アルファイター冒険記(オデッセイ)【下】


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 照準レティクルの先には幾体もの巨大怪獣の姿。超巨大円盤に覆われた空の下、炎に飲まれるビル街を我が物顔で蹂躙する、憎き侵略の尖兵達だ。

「……タク隊長。力をください」

 アッカが駆るのは、格納庫ハンガーに眠っていたタク隊長の愛機。主翼の下では、二人分の闘志を乗せたミサイルが今か今かと発射の時を待っている。

「どうするの、指揮官センター! 敵はあんなにいるよ!」

 僚機からの交信が機内に響く。どうするもこうするもない。この惑星ほしに残された最後の戦力として、自分達はいつでも、やるべきことをやるだけだ。

「二機ごとに分かれて各個撃破! ユーコとマリー、マハルとトモ! わたしのペアはカミナ――行くよ!」

了解アイアイ指揮官センター! 盛り上げていこう!」

 彼女の言葉通り、僚機は二機ずつに分かれて大空に散らばっていく。複数の怪獣を同時に相手にするのは彼女達にも初めてだった。どこまで行けるか――いや、やるしかないのだ。

 だが、アッカがカミナ機と連携を取り、巨大怪獣に機銃の掃射を始めようとした、その刹那。

「テエリャアア!」

 目にも映らぬ速さで彼女達の最大戦速を追い抜いた巨神の影が、照準レティクルの遥か向こうで炎を纏って怪獣に突っ込み、一撃で怪獣を爆発四散させていた。

「アルファイター! あの野郎……!」

 ぎりりと歯を食いしばるアッカの視界の先で、他のペアが攻撃しようとしていた標的も、見る間に巨神の光線技を浴びて倒されてゆく。

「ふざけんな、アルファイター! ウチらは助太刀なんて頼んでねえんだよ!」

 カミナの苛立ちに満ちた声が交信を通じてアッカの耳にも響いた。アルファイター・エイトも負けじと、例の意識に直接届く声で言い返してくる。

『この俺がいながら、お前ら人間を危険な目には遭わせられねえ。タク隊長とやらも、お前らが討ち死にすることなんか望んでねえはずだ!』

「勝手に隊長の思いを語ってんじゃねえよ……!」

 言い争いをしてばかりもいられない。彼女達の出撃を、そしてアルファイターの登場を察知したのか、都市上空の超巨大円盤から、無数の戦闘円盤がわらわらと飛び出してきたのだ。

 アッカと僚機達はただちに戦闘態勢に入るが、巨神の展開した光のバリアが、お節介にも敵機のビームを全て遮ってくる。

「クソッ……!」

 せめて自分達も敵の撃破を、と思って機銃の照準を定めようとすれば、それより遥かに早く放たれた巨神の光線が、アッカの視界に映る敵の円盤を幾十も同時に爆散させる。

 アルファイターの圧倒的な力の前に、アッカ達の戦力など子供のおもちゃにも等しかった。……そんなことはわかっていたのだ。アルファイターに死の淵から救い上げられた瞬間から。だが、認めたくなかった。自分達が無力で、守られるだけの存在だなんて。

「タク隊長……わたしは……!」

 全ての円盤を撃破し終えた巨神の背中を、アッカが悔しさに唇を噛みながら見ていると――

「やるじゃないか、アルファイター。だが、これ以上、我々侵略連合の邪魔はさせん」

 突如、敵の超巨大円盤から醜悪な声が響いた。アルファイターが「誰だ、てめえ!」と音声言語で言い返している。

「我こそは侵略連合の首領、ウェルズ星人! 今日この日からは、銀河の帝王ウェルズと呼んでもらおう!」

 高笑いとともに、円盤の上に邪悪な宇宙人の姿が巨大なホログラムで浮かび上がる。アッカは僚機達とともに超巨大円盤の周囲を遠巻きに旋回しながら、いつでも攻撃に移れるようトリガーに指をかけていた。

 だが。

「てめえ、その球は――」

 巨神の言葉にアッカも目を見張る。ホログラムが映し出すウェルズ星人とやらの手には、先程のあの黒い球体が握られていたのだ。

「はっはっはっは! まさかこんな辺境の恒星系で『これ』に出会えるとはな! 幾百幾千の並行宇宙パラレルスペースを滅ぼしてきたと伝わる究極のデバイス――さあ、今こそ我が望みを叶えたまえ!」

「させるか!」

 巨神がすかさず両腕をクロスさせ、必殺の光線を超巨大円盤めがけ放ったが――

 その光の奔流は暗黒の渦に行く手を阻まれ、円盤の本体まで届かなかった。そして、醜悪な宇宙人の高笑いの中、円盤を囲む暗黒の渦の中から、巨大なアルファイターの身長の更に何十倍もあろうかという、おぞましい姿の超巨大怪獣が立ち上がる。

「はははははっ! 我はこの球に願ったのだ! 銀河の守護神、アルファイターをも血祭りに上げる究極の力をォォォ!」

 晴れ渡っていたはずの空はいまや、どす黒い暗雲に覆われていた。

 侵略者、ウェルズ星人はその超巨大怪獣の頭部に融合し、高笑いを上げ続けていた。アルファイターが間髪入れず光線を浴びせかけるが、瘴気しょうきの渦に阻まれて全く通用しない。

「滅べ、滅べェェ! アルファイター、そして人間どもォォォ!」

 怪獣の発する邪悪な波動の渦がアッカの機体をも激しく揺さぶる。彼女は必死に操縦桿を握り、なんとか機体の姿勢を立て直しながらも、自らの身体が戦慄に震えるのを止められなかった。

「こんな……こんなことって……!」

 ホログラムの少女、マヤヤの笑みがアッカの脳裏に蘇る。あんな無邪気な微笑を浮かべながら、「彼女」は今までどれほどの災厄を呼び出してきたのだろう。あの黒い球の恐ろしさは――心の清い者の願いだけを叶えるといったものではなく、どんな邪悪な者の、どんな恐ろしい願いでも容易く叶えてしまうところにあるのだ。

「グアアァァァッ!」

 アッカの視界の向こうで、アルファイターが苦痛に唸って地面に叩きつけられる。超巨大怪獣の足がその背中を容赦なく踏みつけ、苦悶の声を上げさせている。

 あれほど無敵を誇ったアルファイターが、なすすべもなく……。

「クソッ……! このまま……このまま、わたし達の世界を滅ぼされてたまるかぁぁっ!」

 アッカは操縦桿を引き倒し、戦闘機をまっすぐ超巨大怪獣の前へと向かわせていた。操縦席に染み付いたタク隊長の優しい匂いが、彼女に勇気を与えてくれる。

 ミサイルの照準を怪獣の頭部に合わせ、発射スイッチを押し込む。超高速の射出に機体が揺れ、彼女の眼前で四発の弾頭が狙い通りに敵に叩き込まれる。だが――。

「人間如きが、そんなもので我に傷一つ付けられるとでも思ったか!」

 怪獣が無傷のまま咆哮を上げ、アッカの機体めがけて暗黒の波動を放ってくる。

 やられる――!

 アッカが目を見開いた、その時。

『死なせるかよぉぉっ!』

 いつの間にか彼女の機体の前に飛び出していたアルファイター・エイトが、四肢を広げてバリアを展開し、波動から彼女を庇っていた。

「アルファイター!」

『早く、今の内に逃げろ!』

 頭に響く巨神の声は苦しそうだ。巨神の胸に埋め込まれたライトがぴかぴかと明滅し、危機を知らせていた。光のバリアはばちばちと火花が爆ぜ、今にも破られそうなのが見てわかる。

「アッカ!」

 カミナ機からの交信の声。果敢に敵に飛び込んだのはアッカ一人ではなかった。見れば、カミナらの機体が次々と怪獣の周りを取り囲み、機銃やミサイルを浴びせかけている。

「無駄だ、人間どもォォ!」

 怪獣が放つ波動を間一髪で避け、僚機が再び大空に散開する。その間際、アッカの耳を刺す戦友たちの声。

「アッカ! 諦めないで!」

「一人じゃない。わたし達がいる!」

 カミナが、ユーコが、マリーが、マハルが、トモが、交信で口々に彼女に呼びかけてくる。諦めるなと。

『何してやがる! 早く逃げろっ!』

 アルファイターのバリアがいよいよ破られるその瞬間、アッカは操縦桿を思い切り引き、機首を上げて急角度で高空へ舞い上がっていた。

 機体にもうミサイルは残されていない。だが、最後の最後まで敵に食らいついてやる。

「ああぁぁぁっ!」

 滅茶苦茶に機銃を撃ちまくりながら、アッカは炎を吐き出す怪獣の頭上へ急降下していく――

『バッカヤロォォォ!』

 瞬間、風を纏ってアッカの機体と怪獣の間に滑り込んだアルファイター・エイトが、ふわりと光の網を展開してアッカの乗機を受け止めていた。

 同時に、巨神の背中に超巨大怪獣の炎の波動が浴びせられ、その輝かしき巨体が、宙に浮く力を失ったように力なく大地に叩きつけられた。

「アルファイター……っ!」

 彼の力で作り出されていた光の網も消え失せ、惰性で飛ぶアッカの機体に再び怪獣の炎が迫る。

「ははははは! 思い知れ、人間とアルファイターめ! 貴様らは所詮無力なのだァァァ!」

 邪悪な宇宙人の哄笑が聴覚を侵掠する中、アッカの視界は真っ赤な炎に包まれた。

 ――死ぬ? 今度こそ。

「アッカぁぁぁ!」

 仲間の声が、最後まで機内に響いている。

 コンソールの計器が悲鳴を上げている。まだこの機体は飛べる――だが、もう、反撃の武器がない。いや、どんな武器を向けても、あの敵にはかなわない。

 背後から何かの破裂音が響き、操縦席コクピットを炎が包む。

「……クソッ」

 耐火服を通じても伝わる炎の熱さに身悶えながら、アッカは吹っ飛びそうな意識の中で必死に操縦桿を握っていた。――それを離せば、もう楽になれる?

 ――悔しい。せめて……せめて敵と刺し違えて死ぬならよかったのに。

「……みんな……ゴメン」

 アッカが諦めて目を閉じようとしたとき――


「あなたの願いは?」


 彼女の眼前に現れたのは――あの、黒い球体。

 幻ではない。炎を上げるコクピットの中、目の前にその球とホログラムの少女が浮いている。

「願いを、どうぞ」

 少女は言った。どこまでも優しい声で。

「願い……」

 偶像マヤヤは叶えると言うのだ。一人に一つ。心の底から望んだ願いを。


「――みんな」

 彼女の脳裏に浮かぶのは、戦友たちと笑い合い、励まし合ってきた日々の走馬灯。

 ユーコ。

 カミナ。

 マリー。

 マハル。

 トモ。

 誰もがかけがえのない、彼女の仲間達。

 このを消してはならない。仲間達と必死に守ってきた希望の灯火ともしびを――邪悪な侵略者なんかに、吹き消されてはならない。


 ――そして、エイト。二度も自分を救ってくれた命の恩人、アルファイター・エイト。

 勝手にタク隊長の姿を使ったり、わたし達が戦いに向かうのを止めようとしたりと、いけすかないところも多いが――それでも、彼が死んでいいはずはない。わたし達の世界を守るために、彼が犠牲になっていいはずがない。


「この惑星ほしを……皆を守る力を!」


 炎の中で叫んだとき、彼女の視界は、真っ白な光に塗り潰された。

 何が起きるのかはわからない。だが――

 「あなたの願いは聞き届けられた」――そうアッカに告げるかのように、偶像マヤヤは微笑み、球とともに目の前から消えた。

 あとは灼熱に焼かれるだけだったはずのアッカの身体を、優しく包み込むものがある。――それは、エイトに初めて救われたときと同じ、暖かな光。

「……これは?」

 己の願いが何を呼び出したのか、アッカははっきりと悟った。

 ――そうだ。独りではない。巨神かれらも、わたし達も。


 激しい閃光が晴れたとき、彼女が見たもの――それは。

 倒れ伏したアルファイター・エイトを囲むように立つ、二つの巨大な人影。

 時空を超えてこの惑星ほしに降り立った、新たな光の巨神。暗黒の空を光で染め上げ、巨悪を前に並び立つ神々しき姿は――

「慈愛の巨神、アルファイター・ラジアンス!」

 優雅な動作で見得を切る、青き慈しみの光の巨神。

「アルファイター・マイト、只今参上!」

 激しい勢いで名乗りを上げる、赤き怒りの光の巨神。

 ――祈りは、届いた!


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 光エネルギーを分け与えられる暖かな感触とともに、エイトの意識は覚醒した。視界の先に戦友たちの姿を認め、エイトは再び力の満ちる身体を瓦礫の中に立ち上がらせる。

「来たか、ラジアンス、マイト!」

「ああ、僕達にも聴こえた。助けを呼ぶ切なる声が」

「ここからが本当の戦いだ!」

 胸部のリミッター・ライトにきらきらと光が満ちている。エイトは悟っていた。自分を助けてくれたのは戦友の二人だが、その彼らを呼び寄せたのは――この惑星ほしを守るために懸命にあがき続けた、あの少女達の想いにほかならない。

 全身にパワーが漲るのがわかる。単なるエネルギーの量だけではない――背後にある者達の想いが、彼に「戦え」と促している。

 互いに素早く頷き合い、エイトは二人と同時に空へ飛び出した。この惑星ほしの小さな引力を軽く蹴り、その身体が風を纏って宙を舞う。

「おのれェェ、小癪なアルファイターども!」

 超巨大怪獣の頭部に合体した侵略宇宙人が叫びを上げ、怪獣の身体の各部からさらに多くの怪獣が分裂して現れる。天地に溢れる怪獣の群れ――だが、そんな有象無象など今の彼らの敵ではない。

「ムーンライト・フリーザー!」

 青き巨神ラジアンスの振り撒く冷気の竜巻が、無数の敵を一瞬で大地に凍り付かせ――

「ストロング・フラッシュ!」

 赤き巨神マイトの放つ灼熱の閃光が、雄々しく怪獣どもを焼き尽くす。

「エメラルド・エイトシュート!」

 エイトも必殺の光波熱線を空の全域めがけて放った。空中を埋め尽くしていた飛行怪獣の群れが叫びを上げ、爆炎の塵と化して大地に降る。

「残るはお前だけだ、ウェルズ星人!」

 ラジアンス、マイトと並んで風を切り、エイトは超巨大怪獣をまっすぐ目指す。――だが、その時。

「喰らえェェ!」

 超巨大怪獣の全身から突如発せられた無数の触手が、エイトら三人の身体を宙に縛り付けた。

「クッ!」

 ばりばりと触手を通じて走る電撃に、エイト達の全身が火花を上げる。

「はははははっ! 死ねぇぇ、アルファイターどもォォォ!」

 怪獣の口から巨大な波動が吐き出される、その直前――

「させるかよォォォッ!」

 少女、アッカの叫びが戦場に木霊し――

 大口を開けた超巨大怪獣の頭部へ、彼女の戦闘機が音速で突っ込んでいく。

「あいつ!」

 エイトは見た。操縦席コクピットから射出されたパラシュートが風に煽り上げられ、無人となった戦闘機が怪獣の口の中へ飛び込むのを。

 ――あの機体は、彼女が慕う隊長とやらの大事な形見ではなかったのか?

「グギャアァァァッ!」

 怪獣の喉元が爆発して吹き飛び、痛覚を共有しているらしいウェルズ星人が怪獣の頭部で苦しそうに唸りを上げる。

「あの女、やりやがった……!」

 白いパラシュートとともに地面に叩きつけられる少女の姿をちらりと見ながら、エイトは敵に生じた大きな隙を突いて触手の戒めから逃れる。地上に起き上がった少女は、親指を立てた拳をぐっと空に向かって突き出してきた。

 ――決めるなら、今しかない!

 エイトは二人の戦友と空中に並び、光の力を最大限に解き放つべく両腕の構えを取る。ラジアンスが、マイトが、そしてエイトが、巨悪の権化めがけて究極の光線を撃ち出す。

「ルナリウム・クロスシュート!」

「マイティウム・エクスプロージョン!」

「ツイン・エメラルド・スパァァァク!」

 三つの光の渦は螺旋を描いて炸裂し、ウェルズ星人の断末魔の叫びを爆音でかき消して、超巨大怪獣の身体を粉々に吹き飛ばした。

 同時に、ウェルズ星人が操っていた都市上空の超巨大円盤が、浮遊力を失い、残骸と化して街に降り積もる。それはこの惑星を狙う侵略の魔の手が潰えたことを意味していた。

 エイトは二人とともに大地に降り立ち、地上のアッカと、各々の機体で空を周回する他の少女達に、親指を立てて頷いた。


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 侵略宇宙人に拉致されていた人々が次々と地上に戻され、瓦礫の街は混乱と喜びがぜになった声に包まれている。

 再び「タク隊長」の姿となったエイトは、アッカら六人の少女、そして少年シュンとともに、黒い球のホログラムと向き合っていた。エイトの手にした球から浮かび上がる「偶像マヤヤ」の表情は、救いを見出したような穏やかな笑みをたたえていた。

「数多の文明の滅亡に立ち会ってきました。そんなわたしの冒険記オデッセイも、ようやく終幕を迎えるのかもしれません」

 エイトの戦友、ラジアンスとマイトは巨大な姿を保ったまま、瓦礫の街から彼らの様子を静かに見守っていた。

 エイトの目をまっすぐ見て、マヤヤが言う。

「銀河の勇者にお願いします。……わたしに、最後の願いを」

「いいのか」

 艶やかな黒髪を揺らし、少女はこくりと頷いた。彼女が何を促しているのかは、エイトのみならず、アッカ達にもわかっていることだろう。

 エイトは「タク隊長」の声帯を震わせ、超文明の生んだ意思疎通端末インターフェースに「願い」を告げる。

「望みを叶えるデバイスよ……永遠に、消えてなくなれ」

「ありがとう」

 光の粒子となって消えてゆく刹那、マヤヤの黒い瞳に涙が光ったように見えた。

「あなた達は、全ての宇宙の未来を救ったのです」

 吹きゆく風の中に、少女の声が優しく響いていた。 


「み、みんな、あれ――!」

 アッカが突然声を上げた。彼女が震えながら指差す先には、軍服を着た一人の男が、こちらへ向かって歩いてきていた。

 あの顔は――。エイトの鋭い視力がその顔貌を捉える。……いや、人間並みの視力しかなくとも、彼女達はどんなに遠くからでも「彼」に気付くのに違いない。

「タク隊長っ……!」

 アッカら六人がたちまち喜びに身を震わせ、涙を散らしてその男に駆け寄っていく。

「……そうか。生きてたんだな」

 エイトが独り言のように呟くと、傍らに立つシュンも嬉しそうに頷いた。

 アッカ達に囲まれて口々に涙声の言葉をかけられながら、その男がふとエイトらの方に視線を向け、そして驚きに目を見張るのが見えた。エイトはシュンを連れて彼の方へ歩み寄り、ふっと笑って頷いてみせる。

「き、君は……!?」

「俺はアルファイター・エイト。……あんた、なかなか骨のある奴らを育てたじゃないか」

 まだ驚いた顔で固まっているタク隊長の前で、エイトはアッカらに改めて向き直る。

巨神おれたちがいなくても、この惑星ほしを守っていけるよな」

「……当たり前じゃん。ここは、わたし達の星なんだから」

 アッカが涙でぐしゃぐしゃになった顔で答える。他の少女達も力強く頷いていた。

「じゃあな。この姿、あんたに返すぜ!」

 タク隊長に笑いかけ、エイトは眼鏡グラスをかざして本来の姿に戻る。その巨体を見上げる人間達の顔は、ちっぽけでも勇気と希望に満ちていた。

 空の彼方に次元の渦が口を開けている。エイトはこの星の小さな勇者達と頷き合い、ラジアンス、マイトとともに遥かな空へと飛び立った。

 この宇宙を訪れることは二度とないかもしれない。だが、エイトに不安はなかった。人間という生き物は、彼が思っていたよりもずっと強い。この世界は、この世界の人々が立派に守っていくだろう。

「アルファイター! ありがとーっ!」

 シュンの嬉しそうな声が、彼がこの並行宇宙パラレルスペースで聴く最後の音となった。


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 侵略者との戦いから数ヶ月が経った。街は焦土から立ち直り、復興への歩みを進めている。

「お待たせ、みんな! 復興支援ライブ、始まるよーっ!」

 何の因果か、アッカ達は国じゅうの被災地を巡っては、トラックの荷台の上で歌を歌って人々を励ます日々だ。仕方がない、と仲間達は笑う。戦いが不要となった世界で、わたし達にできる支援の形といえばこんなものだろう。

 ぱちぱちと拍手を送って彼女らを迎えてくれる街の人々の向こうでは、今や復興トラックの運転手が板についてしまったタク隊長の教導のもと、トレーニングに励むシュンの姿。いつかまた敵が来たときのために、タク隊長に弟子入りして立派な軍人になると彼は言うのだ。

 アッカは仲間と並んでマイクを持ち、覚えたての歌を歌い始める。ヘタクソでもいい。平和を祈る歌を、国じゅうの人達に届けよう。

 ユーコも、マリーも、マハルも、トモも、カミナも、この活動を心から楽しんでいるようだった。そんな彼女らの中心センターに立つアッカもまた、人々に笑顔を届ける日々に喜びを見出していた。

 ……と、そんな時。

 トラックの荷台から見下ろす「観客」達の中に、見知った顔がいるような気がして、アッカは歌いながら目を見張った。

 肩までかかる黒く艶やかな長髪。角度を計算し尽くして整えたかのような前髪。楽しそうにアッカ達の歌に耳を傾けている無邪気な笑顔。

 ――そうか。この世界に生まれ変われたんだね。


「あなた、わたし達と一緒に歌わない?」

 ライブの後、アッカ達が声をかけると、その少女はびっくりしたような目で彼女らを見返してきた。その瞳がすぐに、驚愕から喜びの色へと変わる。

「はい、ぜひ。一緒に連れてってください」

 タク隊長が爽やかな笑顔で彼女らを見守っている。シュンもその傍らで嬉しそうにしていた。

「わたし、マユって言います」

 少女の微笑みをアッカ達は笑顔で迎え入れる。

 新たな物語が始まる予感がした。


(END)

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