いし、スマホは頑なに見せないし、お姉ちゃんには少しのお小遣いしか渡さないし、そのくせ自分はフーゾク通いなのよ! たまにフーゾクに行かない日はパチスロだし!」

「どれも婚姻を継続しがたい重大な事由には当たらなさそうだなあ……」

「それでね、イシャリョーはいくら取れるのかなって、お姉ちゃん気にしてるのよ」

「本人訴訟の分際で慰謝料なんかまともに期待しないほうがいいんでは」

「なんたって、黙ってはいられないもん。お姉ちゃんのほうが腹いせに寝ちゃった男からは、あのクソ旦那、きっちりイシャリョー取り立てて行ったっていうんだから!」

「はい?」

「離婚のほうではきっちり旦那からイシャリョー取り返してやらなきゃ!」

「待って待って、待って」

「なによ」

「話の構造がわけわからなくなってきたんだけど……。なに、お姉さんもお姉さんで不倫してたの」

「旦那がフーゾク通いだから、ちょっとやり返しただけよ。旦那のほうが先にやったんだからね」

「旦那さんは風俗通いで、お姉さんは普通の人との不倫なのかい?」

「なによ、法夫のりおくん、お姉ちゃんのほうが悪いっていうの? お姉ちゃんはやり返しただけだもん」

「念のため聞くけど、離婚はお姉さんのほうから申し立てたんだよね」

「そうよ! ねえ、イシャリョー取れるんでしょ? お姉ちゃんが仕返しに他の男と寝たからって、それで貰えるイシャリョーが少なくなったりしないわよね?」

「いや、そもそもその状況だと旦那さんが慰謝料払う理由がないんでは……」

「なんでよ! あっちが先にフーゾク行ってるのよ!」

「枕営業を不貞行為にあたらないとした判決が二年前に話題になったばかりなのに」

「ねえ法夫のりおくん、ちゃんとイシャリョー取れるわよね!? お姉ちゃん、それを元手にネイルサロンを開くって言ってるんだから、貰えなきゃ困るのよ」

「旦那さん、踏んだり蹴ったりだなあ……」


【問題】

・律子ちゃんがどのレベルで法律をわかっていないのか検討してみましょう。

・有責配偶者からの離婚請求について、判例の変遷を追い、時代ごとの価値観の変化に思いを馳せてみましょう。


【余談】

「離婚の原因は私(女)の不倫ですが、旦那からはいくら慰謝料を取れるでしょうか。離婚の慰謝料って男が女に払うものですよね?」という書き込みを筆者は本当に目にしたことがあります。頭がくらくらしました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

間違いだらけの法律知識 板野かも @itano_or_banno

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ