WINTER TRIBUTE to 平成バイカー ~Z財閥の野望~
映画
『WINTER TRIBUTE to 平成バイカー ~Z財閥の野望~』
(201X年12月公開)
◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆
鋼の
冷たく頬を刺す人工都市の息吹。メットのバイザー越しに広がる無機質な夜景。
――この街の全てが、今や「敵」の勢力圏内。
「『Z財閥』の魔の手は既に街の隅々にまで広がってやがる。ワトスン、こいつは厳しい戦いになるぜ」
バイクを飛ばしながら「彼」は無意識に呟き、それから初めて、はっとその言葉を自分の中で飲み込んだ。
いつも通信の向こうで生意気な口を叩いてきた
「……そうだったな、ワトスン」
バイクのインストゥルメント・パネルの
十を下らない追手の数。耳に響く自分のマシン以外のエンジン音。ミラー越しに目に映るのは、しっかりと「変身」を終えた敵の戦闘バイク部隊。
「今は俺一人が――」
敵の部隊が撃ち出してくる火球を、「彼」は巧みなトライアルテクニックでかわしていく。
今の「彼」には変身はできない。助言をくれる相棒もいない。だが。
「――バイカーマスク・シャーロックだ」
たった一人でも、この街を守る。
相棒の形見の
================
「うおっ! 何だこの
スマホの画面に突如映った「電子の歌姫」のあどけない笑顔に、
「こら、授業中に何見てる。没収」
教師が弧次郎の手からスマホを取り上げ、クラスメイトが一斉に大笑いする。
だが、弧次郎にはその後の授業など上の空だった。まあ、いつもだって、まともに授業を聞いているとは言い切れないのだが――。
どうせ聞いてもわからない数学の難解な説明などよりも、彼の頭を占めるのは、一度見たら瞼の裏に焼き付いて離れない「歌姫」の微笑みだった。
「
放課後、やっと返却されたスマホの画面を見てニヤけていた弧次郎に、部室の仲間達は口々にからかいの言葉を述べてくる。
「恋って言っても画面の中じゃねー。不良みたいな見た目してるくせに、弧次郎って案外オタクだったの?」
「何言ってんだ、お前ら。
弧次郎が指さす画面の中には、緑色の長い髪を揺らし、笑顔を振りまいて歌い踊る「歌姫」の姿。時折こちらと視線が合うと、「彼女」はにこっと微笑んでウインクを飛ばしてくる。
「弧次郎。AIっていうのは、そもそもデータのカタマリだ。彼女は生きてないし、意思も持っちゃいない」
親友は彼の恋心に水を差してくるが、弧次郎のハートは微塵も揺るがない。
『弧次郎さん、応援ありがとうございますっ』
電子の歌姫が曲を歌い終え、名指しで彼に笑いかけてきたとき、彼の恋心はいよいよ頂点に達した。
「リューキ、教えてくれっ。彼女を画面の中から出す方法をっ」
「そんなものあるか!」
「じゃあ俺が中に行く方法でもいい。天才のお前なら何かあるだろっ」
「目を覚ませ、弧次郎。こんなの、ちょっと自律学習の性能が高いだけの、ただのプログラムだ」
親友のリューキと押し問答する弧次郎の姿を画面越しに見て、電子の歌姫はにこっと笑う。
『弧次郎さん。待っててくださいねっ。わたし、もうすぐ外の世界に出られますから』
「なにっ。ホントか、
「真に受けるなよ。AIが端末の外に出てくるなんてありえない」
リューキや他の仲間達に揃って呆れ顔を向けられ、弧次郎がガルルッと唸って彼らを見回していると――。
突如、部室に鳴り響く甲高いサイレン音。
『エクリプス発生。バイカーマスク・スペーシアン、出動ターイムっ!』
スピーカーから溢れる懐かしい声が弧次郎達の鼓膜を震わす。昨年、「
一年前までの弧次郎は、この録音がスピーカーから流れるたび、平和な学園生活を離れ、「もうひとつの顔」になって悪と戦っていたのだ。
「どうなってる、リューキ。ヤツらは滅んだんじゃなかったのか」
「わからない。だが、俺の開発したエクリプス・レーダーに誤りはない。見ろ、ネットはもう怪人の目撃情報のツイートで一杯だ」
弧次郎は親友が差し出してくるスマホの画面になど目もくれず、がたっと立ち上がって部室を飛び出していく。
「弧次郎! どうするつもりだ!」
慌てて追いかけてくるリューキら仲間達に、返す言葉ももどかしい。
「決まってんだろ。戦いに行くんだよ!」
「だが、君はもうスペーシアンの変身ベルトを持っていないんだぞ!」
「そんなの関係あるか。学園の平和が脅かされてるなら、放っておけねえ!」
弧次郎が校舎の外に飛び出すと、そこは既に怪人の魔の手に侵されていた。倒したはずの「
「トリャアアァ!」
後先考える時間も惜しみ、弧次郎は生身で怪人達に飛びかかっていた。鍛えた拳が、足が、怪人どもの身体を何度も捉える。だが、人間の不良相手なら無敗を誇ってきた弧次郎の喧嘩も、戦闘員はまだしも、異形の怪人の前では無力に等しい。
「弧次郎! 無理をするな!」
「クッ……! 諦めるわけにいくかよ……!」
口元の血を拭い、弧次郎は何度も戦場に立ち上がる。正義の使命もさることながら、今の弧次郎には、カッコ悪いところを見せられない相手がいる。
――と、その時。
ぱるぱるぱる、と音を立てて、一台の原付スクーターが弧次郎と仲間達の前に滑り込んできた。
「コジロー!」
ヘルメットを取り、ロングの黒髪を風に晒したのは、他校のセーラー服の上に胡散臭い白衣をまとった永遠の親友。
群がってくる敵の
「フミカ!」
弧次郎が驚き叫ぶが早いか、彼女はバイクのメットインから取り出した「それ」を彼の手元に投げ渡してきた。手を触れただけで果てしない宇宙の力を感じる、その目新しくも懐かしい物体を。
「
「これでもう一度戦えるってわけか!」
フミカやリューキ達に囲まれてベルトを巻きながら、弧次郎は自分の心と身体に
友情と書いて永遠と読むのが彼の辞書。離れ離れになっても失われてはいなかった。友との絆も、戦う力も。
「フミカ、ありがとよ。皆――行ってくるぜ!」
「負けるな、弧次郎!」
学ラン越しに腰を締め付ける変身ベルトの重い感触。スイッチ操作に反応し、エネルギーが満ちていく高揚感。そうだ――
『弧次郎さん、ヒーローだったんですか!?』
学ランの胸ポケットに仕舞ったスマホから「歌姫」の黄色い声が響く。ふふん、と胸を叩いて、弧次郎は叫ぶ。――見てろよ、
「青春変身ッ! バイカーマスク・スペーシアン!」
ベルトから解き放たれる宇宙の力が、彼を無敵の戦士へと変える。
視界に群がるのは無数の「
「喧嘩上等! 行くぜぇ!」
背面の
さあ、
================
どことも知れぬ海岸線、砂浜を焦がす魔法の火花。
叩き落とされたドーナツの袋をぐしゃりと乱暴に踏みつけて、「敵」が
かつて倒した筈の魔物。再び冥界の門を通り、現世に蘇ってきたか。
「よくも……俺が楽しみに取ってたドーナツを」
瞬間、彼の腰に現れるのはベルト型の魔道具。
「死ねっ、魔道士!」
敵が撃ち出してくる火球を、腰の
爆炎払いて姿を現すは、光り輝く宝玉の仮面、
「バイカーマスク・マジカル――
「小癪な!」
魔物の振るう大鎌が砂浜を薙げば、疾風一閃、そこに魔道士の影はない。
「
中空で一転して敵の背後に回り込み、
巧みな剣さばきで繰り出されるは、竜の炎纏いし必殺の斬撃。
魔物は炎の中で断末魔を上げ、敢えなく爆散して果てる。一度倒した相手など、魔道士の敵ではない――。
ふう、と
「
「っ、ぐあぁっ!」
衝撃に吹き飛ばされ、変身解除された
「久しぶりね。魔道士さん」
邪悪な気に満ちた、女の声。
倒したはずの強敵。終わったはずの戦い。フードで顔を覆っても、隠しきれない狂気が
「お前は『
「『財閥』が瀕死のわたしを救ってくれたのよ。そして、『財閥』は、わたしにもう一度……
「何だと?」
悠長に話を聞いている余裕などない。
だが、銀の弾丸は敵に届く寸前に時空の渦に飲み込まれ消えてしまった。目を見張る
「魔導変身!」
再び宝玉の仮面に素顔を隠し、強化された身体能力で彼は跳び上がる。銃を剣に変化させ、「
「ホホホホッ、無駄よ、無駄」
高位魔法か。向こうはこちらに干渉できるのに、こちらの攻撃は霧を掴むようで、まるで当たらない――。
敵の爆炎をもろに食らい、彼は再び変身を解かれて砂浜に倒れ伏す。
「そこで転がっていなさい、魔道士。これから起こる奇跡の儀式に目を見張りながらね」
「……儀式、だと……」
オホホホ、と
================
いつもは晴れ渡る空に希望の風が吹くこの街も、今は「敵」の悪意に満ちた不穏な空気を湛えている。
バイクを停めてメットのバイザーを上げ、悪に占拠されたセントラルタワーを見上げて、「彼」は高ぶる戦意に拳を握った。
「おやおや、これはこれは。
突如、黒ずくめの男が多数の黒服を引き連れて彼の前に現れた。これまで幾度も対決しては取り逃がしてきた相手――死の商人「Z財閥」の幹部の一人だ。
「一般人に戻った君が、社会科見学かね?」
「ざけんな。俺が
敵の姿を睨みつけながら、「彼」――風島ジョーは懐に仕舞った
「我々に楯突くつもりか。一介の私立探偵に何ができる?」
黒ずくめの男がフンと鼻で笑う。その肩の向こう、街を見下ろすセントラルタワーの中心部から、「闇」を具現化したかのような瘴気の渦が立ち上り始め、やがてタワーを中心に街を覆い尽くす巨大なエネルギーの円が形成されていく。それはまるで――悪魔を呼び出す魔法陣。
「これは……!?」
ジョーがその光景に目を見張っていると、いつのまにか、タワーを目掛けてやってきた幾人、幾十人もの街の人々が、彼と黒ずくめの男達の周りを取り囲んでいた。
「ミオンちゃん……やっと……」
「やっと……会える……」
虚ろな目をして口々に呟く人々の手には、一様にスマホが握られ、その画面の中には緑の髪を揺らして笑顔を振り撒く少女の姿があった。
「おい、何だこれは」
ジョーが思わず敵に問いかけると、黒ずくめの男は、にやりと笑って答える。
「我が財閥がAIテクノロジーを駆使して生み出した『電子の歌姫』……そのファーストライブだよ。見るがいい!」
男が高々と腕を天に掲げると、タワーから広がる闇の魔法陣の中心に、人々のスマホの画面に映っていたのと同じ少女の姿がふわりと浮かび上がったではないか。
うおおぉぉ、と街の人々が光を失った目で歓声を上げる。ミオン、ミオン、と、その少女の名らしきものを呼ぶ声が周囲に響き渡る。
「おい、お前ら、何なんだ、目を覚ませ!」
ジョーが手近な人の肩を揺さぶって掛ける必死の声は、タワーの上層から降る黄色い声にかき消された。
『みなさん、
「ウオオォォ!」
人々の叫びの中で、ジョーは
と、そこで。
人々の絶叫をも塗り潰す、二つのエンジン音。
「むっ。新手のご来場か」
黒ずくめの男が不敵に笑う。ジョーが視界を向けた先には――スペースシャトルを思わせる白いバイクに跨った学ランの若者と、ドラゴンの意匠を
「ほっほう。我々の計画を嗅ぎつけてきたとはな、バイカーマスクの諸君」
それぞれの闘志を全身から立ち昇らせ、二人の男がバイクから降り立った。
「てめぇら!
弧次郎は知っている。この状況が「彼女」の本意ではないことを。
学園に現れた怪人軍団を蹴散らし、スマホの画面の
――わたしは、もうすぐ現実世界に召喚されます。その時が、弧次郎さんとのお別れの時ですね。
なぜ、現実世界に現れるのが別れの時なのか。その理由を弧次郎は賢い親友達に諭されて知っていた。「彼女」は――電子の歌姫・
『……弧次郎さん』
虚ろな目の
『わたし……消えたくない』
「何をさせるつもりかだと? はっはっ、知りたいなら教えてやろう。愚鈍な国民どもを、我が財閥のAIの支配下に置き――この国を我らが支配する理想郷に生まれ変わらせるのだよ!」
黒ずくめの男が歪んだ自信に満ちた声で上げる高笑い。弧次郎はその内容などろくに聴いてはいなかった。彼の熱いハートに燃える思いはただ一つ――「彼女」を泣かせる奴は、自分が許さない!
学ランの若者と黒ずくめの男のやり取りを聴き、
自分の目が黒い内に、そんなことをさせてたまるか――。
「『
呼ばれなくとも――。そう言いたげな笑みをにたりとローブの下に浮かべ、彼らの眼前、狂気の女が揺れる
黒ずくめの男と並び立ち、女は若者達を睥睨した。
「魔道士ふぜいが、今さら何をしても無駄よ。既に、街の人々の生気を『歌姫』に集める術は発動している。そして、あの魔法陣は、冥界の……愛しい
「目を覚ませ、『
「そう……わたしだけの力では無理だった。だけど、『財閥』の力が合わされば別。『歌姫』を生み出した『財閥』の科学と、わたしが古文書より再現した闇の魔術――二つの力が合わさった今、カレンは今度こそ、この世に蘇る!」
何かに取り憑かれたような目で語る「
「てめえの娘を生き返らせるのに、
「そう、街の人々の命を媒介に、『歌姫』は現世へと顕現するの。わたしの愛しい娘の魂を宿した、現実の肉体を持ってね!」
命を弄ぶ魔女の所業に、
「『
「意味ィ……? 意味はあるに決まっているわァ! カレンに、本物のカレンにもう一度会えるならねェェ!」
生きながら地獄に堕ちた女の高笑いを聴きながら、
彼の脳裏に去来するのは、偽りの命を与えられながらも自分を慕ってくれた、在りし日の
そして、悪魔と化した女は今、今度はカレンの本当の魂を冥界から呼び戻すために、再び多くの人の命を犠牲にしようとしている――。
絶対に許せない。これ以上、悲劇の連鎖を繰り返させてはならない!
Z財閥。社会の闇に紛れて暗躍する悪魔の結社。これ以上、この街を彼らの好きにさせるわけにはいかない。
「おい、お前ら。どうやら、奴らは俺達の共通の敵ってことらしいぜ」
ジョーが二人に呼びかけると、彼らもこくりと頷いて応える。並び立つ三人の男達――同じ悪に立ち向かう英雄達の間に、もはや言葉は要らない。
「無駄だ、バイカーマスクども! 今や儀式の準備は万端、やれ、『
「闇の魔力よ――我が愛しきものを蘇らせたまえェェ!」
魔女の詠唱に呼応して、タワーの上の「歌姫」が大きく両手を広げる。虚ろな目をした街の人々が、生気を吸い取られ始める――。
「やめろぉぉ!」
英雄達は「魔女」に生身で駆け寄り、儀式を止めようとするが、「財閥」配下の黒服達が彼らの行く手を阻んだ。
こうなったら生身の人間相手でも変身するしかない。
突如、天地をうがつ緑の稲妻が、「歌姫」の身体ごとタワーを撃ち貫いた。
突然の衝撃に身構える男達の前で、「財閥」幹部の男が愉悦に満ちた高笑いを上げる。
「電脳世界と現実世界のゲートは開かれた! いでよ、
雷光の中で、「歌姫」が苦悶の表情を浮かべ――そして、その華奢な身体が粉々にはじけ飛ぶ。
「ミオォォォン!」
弧次郎の絶叫がその場に響き渡った。
「歌姫」の身体を構成していた粒子の残骸は、タワーの上空から同心円を描くように地面に散らばり――一体、また一体と、その落下地点から怪物が立ち上がる。
ジョーと
「ふはははっ! 電子の海に記録されていた悪の同胞達が、今、現実の肉体を得て蘇ったのだ!」
「そんな……これは……!」
驚いているのは彼らだけではなかった。「
「わたしの娘は! カレンはどうしたのよォ!」
「馬鹿め!」
突如、男の片腕が人ではない何かに変わり――「
「がはっ……!」
迸る鮮血の海の中、狂気の女が崩れ落ちる。
「……だ、騙した……わね……!」
「そう、貴様の娘を生き返らせると言ったのは嘘だ。よもや本気で信じていたわけではなかろう? 我々『Z財閥』が約束を守るなどとな!」
「よくも……」
怒りと絶望に目を見開き、「魔女」が男の足を掴んだまま動かなくなる。その身体はやがて土塊のような何かに変わり、風に吹かれて消えた。
「お前……仲間のことまで騙していたのか……!」
戦慄の中、ジョーが言葉を絞り出すと、男はちっちっと指を振ってそれを否定する。
「仲間? 我が財閥にそんな概念はない。あるのはただ手駒のみ」
「ふはははっ! 電子の歌姫が人々に与える希望も、『
生気を吸い取られて倒れた人々の背中を踏みつけ、怪人達が進軍を開始する。街の全てを恐怖と絶望に陥れるために……。
だが、それを許さぬ者達がいた。怒りと悲しみに歯を食いしばり、それでも立ち上がる男達がいた。
「
「悲劇の連鎖は繰り返させない。お前達の野望は俺達が止める」
怒りの炎で空気を震わせ、弧次郎と
変身ができなくても後輩に後れは取れない――。ジョーが懐の
とんとん、と、ジョーの背中を叩いてくる者があった。
振り向いた瞬間、彼は目を見張る。己の隣に現れたものの姿に。
「ボク達はZ財閥に感謝しなければならないね、ジョー。彼らが電脳空間と現実世界のゲートを開いてくれたおかげで、ボクも一時的にだけど蘇れた」
そう、彼もまた「歌姫」と同じ科学の子。片時も忘れえぬ相棒の小憎たらしい笑顔が、確かに今、そこにあった。
「ワトスン……お前……!」
「感傷に浸っている余裕があるのかい? 後輩達に後れを取るわけにはいかないよ、ジョー」
すたすたと歩いて弧次郎達に合流する相棒の背中を、ジョーは溢れ出る涙を袖で拭って追いかける。
眼前には無数の敵。絶望の街に並び立つのは、正義の使命に導かれし四人の男達。
財閥の男がにやりと笑い、その身体が
幹部を囲むようにわらわらと群がる怪人達。多勢に無勢の戦場で、ベルトを構える四人の
私立探偵、
熱血高校生、
現代の魔道士、
八つの瞳が巨悪を見据え、静かな闘志に空気が揺れる。
気勢が天地に響くとき、世紀の戦いの幕が開く。
「
「青春変身!」
「魔導変身!」
四つの声が闘志を放ち、三つの身体を光が覆う。
「【俺達/ボク達】は、バイカーマスク・シャーロック。お前の謎は既に暴いた!」
「ビィィィッグ・バン! バイカーマスク・スペーシアン、喧嘩上等だぜ!」
「バイカーマスク・マジカル――希望の涙は俺が止める!」
優しき素顔を仮面で隠し、三人の戦士が巨悪を前に見得を切る。
「おのれ、バイカーマスクども!」
電脳世界から顕現した闇の軍勢――宇宙の怪人が、冥界の魔物が、財閥配下の戦闘員が、徒党を組んでヒーロー達の前に立ち塞がる。
だが、その程度の数の暴力に怯む彼らではない。
気合を込めて駆け出せば、三つの身体は
戦陣深く飛び込めば、四つの闘志は
「トランプ・スパイラルキック! トアァァッ!」
「バイカー・星雲大回転キィィィック!!」
「
戦場に閃く三条の流星。
「潰せェェ!」
敵の怒号が天を
戦士が巧みに武器を振るえば、積み上がるは死屍累々、噴き上がるは爆炎の華。
閃光一瞬、華麗な技が天を舞い、渾身の力が地を駆ける!
「行くぜ、ワトスン! アイアン・バーニングだ!」
風を纏いし俊足の戦士が、一瞬にして、炎を振り撒く鋼鉄の闘士へと姿を変える。
「アイアンロッド! バーニング・スパイラル!」
両端から激しく炎を噴出させ、鋼のロッドは並み居る敵を薙ぎ倒し――
「次はこいつだ。シューター・ルミナス!」
鋼鉄の闘士が中空で一転する間に、その身体は閃光の力を宿せし百発百中の
「シューターマグナム、ロックオン!」
「ルミナス・オールアラウンド!」
ジョーとワトスン、二人の声が重なるとき、閃光の一撃が周囲の敵にまとめて引導を渡した。
「ジョー、そろそろボクにも暴れさせたまえ」
「病み上がりで行けんのか?」
「電脳空間で十分すぎる休養を取らせてもらった。ボクの身体は力を振るいたくて疼いている――来い、
いつになく激しく響いたワトスンの声を受け、地面を割って現れた小型の恐竜が変身ベルトに収まって咆哮を上げる。
「シャーロック――『
「行くぜっ!
仮面に
「
続いて仮面に映るのは、万物を統べる
科学革命の歴史を辿るように、戦士の振るう電撃の棒が敵の怪人を爆散させる。
「コイツを喰らえ!
旅人を導く
「バイカー・サイバネティック・シュート!」
超電磁の
「
水の魔法陣から放たれる冷気が、邪悪の手勢を大地に釘付けにする。ドラゴンの翼で天に舞い上がり、魔道士は水流の
「
竜の怒りが空を駆け、超速の剣戟が数多の敵を塵芥に変える。
災禍を生き延びた敵が一斉に飛びかかれば、彼の姿は既にそこになく。
「ランド・ストリング!」
大地を踏みしめる
「
炎、水、風、大地――四つのエレメントの力を同時に宿した究極の
怪人軍団を蹴散らし、並び立つ三人の英雄に向かって、財閥幹部が変異した
「死ねっ、バイカーども!」
悪の砲声轟けば、着弾点に人影はなく。
炎の中から風を巻いて飛び出すは、三つの弾丸、鋼の
人馬一体、バイカーマスクの名に恥じぬマシンアクションで、戦士達は
「我がZ財閥は、世界の全てを支配するのだァァ!」
ビルをも覆う巨大な怪物と化し、翼を広げ舞い上がる悪の権化。魔物の吐き出す超音波がアスファルトの地面を割り、バイカー達のマシンが爆風に煽り上げられる――。
「フハハハッ! シネェェ、バイカードモォォ!!」
愉悦に浸る魔物の哄笑を掻き消すのは、各々の身に「最強」の力を宿し、マシンを蹴って天へ舞い上がるバイカー達の風切り音。
「シャーロック――ゴールド・アルティメイタム!」
「行くぜぇぇ! オールプラネットフュージョン!」
「ダイヤモンド・ドラゴンクロス!」
その背に広げる正義の翼が、風より音よりなお
「トリプル・シャイニング・バイカーキィィック!!」
雲より高い空に
「馬鹿なっ……Z財閥のナンバースリーのこの私が……バイカーマスクごときにィィィ!」
爆風引き連れ大地に降り立つ戦士達の背後で、遠き空に爆音が轟く。
男達は変身を解き、それぞれの思いを込めて、夕焼けに染まる空を見上げた。
「……
学ランの肩をぽん、と叩いて、
「散った
「……おう。あんた、いいヤツだな」
「まあね」
白い歯を見せて笑い合う二人の横で、ジョーは
「この街は美しいね、ジョー」
「ああ。俺達が守った街だ」
ジョーは言いながら、こみ上げる嗚咽をぐっとこらえる。戦う男の誇りにかけて、後輩達の前で涙は見せられない。
「そして、これからも守り続ける――だろう?」
ふふっと穏やかな笑みを浮かべ、ワトスンは夜の風に融けて消えていく。身体を粒子に分解され、あるべき電子の塵となって。
「忘れないで、ジョー。ボクはこの街の風そのものだ。君が街を愛する限り、ボクの魂もまた、君とともにある」
相棒の声はいつまでも彼の鼓膜に響いていた。その思いを、絆をしっかりと胸に抱き、彼は夜空に呟く。
「……わかってるさ。これは終わりなんかじゃねえ」
「Z財閥」の全てが潰えたわけではない。幹部一人を倒したところで、組織の全容は未だ掴みきれない闇の中だ。
だが、男達の表情はいまや明るかった。何が来ても、何度来ても倒すだけだ。バイカーマスクの名のもとに力を合わせて。
三人の英雄は互いに拳を突き合わせ、いつか訪れる次の共闘を約する。それは冬空に贈る、愛と正義の
――誓おう。散っていった幾多の魂にかけて、この
(END)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。