ミドリの場合

 ミドリはオタク系のコスプレイヤーだった。店に入ってきたときは医療系の専門学生だったかな。

 店ではカタカナでミドリって源氏名を名乗ってたが、コスプレ界隈でも「みどり」のハンドルネームで手広く活動してたらしい。

 そっちでのファンにバレたら困るとか、多分こういう女は考えもしねえんだ。むしろバレたらバレたで炎上商法で盛り上がる、くらいに割り切ってた可能性すらあるぜ。

 オタクってのはインテリと同じくらい、わけのわからねえ物の考え方をする人種だ。


 オレにはオタクの世界のことはよくわからねえ。でも、風俗店で働いてると、オタク系の女と知り合うことは決して稀じゃねえんだ。メイドコスプレとか、そういうのを売りにしてる店もあるくらいだしな。

 ミドリはシロップをぶちまけたような甘ったるい声で、自分のことをミドリって呼んでやがった。ハンドルネームの翠のほうなのかもしれねえが、どっちにしたって自分の本名ですらねえ名前をナチュラルに一人称にしてるんだぜ。それだけでどういう人生を送ってきた女か大体わかるだろ。

 レイヤーの女の子ってブサイクが多いんですぅ~、とは、ある時ミドリがオレとの雑談の中で言ってきたセリフだ。

 言ってることはわかるよ。最近は美人のコスプレイヤーも多いみてえだが、基本的にあんなもの、見た目に恵まれなくてガキの頃から苦労してきた女が、どうにかして実力以上の喝采を浴びたくて手を出す趣味だろうぜ。おっと、読んでくれてる人の中にコスプレ関係者がいたら悪いな。世間の偏見ってやつだと適当に流しといてくれ。

 ミドリの言葉を聴いたオレの感想は「お前が言うか」だった。ミドリのやつ、ブサイク揃いのコスプレ仲間のなかで自分だけは可愛いと思ってたんだろうが、オレに言わせりゃ、メイクと髪型でごまかしてるだけのブスの一人にすぎなかったぜ。

 だが、まあ、そんなブスでも童貞を殺す服とやらを着て、オタク好みの髪型と笑顔でアニメ声を出して媚びてりゃあ、それなりに客は掴めるってもんさ。


 オレの目には、ミドリは風俗で働くことをどの嬢より楽しんでるように映ってたよ。あのセックス好きのモモカよりもな。

 ミドリは別に男のアレをしゃぶって白濁液を飲み干すのが特段好きだったわけじゃねえ。ただ人気者としてチヤホヤされる自分が嬉しかったのさ。

 風俗嬢になりたがる女なんて半分以上はそんなもんだぜ。自分は可愛いと無条件に思い込んでて、手っ取り早く男にチヤホヤしてもらえる環境に身を置きたいだけなのさ。

 実際は大して可愛くもねえから風俗嬢になるしかねえんだ、ってことは、本人達が一番よくわかってるんだろうから、わざわざ言ってやらねえけどな。


 そんなミドリとのお別れは、風俗嬢からAV女優へのお決まりのクラスチェンジだった。専門学校で歯科衛生士だか何だかを目指してたはずなんだが、そっちのほうがどうなったのかは知らねえ。

 「清純美少女鮮烈Debut」なんて一ヶ月に何十本も出るようなタイトルを付けられて、ミドリは全国のTSUTAYAとGEOで尻穴を晒したらしいが、結局、鳴かず飛ばずで引退していったよ。

 風俗でそれなりに稼げるからってAVでもうまくいくとは限らねえんだよな。風俗は覚悟と適正さえあれば務まるサービス業だが、AV女優ってのは一種の芸能人だからさ。売れっ子になるには運と営業と運とコネと運と運と運が欠かせねえわけよ。

 風のウワサによると、ミドリは今やデキ婚して二児の母らしい。風俗経験者だろうが元AV女優だろうが貰ってくれる男はどこにでもいるもんさ。おおかたコスプレ趣味で知り合った男性レイヤーかカメコだろうと思うけどな。

 もちろん、他の嬢と同じで、オレがミドリとわざわざ連絡を取り合ったりすることはねえ。せいぜい彼女の健康と、子供にとんでもねえキラキラネームを付けてねえかを祈るくらいだぜ。

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