3・情緒不安定と辞退の繰り返し
わたしが別の意味で精神的に疲れ切っている中、
ママはわたし以上に情緒不安定だった。
ママはあのブラック企業を辞めることを考え始めた頃から、
今ほどの好条件で働ける所はきっとないだろうと覚悟していた。
一応、あのブラック企業は、ママにとって働く条件だけは良かったのだ。
四十を過ぎた主婦で、土日祝日は休む。
その条件を聞いた上で雇ってくれる場所は、なかなか見つからないようだった。
今すぐ働かねばと急いだかと思えば、
やはり焦るべきではないと自分に言い聞かせる。
ママは、わたし以上に、それを繰り返していた。
思わぬ形で三年も勤めていた職場を辞めた上に、
そんな自分を優しく励ましてくれる夫もいないのだから、
不安定なのも無理はないとは思うけれど。
それにしても、ニートの娘が心配になるほど、ママは情緒的に不安定だった。
そんな中、ママはある求人に応募した。
それは、ある近所の婦人服の店だったけれど、
間もなく電話が掛かってきて、
ママが応募する寸前に、もう他の誰かが採用されてしまったとのことだった。
落胆したママは、さらに不安定になり、
わたしからのイマイチな反応も無視して、着物服の店に応募した。
それを知って、わたしがまず思ったこと…
え、着物なんて興味全くないよね??
ママは内心、自分でもそのことを自覚していたらしく、
わたしがママらしくないと連発していたこともあって、
結局、自分から辞退してしまった。
出た、辞退のループ。
それはともかく、ママは急いでいた。
そして、また応募した。
やはり、古着屋での経験を生かして、レディース服を販売したい!
ということで、またもや婦人服の店だった。
しかし、なぜか連絡が来ない。
痺れを切らしたママが問い合わせてみたところ、
連絡がこなかったのはどうのこうのとかで、
ちなみに土日に勤務できない方はお断りしているそうだった。
ママ、またもや頓挫。
婦人服で二度の挫折を経験したことで、
ママはもう、そういう類の職種を諦めたようだった。
「どうせ商品を買わなきゃいけないから負担になるし、もうアパレル系はやめる。
もう年なんだしね」
「…」
ママほどの接客がピカイチな人はいない。
わたしにはその確信があったので、
アパレル系でなくとも何かしら接客のある仕事をした方が良いだろう、そう思った。
それと同時に、
あのブラック企業の奴らが、ちゃんと問題を真摯に受け止めてくれていれば、
ママはこんなことにならずに済んだのに、と考えずにはいられなかった。
なぜ、真っ当な意見が潰され、不正の方がまかり通るのだろう。
そんな所からママが脱け出してくれて本当に良かったけれど、今でも不満だ。
正義よりも悪の方が勝るなんて、あってはならないはずだ。
けれど、ママは完全に諦めてはいなかった。
ところが、今度応募した先は、
なぜか接客ではなく、品出しという職種で、しかも釣り専門店だった。
いや、着物以上に興味ないだろ。
そう思ったわたしだったけれど、
結局、また条件の問題で断られてしまったようだった。
面接を受けることすらも出来ないなんて…
ママは現実に打ちのめされ、悲観に暮れてしまった。
確かに、何度も応募しているのに、
一度も面接まで行けていないのは、さぞ辛いことだろう。
娘のわたしが思うに、面接さえしてもらえれば、あとはママのものだろうに。
ママほど感じが良くて、接客が丁寧な人はいないのだから。
(あのブラック企業め、ママのような人材を失って、いつか地に落ちればいい)
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