第29話 歴史の架け橋

 待ちに待ったTAKUYAからの呼び出しがあったのは、大吾が土砂降りの公園であの女性と言葉を交わしあい、その足で角屋プロ本社に掛け合いに行った三日後。前売り券の投票企画の告知とともに、豊橋レナの決意表明がWEB配信で流れた翌日の朝のことだった。

 この二日間はなんとかもっていた天気も、今日は朝からまた雨。雪にならないところを見ると、どうやらこの冬は暖冬ということらしい。

「TAKUYAさん」

「おう、野獣。今日は傘の使い方を覚えてきやがったな」

 TAKUYAが指定してきた集合場所は都心の某駅。「いよいよ敵に切り込む準備ができた」と彼は電話で言っていた。この地に根城を置く敵といえば、「週刊文芸スプリング」の編集部にほかならない。

 三日前、濡れ鼠のまま角屋プロに押しかけた大吾に対し、そこに居合わせたTAKUYAは「水も滴る野獣かよ」と笑いながら、少しの間だけ待っていろと言ったのだ。酒田を守る手札を揃えるから、と大吾を宥めるように付け加えて――。

 そのTAKUYAが遂に自分を呼び出してきたということは、その手札とやらが揃ったということなのだろう。

「TAKUYAさん、文芸スプリングに乗り込むんすか」

「ああ。お前、ボディガードな。流石に、お前の顔見て掴みかかれる奴はいねーだろうから」

「はいはい」

 そういえば、仕事場には常に女性マネージャーを連れ立っていたはずのTAKUYAだが、今日は大吾との待ち合わせに一人で現れていた。もちろんサングラスとニット帽で顔を隠してはいるが、彼ほどの大スターが単身で街を出歩くというのは奇特なことにも思えた。

 大吾がそれを尋ねると、TAKUYAはニヤリと笑って言う。

「こんな戦争にジャーマネを巻き込む訳にはいかねえだろ。いいか、これは俺が一人で勝手にやることなんだよ」


 稀代の大スターがいきなり姿を現したことで、「文芸スプリング」の編集部内はたちまち騒然となった。中には大吾のサングラス越しの顔を見てぎょっとする社員達もいるが、多くの者はそれどころではないようだった。

「編集長です。人気アーティストのTAKUYA様が何の御用ですかな」

 長髪にヒゲの男がガリガリと頭を掻きながら二人の前にやってきた。当然ながら、歓迎する気は全く無いらしい。

 その男は、TAKUYAの後ろに立つ大吾にもちらりと一瞥をくれ、露骨に眉間にシワを寄せた。

「編集長さんか。単刀直入に言うぜ。次の号に載ることになってる酒田監督の記事……あれの掲載を取りやめて欲しいんだよ」

「ハア?」

 敬意も遠慮もヘッタクレもない声で、男はTAKUYAの言葉を瞬時に突っぱねた。大スターなど怖れるに足らない、と誇示するかのような態度で。

 周りの社員達も、そんな編集長の対応に気を大きくしたのか、敵意を剥き出しにした怪訝そうな目をTAKUYAと大吾に向けてくる。

「残念ですがぁ……大物政治家のご子息であらせられる大スター様の頼みといえど、それは応じられませんねえ。止めろと言われて記事を止めてちゃあ、報道の使命が果たせないんでね」

「はっ。報道の使命ねえ」

 TAKUYAもTAKUYAで、相手を鼻で笑って見下すことを躊躇う様子はなかった。引いたら負けだ、と彼は考えているのだろうか。

「まあ、そっちもビジネスだろうからよ。タダでとは言わねえ。この俺様の女関係のスキャンダルを、二、三、まとめてすっぱ抜かせてやるよ。既に相手の了承も取り付けてある。……どうだ、編集長さん、それで酒田監督からは手を引いちゃあくれねえか」

 TAKUYAの繰り出した言葉に、大吾はサングラスの下で目を見張った。まさか――手札を揃えると言っていたのは、そのことだったのか?

 だが、大スターの切り札も、悪徳ジャーナリストの頭領には通用しないようだった。

「それはできない相談ですねえ。酒田氏の素顔を暴く記事が載ることは、もう決定事項なのでね。さあ、お引き取り願いましょう」

「……仕方ねえ。交渉決裂だな」

 こちらを舐めきったような表情で腕を組んだ編集長に、TAKUYAはさらりとそう答えた。

 ……えっ、もう終わりなのか?

 TAKUYAの真意がわからず、大吾が思わず彼の顔を見たところで――

「もう九時だな。電話の外線が開く時間だろ?」

 世間話のようにTAKUYAは言った。編集長が、こいつは何を言っているんだ、とでも言いたげな顔で首をひねる。

 まさしくそのとき――近くのデスクの固定電話が、プルル、と古風な呼び出し音を鳴らし始めた。

 大吾らを睨みつけていた社員の一人が、さっとその受話器を取る。

「はい、文芸スプリング編集部。……は? ニズディー?」

 受話器を手にした男性社員は、初めの内は怪訝そうな顔で相手の話を聞いているようだったが、一つ相槌を打つたびに見る見るその顔面が蒼白になっていくのが大吾にもわかった。

「おい、何だその電話。スピーカーに出せ」

 編集長の険しい声が飛んだ。男性が指先を震えさせながら電話機のボタンを押すと、どこか冷たく無機質な空気を伴った女性の声が、大吾らにも聞き取れる音量で室内に響きわたる。

『御社が記事の差し止めを約束して下さらなければ、我々ニズディー・ジャパンも本社に報告を上げられません』

 どうやら尋常な用件ではない、ということは、編集長も勘付いたようだった。

 彼はつかつかと部下に歩み寄って受話器を奪い取り、苛立ちを隠せない声で怒鳴った。

「スプリング編集長だ。何だ、記事の差し止めって。ちゃんと説明しろ」

『編集長さんですか。では、よくお聞きください。ニズディー米国本社の渉外部が、御社が掲載を予告している酒田浩平氏の中傷記事の差し止めを要請しています。掲載を断行する場合、今後一切、ニズディーは新作映画を日本に配給しない、と』

「な、何だと……?」

 受話器を手にする編集長の顔が、苛立ちや怒りとは違う何かに塗り潰されていく。

「おたく、ニズディーって、あのニズディーか!? それがなんで酒田の件に絡んでくる!」

『酒田氏の代表作マスターピースである『サンダーファイブ』は、今なおニズディーグループの重要な知的財産です。ご事情ご賢察ください。米国本社は身内への中傷に神経質ナーバスなんですよ』

「中傷だと……我々は報道の自由を行使しているだけだ! いい加減なことを言うなら――」

『では、確かにお伝えしましたので』

 編集長のキレ気味の反応にも動じず、相手の女性はあっさり通話を終えてしまった。

「クソッ!」

 編集長が醜い悪態をつくいとまも許さず、電話機から次の着信が鳴り始める。今度は編集長自らが受話器を取った。

「はい、スプリング編集部! はぁ? センチュリードッグス?」

 スピーカーになったままだった電話機から相手の声が溢れる。今度の相手は、ハリウッドの映画制作会社の日本法人だった。

『サンダーファイブのハリウッド・リメイクの企画が動いてるのはご存知ないんですか。米国あっちの制作責任者は、おたくが酒田監督の中傷を仕掛けようとしてると聞いてカンカンです。そんな野蛮なジャーナリズムがまかり通る国には、「リベンジャーズ」の続編をはじめ、今後新作を委ねることはできないと』

「な、何を言って――」

『サンダーファイブもリベンジャーズも、制作費ウン百億の大作ですよ。それが日本に来ないとなったら我々は丸損です。その時は文芸スプリングさんにきっちり損害賠償請求させて頂きますので、そのおつもりで』

 通話が切れた後も、編集長は受話器を手にしたまま、呆然と誰もいない空間を眺めているだけだった。

 他の社員達もオロオロとした様子で彼の方を見ている。やっとのことで編集長が発した言葉は、怒りではなく困惑に満ちていた。

「……何なんだ、これは。どうなってやがんだ。なんで、たかがジャリ番の監督ひとり守るのに、ニズディーだのハリウッドだのが出てくるんだ」

 事態を静観していたTAKUYAが、そこでやっとフフンと笑った。

「決まってんだろ。酒田さんの撮るジャリ番は、世界の宝だからだよ」

 冷徹な言葉の矢が悪の権化を刺し貫き、編集長はヤケバチのように受話器を叩きつけて言った。

「クソ! おい、このヤマからは撤退だ、撤退! ストックから代わりの記事でっち上げてぶち込んどけ」

「そんな、編集長。こんな横槍に屈するんですか」

生意気ナマ言ってんじゃねえよバカが! 俺達がニズディーやらセンチュリーやらを怒らせて、今後日本に映画が入って来ねえなんてことになってみろ……バッシングも賠償も天文学的な規模になんだぞ。お前、払えんのか」

 ぎろりと編集長の視線をぶつけられ、部下達は誰も何も言えなくなっていた。

「じゃ、俺達はこれで退散するんで」

 TAKUYAが冷ややかに言い放つ。編集長はキッと恨みの籠もった視線を二人に向けてきた。ニズディーやハリウッドに情報を伝えたのが誰だったのか、大吾が勘付いているのと同じように、編集長にも最早わかっているようだった。

 小悪党は、最後に捨て台詞を吐くことだけは忘れなかった。

「クソッ、覚えとけよ! いつか……いつか我々『スプリング』が、世の中の報道を支配する立場になってやるからな!」

「でっち上げゴシップを支配する、の間違いだろ」

 さっさときびすを返して編集部を出て行くTAKUYAの後を、大吾は慌てて追いかけた。


「おい、あれ」

 文芸スプリングの社屋を後にし、傘を連ねて駅に向かって歩いていたところで、ふとTAKUYAが何かを指差した。大吾がその指すものを見上げてみると――交差点を見下ろす大型の街頭テレビに、私服姿の豊橋レナが映っていた。

 画面隅のテロップには「入院先の病院より生中継」とある。アイドルグループの御用レポーターと見える女性が、レナにマイクを向けていた。

『レナさん。この度は思い切ったご決断をなさいましたね』

『ぜんぜん。わたし、責任は取らなきゃいけないなって考えただけです。当たり前じゃないですか』

『しかし、仮にいち映画の監督が降板という事態になったとしても、それでレナさんが名古屋エイトミリオンを辞める必要まではないのでは?』

『……わたしね、怪我しちゃってすぐの時、酒田さんに食ってかかったんですよ。撮影止めないでください、アクションできなくても、どんな役でも出ますから――って。そうしたら、共演者のTAKUYAさんに、すっごい怒られちゃって。お前の役がなければ映画が成り立たないんだ、仕事を舐めるな――って。それでわたし、ずっと考えてたんです。責任を持って仕事をするって、どういうことなんだろう……って。そんなこと、今になって考えてるようじゃ遅いんですけどね。ごめんなさい』

『では、投票で酒田監督が選ばれなかった場合はご自身もアイドルを卒業してしまうというのは、レナさんなりの責任の取り方であると』

『はい。そのくらいしないと申し訳が立たないですから』

『ははぁ……。それはぜひ、前売り券を買われた皆さんが、レナさんの思いを汲んで、酒田監督に票を投じて下さることを祈りたいですね』

『わたしからお願いはできませんけどね。わたしはただ、お客さんの皆さんが出される結果を受け止めるだけですから』

 しれっとそんなことを言ってのけ、したたかな微笑みを見せるレナ。

 とんだ茶番だが、ネットのうるさい声を黙らせるにはこのくらいでちょうどいいのかもしれない。大吾がそんなことを考えながら、雑踏の中で街頭テレビを見上げていると、隣でTAKUYAが満足げに笑った。

「フン。随分と肝の据わった顔になったじゃねえか、嬢ちゃん」

「……TAKUYAさん、豊橋レナを叱ったんですか」

「いやあ、恥ずかしいことに、俺様もつい頭に来ちまってよ。……だけどまあ、大人気おとなげないお説教をしちまった甲斐はあったみたいだぜ」

 二人の周りでは大勢の人達が足を止め、豊橋レナのインタビューに目と耳を向けていた。

 女性レポーターは辛気臭い雰囲気を一旦仕切り直し、映画でレナが変身する女バイカーマスクのパネルを持ち出すなどして、話題を切り替える。どうやらこれは謝罪会見でも何でもなく、そういうノリの中継らしい。

『大の特撮ファンとしても知られるレナさんですが……レナさんにとって、特撮とは何でしょう?』

『えーっ、いきなり難しいですね。うぅん……特撮っていうのは……歴史を未来に繋ぐ架け橋、かな』

『ほぉ。そのココロは』

『えーとですね……恥ずかしいなあ、もう。……あの、バイカーマスクとかアルファイターのシリーズって、もう何十年も続いてるワケじゃないですか。今の子供達は、最初のバイカーマスクやアルファイターなんて観たことないんですよ。これまでにどんなバイカーやアルファイターが居たのかとか、普通にテレビを観てるだけじゃ知る機会もない。図鑑とか熱心に読んでる子は別ですけど』

『レナさんはそういう子供だったんですよね?』

『いやいや、ふふっ、わたしのことはいいんですけど……。それでね、わたしが言いたいのは、初代のことを知らなくたって、バイカーやアルファイターはどんどん新作が作られてて、今の子供達はそれを楽しんでる、ってことなんです。これって凄くないですか? ドラえもんとかサザエさんとか、長く続いてる作品は一杯ありますけど、ほら、長寿アニメって、別にキャラが代替わりしたりはしないじゃないですか。トーマスはずっとトーマスだし、アンパンマンもずっとアンパンマンだし。だけど特撮は、どんどん次の世代のヒーローが出てきて、歴史を塗り替えながら一つのシリーズが続いていくんですよ。前の世代のヒーローが忘れ去られても、子供達はその時その時の新しいヒーローに夢中になってる。役目を終えたヒーローが次のヒーローに交代することを繰り返しながら、どんなに時代が変わっても、シリーズそのものはずっと続いていく。そういうロマンって言うんですか。一つ一つのヒーローの寿命は短いけど、どのヒーローも、シリーズの歴史を未来に伝える架け橋になってる。……わたしの演じるバイカーマスク・ジャンヌも、その架け橋の一つになるのかなー、って思うと……ちょっと泣けてきちゃったりして』

 豊橋レナの瞳には本当に涙が光っていた。純白のハンカチでそれを拭って、彼女は気恥ずかしそうに微笑んだ。

 レポーターが、うんうんと頷き、レナの言葉を要約する。

『ヒーローが交代してもシリーズは続いていく、歴史の架け橋、ですか。……それはひょっとしたら、メンバーが卒業して入れ替わっていくアイドルグループも、同じなのかもしれないですね』

『そう、そうなんです。……あの、いいですか? ここからちょっと自分語り入っちゃうんですけど』

『レナさん。ここまでも全部自分語りでしたよ』

『えー、違いますよ、ここまではマジメに特撮の話してたじゃないですか。ここからはわたしの勝手な夢の話です』

『おっ、レナさんの夢ですか。それはぜひ聴きたいですね』

『……や、だから、かしこまると恥ずかしいんですけど……。わたし達って、名古屋エイトミリオンの一期生で。先輩が居ないんですよ。もちろん、秋葉原エイトミリオンの先輩達はいらっしゃいますけど、名古屋ではわたし達が最初のメンバーじゃないですか。歴史が無いのって弱いなー、って最初は思ってたんですよね。……でも今は、後輩の子達もどんどん入ってきて、グループの中にいくつもの世代が積み重なってきて。わたし思ったんです。わたし達の前には道は無かったけど、わたし達の後には、ちゃんと道が出来ていくんだなって』

『ああ、そうやって語ってると、レナさんも先輩の貫禄バリバリですね』

『もう、やめてくださいよ。……それでね、特撮と同じように――って言っちゃうと、調子に乗るな、って怒られちゃうかもしれないですけど。わたし達は、伝説の土台にならなきゃいけないな、って思うんです』

『伝説の土台、ですか』

『ほら、バイカーマスク1号や初代アルファイターが表舞台から居なくなっても、今の最新のヒーローが子供達に愛されてるみたいに……。わたし達も、わたし達だけで名古屋エイトミリオンの歴史を終わらせたくないんです。オリジナルメンバーがみんな卒業したらグループ自体も無くなっちゃうみたいな、そんな存在にしたくない。わたし達が卒業して、何年も何十年も経ったときに……「名古屋エイトミリオン、そういえば昔そんなのあったね」って言われちゃうの、寂しいじゃないですか。「知ってる知ってる、名古屋エイトミリオン。今年の新規メンバーも可愛いよね」って、何十年後でも、ひょっとしたら何百年後でも、ずっと誰かが言い続けてくれるグループでありたいんです。その時は、もう誰もわたしのことなんて覚えてないだろうけど、それでも、わたし達の作った歴史は未来に繋がる。……そんな架け橋になるのが、今のわたしの夢なんです』

 うっとりした表情を浮かべて語る豊橋レナの言葉は――普通に聞けば陳腐で空虚な美辞麗句かもしれなかったが、なぜか大吾の胸にはじいんと響いた。

 大吾達の作っている特撮の作品だって、一つ一つはすぐに忘れ去られていく。メインターゲットの子供達は、ほんの数年もすれば大吾の演じたヒーローのことなど忘れる。関係者全員が熱い魂を注ぎ込む今回の映画だってそうだ。たとえどんな名作になったとしても、数年後にはレンタルビデオ店の棚の片隅に埋もれ、一部のマニアにしか顧みられなくなる。

 だが、それでも特撮の歴史は続く。時代時代に合わせた新しいヒーローが、その時その時の子供達を喜ばせ、何十年と続いたシリーズの歴史をさらに何十年先の未来へと伝えていく。

 インタビューが終わり、カメラに向かって最後の挨拶をする豊橋レナの笑顔は、そんな歴史の紡ぎ手に相応しい輝きに満ちているように思えた。

「この子……マジで伝説になるかもしれないすね」

「どうだかな。人は一年で飽きる。五年で忘れる。どんな人気者も、十年も経てば『あの人は今』だろうよ。それをかいくぐって運良く芸能人で居続けられんのは、ほんの一握りの奴だけさ。……だがまあ、それでもいい、って嬢ちゃんは言ってるわけだ。自分自身が忘れ去られても、後輩に残したものは未来に繋がる――」

 ばん、と大吾の背中を叩いて、TAKUYAは青信号に変わった交差点を歩き出す。

「見直したぜ、豊橋レナ。さあ、あとは酒田さんが戻ってくるのを待つだけだ」

 そう言って大スターはからからと陽気に笑う。彼の隣に並んで歩く一歩一歩が、大吾にはたまらなく誇らしく思えた。

「お前、今夜空けとけよ。銀座ザギンのクラブ連れてってやる」

「ザギンって。TAKUYAさん、バブルの時代の人じゃないっしょ」

「うるせえよ。お前、エイトの仮面マスク被って来いよな。女の子が泣いちまうから」

 一瞬、本当にアルファイター・エイトのマスクを持ち出していいものかどうか真剣に迷ってから、大吾は笑った。


 そして、この二週間後――

 豊橋レナが報道陣に囲まれて退院したその日、圧倒的な票数で、春映画への酒田監督の再登板が決定した。

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