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アルファイター冒険記(オデッセイ)【上】

映画

『アルファイター冒険記オデッセイ

(201X年3月公開)


◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆


 誰かが彼を呼んでいる。誰かが助けを求めている。


 ――来て、アルファイター。ぼくたちを助けて。


 遠い銀河の彼方から、誰かが彼を呼び続けている。


 ――お願い、アルファイター。この惑星ほしを救って。


「助けてやりてえのは、やまやまだが……どこの誰かも分からないんじゃな!」

 MAXマックス星雲「輝きのその」のアルファイター十二神に名を連ねる若き巨神、アルファイター・エイトは、無限に広がる星の海を見上げながら叫んだ。

 今の声は一体どこから聞こえたのか。彼の聴覚みみをもってしても座標は特定できなかったが、だからこそ、感覚はだで確かにわかることがある。

 助けを求めるあの声の主は、に居るのではない。あれは――どこかからの呼び声だ。

 そうだとすれば、いかな銀河の星々を駆けるアルファイターといえど、手の出しようがない。それに――

 エイトは今、なのだ。

「テヤァァッ!」

 気合を纏ったエイトの拳が、暗黒の宇宙に炎の軌跡を描く。摩擦もなく音もなく、邪悪の傀儡くぐつに叩き込まれるのは怒りを宿した灼熱の一撃パンチ

 たちまち爆散する一体に続き、二体、三体と敵の機械兵士がエイトに襲いかかってくる。瞬速の回し蹴りでエイトは数体を同時に撃破し、さらに宇宙の虚空から迫り来る幾十体の新手に照準を定めた。

「エメラルド・エイトシュート!」

 エイトが言霊ことだまを叫ぶや否や、光なき宇宙に閃光炸裂。十字に組み合わせた両腕から放たれる光波熱線の奔流が、並み居る敵を爆炎とともに元素の塵に還元する。

 だが、それでも戦いは終わらない。小惑星に偽装された敵の機械化前線基地から、幾百、幾千の機械兵士が尚も出撃してくるのだ。

「敵は多いな、エイト!」

 エイトと同じく幾十体の敵を一度に爆散させてから、戦友のアルファイター・マイトが彼の近くに寄って念波テレパスで囁きかけてきた。

 爆発力の巨神、マイト――MAX星雲とは異なる星系出身のアルファイターであり、自らの故郷の惑星ほしを守ったあとは、銀河の風に吹かれて気ままに戦いの旅を続けている熱い男だ。

 マイトと背中を合わせて頷き合い、エイトは無数に襲来する敵の軍勢を見上げる。

「エイト、あれは何だ」

 その時、宇宙の彼方を指差して念波テレパスで呼びかけてきたのは、エイトがこの場で共闘していたもう一人の仲間。慈愛の巨神、アルファイター・ラジアンス。彼もまた、自らの出身の星系に平和をもたらし、その後は巨悪を追って宇宙を駆ける銀河の旅人となっているのである。

 ラジアンスの指す先をエイトが見やると、そこには――

 遥かな星空の彼方に、巨大な「渦」がぽっかりと口を開けていた。

 数多の星雲を股にかけて戦い続けるアルファイター達にも、未だかつて見たことのない存在。可視光、重力、電磁力――宇宙のあらゆる常識を捻じ曲げる形で、ただ厳然とそこにある正体不明の渦。宇宙で音など聴こえる筈がないのに、それはまるで轟々と唸りを上げているようで。

 ――あれはまさか、別次元へのワームホールか。

「まさか……助けを求める声は、あの向こうから」

 並み居る敵を格闘と光線で蹴散らしながら、エイトは誰にともなく呟いた。

「なんだ、声って」

「お前達には聞こえなかったのか。誰かが俺を呼んでたんだ」

「行ってみなよ、エイト。この宇宙は僕達に任せろ」

 ラジアンスとマイトがそれぞれに拳を突き上げ、エイトの出立しゅったつを促してくる。その周囲を無尽蔵に取り囲む敵の群れも、彼ら二人なら取るに足らないだろう。

「よし、行くか。どこかの誰かを救いに」

 エイトは鋭い光の手刀で目の前の敵どもを斬り払い、二人の戦友に頷いて、謎の渦の中へと果敢に飛び込んでいった。


================


 ――その惑星ほしは、滅びへと向かっていた。


 全世界の主要都市上空に突如現れた巨大な円盤により、男達は時空の彼方へと連れ去られ――各地に残されたのは、戦うすべを知らぬ女子供ばかり。

 僅かに拉致を逃れた男達の中でも、果敢に航空機を駆って円盤に戦いを挑む者は、皆、見せしめとして血祭りに上げられた。

『この放送を見ている全ての人間どもに告ぐ――この星は既に我々侵略連合の支配下に置かれた。全ての武器を捨て投降せよ。女子供は貴重な労働力として殺さず生かしてやる』

 文明圏を覆う全ての情報ネットワークには、朝から夜まで侵略宇宙人の哄笑が木霊し、投降を拒んだ街は巨大な尖兵怪獣の炎に焼かれていく。

 この星にもはや希望は残されていないかに思われた。だが――

 ――そんな絶望の淵だからこそ、諦めず立ち上がる者達がいた。


「目標、十二時方向の巨大怪獣! 全機散開!」

了解アイアイ指揮官センター!」

 摩天楼の森に暴虐の限りを尽くす巨大怪獣を照準レティクルに収め、達の駆る六機の戦闘機ファイターが白い航跡を描いて青空に散らばる。

「ユーコとマリーは煙幕弾スモークを投射! マハル、トモ、手筈通りに陽動を!」

「オーケイ……!」

 風上に位置を取った二機が狙いを定めて煙幕弾を投下し、敵の視界が朦々もうもうと立ち込める煙に覆われる。怪獣が天をく咆哮を上げた時、後方に回り込んだ二機がすかさず機銃を掃射した。

 濁流の如く叩き込まれる銃弾を鋼の皮膚で跳ね返しながら、敵は苦悶の咆哮を発する。

「カミナ、今だ! ぶち込め!」

了解アイ、センターっ!」

 茫漠ぼうばくたる雲海を縫って怪獣の頭上に接近した一機が、その頭部めがけて四発のミサイルを同時に撃ち込む。

 着弾、炸裂。激しい火花とけたたましい爆音を上げて、邪悪の怪獣が苦しげな呻き声とともに炎の海に飲まれる。ずしん、と地響きを立てて、その巨体がアスファルトの大地に崩れ落ちる。

「よっしゃぁ!」

 僚機に指揮を出していた「彼女」は勝気な笑みとともにガッツポーズを決めた。だが、その矢先――。

「危ない、アッカ!」

 仲間の鬼気迫る交信がシステムを通じて彼女の鼓膜を刺す。彼女が索敵装置レーダーに新たな敵を示す光点を捉えた時には、既に遅く――

「アッカぁぁ!」

 ユーコの、マリーの、マハルの、トモの、カミナの悲痛な交信さけびが同時に彼女の機内に反響し、そして。

 敵の戦闘円盤の放ったビームが、キャノピー越しの彼女の視界を薄紫に染める。

 ――わたしが、死ぬ……!?

 瞬間、目に入るのは、コクピットに貼られた一人の男性の写真。敵軍の大襲来の日まで、彼女達を厳しくも優しく導いてくれた、タク隊長の朗らかな笑顔。

 ――そっちに行けるなら、悪くないか。

 自機のエンジンが上げる爆音を聞き、彼女の機体が落下に転じる――その刹那。

 ふわり、と、自分の身体が浮き上がるのを彼女は感じた。

「……?」

 視界の遙か先で、今の今まで自分が乗っていたはずの戦闘機が、炎の航跡を引いて爆発四散する。……自分はいま、どこに?

 全身を包み込む暖かな光。これが天国からのお召しか。

 浮遊感のなかで彼女が顔を上げた、その先には――

 輝く瞳でこちらを見下ろす、巨神の姿。

「……アルファイター?」

 神話か、迷信か、子供の信じるおとぎ話か。誰もがその名を知りながら、実際に見た者は誰一人としていなかった存在。

 光の巨神、アルファイターが彼女を見下ろしている。

「これは、夢……?」

『夢なんかじゃねえ。詳しい話は、コレを片付けた後でな!』

 巨神の「声」は言語の概念を超えて彼女の頭に直接響いた。ふわっ、と、自分の身体がどこかのビルの屋上に置き去りにされた時、初めて彼女は、今まで自分が巨神の手のひらの上に居たことに気付いた。

「テエェリャアアッ!」

 空を震わす掛け声を発し、巨神は風を切って敵の戦闘円盤に向かっていく。円盤が放つビームをいとも容易く弾き返し、巨神の放つ必殺の光線が一瞬のうちに円盤を爆散させる。

 くるりと振り向いた巨神が飛び蹴りの姿勢で突っ込んでいく先には、よろよろと身を起こし、殺意に満ちた咆哮を上げる先程の巨大怪獣の姿。

 決着は今度も一瞬だった。炎を纏った巨神のキックが、一撃で怪獣の身体を粉々の残骸に変えたのだ。

 ビルの上で、あまりの光景に目を見張っていた彼女の前に、ぬっと巨神の巨大な顔が迫る。

『怪我はないか。まあ、俺様が救ったんだから、無いはずだがな』

 頭の中にちかちかと響く巨神の「声」に、彼女が思わずこめかみを押さえていると――

『おっと、悪い悪い』

 ぱあっと巨神の姿が光に包まれ、彼女の眼前から消える。彼女が暖かな気配を感じて振り返ると、風の吹き付けるビルの屋上、彼女から僅か数メートルの距離に、懐かしい男性の姿が軍服を着て立っていた。

「……タク、隊長……?」

「俺はアルファイター・エイトだ。お前の乗り物に貼ってあった写真から、この人間の姿を拝借した」

 彼女は男の言葉に目を見張った。顔も声もタク隊長なのに、纏っている空気が全く違う。

「俺を呼んでいた声は、お前か?」

 あの巨神が「変身」したらしきその男は、彼女を指差してそう尋ねた。


================


「……ナルホドな。戦える男が皆、敵に連れ去られ、お前達は女だてらに必死の抵抗を続けてたってワケか」

 慣れない人間の身体の声帯を震わせ、エイトは現地の戦乙女いくさおとめ達の様子を見回しながら言った。現地の知性体の姿をトレースして「人間体にんげんたい」に化身する能力は、「輝きのその」の聖戦士に列せられる際に先輩達から教えられてはいたが、エイトがこの力を使うのは初めてだった。

 エイトが先程救ったアッカという少女を中心に、六人の少女は揃いの軍服を着崩した姿で、戦闘機の駐機場ガレージの思い思いの場所に腰掛けている。この惑星ほしの人間の寿命がどのくらいなのかエイトにはわからないが、見た限り、彼女達はいずれも大人のなりかけといえる年代のようだった。

「女だてらとか、言わないでくれる。アルファイターだか何だか知らないけど」

「カミナ、やめなよ。この人はアッカの命を救ってくれたんだよ」

「でも、あたしもイヤだな。タク隊長の姿を勝手に使われるのは」

「もう、マリーも……。いいじゃない、隊長にもう一度会えたと思えば」

「トモ、本気で言ってる!? 隊長は隊長一人だけだよ!」

 目の前で今にも掴み合いのケンカを始めてしまいそうな少女達を見て、エイトはどう言葉をかけたものか逡巡した。自分がこの男の姿を借りてしまったことが元凶ならば、その自分が偉そうな顔で止めに入っても火に油を注いでしまうだろう。

 特定の惑星に駐在した経験のないエイトには、現地人の姿を借りるということの勝手がイマイチわからないのだ。

 はっきりとわかるのは、彼女らにとって「タク隊長」が本当に大事な人間だったのだということくらい。

「あー……。俺が『タク隊長』の姿を使うのが気に入らないなら、他の男の写真かなにか見せてくれ。外見のサンプルがあれば化身できる」

 エイトが言うと、少女達は一様に微妙な表情を見せた。……そんな中で、アッカだけが彼の前に歩み出て、じっとその顔を見上げてくる。

「……いい。そのままの姿でいて」

「ちょっと、アッカ!」

「偽物でもいいよ。隊長の目があると思えば、わたし達も無様な姿は見せられないでしょ」

 気丈さを取り繕うような顔でアッカが言い放つ。仲間達は誰もそれに反論することができないようだった。

 一触即発の空気がなんとか去ってくれたのを見てとり、エイトは一同に視線を巡らせて本題を切り出す。

「俺が気になってることはただ一つ。次元を超えて助けを呼ぶ声を、俺は確かに聴いたんだ。お前らが俺を呼んでたんじゃないのか?」

 だが、アッカ達は互いに顔を見合わせ、首をかしげるばかりだった。

「……誰か、この人のこと呼んだ?」

「わたし、呼んでない」

「わたしも」

「ボクが呼んだんだよ」

 と、そこで駐機場ガレージに突如飛び込んでくる新たな声。エイトが視線を上げた先に立っていたのは、アッカ達よりもずっと年少の男の子だった。

「シュン!」

 アッカがたちまち心配そうな顔になり、彼に駆け寄る。シュンと呼ばれたその男の子が彼女を「お姉ちゃん」と呼び返すのを見て、エイトは二人の血縁関係を悟った。

 少女達の輪の中に入ってきたシュンは、その手のひらにようやく収まるサイズの、黒光りする謎の球体を手にしていた。

「ボクが、この球にお願いしたんだ。アルファイターを呼び出して、この惑星ほしを救って、って」

「何、これ……?」

 少年の片手に載った球体を、アッカ達は不信の目で覗き込んでいる。エイトにもその物体の正体は皆目見当がつかなかった。その球に願って自分を呼び出したとは、どういう意味だろう。

「お兄ちゃん、アルファイターなんでしょ?」

 シュンの目が突然エイトに向けられる。今度の「おにいちゃん」が血縁者ではなく年上の男性を指す意味であることは、「タク隊長」の言語中枢を通じてエイトも知ることができた。

「ああ。アルファイター・エイトだ」

「ほら、やっぱり! ボクが呼んだから、アルファイターは来てくれたんだよ」

「ちょっと、シュン。意味がわからないわよ。ちゃんと教えて」

 姉のアッカに迫られ、シュンは子供ながらに得意げな表情になって答える。

「昨日の夜、裏山に流れ星が落ちたみたいに見えたんだ。だからボク、行ってみたら、この球が光ってて」

 シュンが姉に球を差し出した、次の瞬間、周りを囲む少女達はわっと驚きの声を上げた。

 それがアッカの手に渡った瞬間、ぼうっと球が黒く輝き、そこから立ち上るように一人の少女のホログラムが浮かび上がったからだ。

 この惑星ほしの人間と同じ容貌。黒く艶やかな髪を肩の下まで垂らし、静かな笑みを浮かべる少女。どこか機械的に整えられた前髪が、白い額を絶妙な角度で覆っている。

「あなたの願いをお聞かせください。一人に一つ、どんな願いでも叶えて差し上げます」

 ホログラムの少女が唇を動かし、アッカ達と同じ言語を発声した。

「人間……?」

「いや。精神感応でそう見せているだけだ」

 エイトは瞬時にそのホログラムのからくりを見破っていた。今は「タク隊長」の眼を通して見ているから黒髪の少女に見えるが、もしエイトが本来の視界で同じものを見れば、おそらくそこにはMAXマックス星雲人の女性の姿が映るのだろう。

「このお姉ちゃんだよ。このお姉ちゃんに、ボク、願い事を言ったんだ。アルファイターをこの惑星ほしに呼んで、って」

 シュンの言葉に、ホログラムの少女がコクリと頷く。

 エイトには、にわかに信じがたい話だった。並行宇宙パラレルスペースに自在に干渉する技術など、彼の故郷の「輝きのその」にもない。それなのに……。こんな小さな球が、ただ子供が願ったというだけで、次元の壁を超えて自分おれをこの世界に呼び寄せただと――?

「お前は一体、何だ。この球は何なんだ」

 エイトが「タク隊長」の声を借りて発した言葉に、ホログラムの少女は悪戯っぽい顔を作って微笑む。

「わたしはマヤヤ。わたしを生み出した文明圏の言語で『偶像』という意味です」

「偶像……。祈りを捧げる対象、ってワケか」

 控えめに頷いて、少女は言葉を続けた。

「わたしを意思疎通端末インターフェースとする、この結晶体は……遠い遠い昔、ここではない宇宙の文明圏で生み出された、知性体ひとの望みを叶えるデバイスです」

「望みを、叶えるだと……?」

「はい。宇宙の因果律に干渉し、あらゆる望みを叶える――わたしを生み出した文明は、物質世界における究極の到達点を極めていたのです。……しかし、その文明は、わたしを生んだために滅びました」

 少女が切ない表情を作って言い切った言葉に、アッカ達はハッとした表情で目を見張っている。カミナやユーコらが「どうして?」と驚きの声を上げる中、エイトには続きを聞くまでもなくその理由がわかっていた。

知性体ひとの欲望に限りは無いから……か」

「そうです。知性体ひとはわたしという偶像に祈りを捧げ、数多くのものを呼び出しました。美しい花を。豪華な服を。見目麗しい宝石を。贅を尽くした食べ物を。天を駆ける乗り物を。意のままになる奴隷を。広大な宮殿を。異国を滅ぼす兵器を。異国から身を守る兵器を。その兵器を破壊する兵器を。世界を支配する兵器を。星ひとつを壊滅させる兵器を。恒星系の全域に支配を及ぼす兵器を。それをも打ち破る兵器を」

 ごくり、と少女達が息を呑むのが伝わる。シュンも何かを怖がるような顔でそっと姉の後ろに隠れていた。駐機場ガレージに神妙な空気が立ち込めたところで、だしぬけに、少女が球を手にするアッカに向かって言う。

「あなたの望みは?」

 アッカは、えっ、と小さく呟いたきりで、何も言えないようだった。

 他の少女達も黙りこくったままアッカとホログラムの少女を見据えている。それはそうだろう、とエイトも思った。あんな話を聞かされた後で、無邪気に自分の望みを言える者などいるはずがない。

「……望みがありませんでしたら、わたしは、他の方のところへ行かねばなりません」

「あっ」

 ホログラムの「少女マヤヤ」の台詞を最後まで聴き取った瞬間には、もう、黒い球体はアッカの手の上から消え去っていた。

「……ってことらしいんだけど。アルファイターさん」

 少女の一人、マリーが、呆然とした顔になんとか苦笑いのようなものを作ってエイトに言った。

 エイトは黒い球体を生み出した文明圏のテクノロジーと、その文明が辿った末路に若干の寒気を覚えながら、それでもこの惑星ほしの少女達に何か明るい言葉をかけようと考えた――その矢先。

 けたたましいサイレンの音が、突如、ガレージ全域に響きわたった。

「怪獣警報……!」

 少女達の表情が、たちまち戦士のそれへと変わる。

「行くよ、皆!」

「でもアッカ、アンタの機体は――」

「……わたしには、タク隊長の遺してくれたあの機体がある」

 駐機場ガレージの奥を見やってそう言い切ったアッカが、続けてシュンに「絶対ここを動かないのよ」と言いつける横で、ユーコが、マリーが、マハルが、トモが、カミナが、次々とヘルメットを手にして各々の愛機へと向かっていく。

 エイトもまた敵の襲来を察知していた。「タク隊長」の姿を借りても消えないアルファイターとしての本能が、巨大怪獣の出現を肌で警告している。

「待て、せっかく俺が来たんだ! 戦いは任せて、お前らは大人しくしてろ」

 エイトは彼女らの出撃を止めようとしたが、先程真っ先に噛み付いてきたカミナが、今度も鋭い剣幕で彼に言い返してきた。

「ざけんな! この惑星ほしはウチらの星なんだよ。ウチらが戦わないで誰が戦うんだ!」

「だから、それは俺が――」

 なおも皆を制止しようとするエイトの前に、立ちふさがったのはアッカだった。

「アルファイター。助けてもらって感謝してるけど、わたしは何度だって戦いに行くよ。最後まで諦めるなって、タク隊長が教えてくれたから」

 他の五人が手慣れた様子で戦闘機に乗り込む中、先の戦いで乗機を破壊されたアッカだけは、この駐機場ガレージのさらに奥の格納庫へと駆け込んでいく。

 力ずくで止めることは容易いが、なぜかエイトには彼女らを黙って見送ることしかできなかった。

 戦闘機群はたちまち滑走もなく空へ舞い上がり、白い航跡を引いて飛び去ってゆく。

「……お兄ちゃん」

 残されたシュンが不安げにエイトを見上げてきた。もちろん、このまま黙って見ていることなどできない。

「約束するぜ、シュン。お前の姉ちゃん達は、この俺が絶対、ひとりも死なせずに連れて帰る」

 エイトは人間体にんげんたいの化身を解くための眼鏡グラス蓄光器カプセルを取り出し、シュンの前で力強く頷いてみせた。

 この惑星上で得られる光エネルギーは限られているだろうが、やるしかない。

 アッカ達の度胸と使命感には正直、感服させられたが――あんな小さな身体と貧弱な乗り物で、巨大怪獣や侵略宇宙人の円盤相手に何ができるというのだ。

「シェエリャアッ!」

 閃光一瞬、彼のかざした眼鏡グラスから溢れる光の煌めきが、彼の実体をかりそめの身体から本来の巨神の身体へと変える。

 希望と驚きに満ちた視線で自分を見上げてくるシュンに、軽やかに親指を立ててみせてから、エイトは音をも追い越す速さで青空へと飛び立った。

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